こうして私はホームレスと結婚した―22年前に出会ったカップルの実話

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イギリスで下着のデザイナーとして、ごく普通の生活を送っていたルイーズ・アシュレイさん。ある日、本屋で出会った男性に興味を惹かれます。しかし、彼は何とホームレスでした。

安定した給料と、近い将来にはマイホーム。多くの女性が結婚相手に求める条件ではないでしょうか。真逆の男性と恋に落ちてしまった彼女の半生は、まさに波瀾万丈です。

現在47歳のルイーズさんが、ジェイソンさんと出会ったのは1991年、彼女が25歳の時。当時住んでいた、イギリス、バースにある本屋でした。ベージュのウールのジャケットを着て、長い髪をポニーテールにしたジェイソンさんが本を読む姿は、ルイーズさんの目を引きました。

目が合うと、ジェイソンさんはルイーズさんに話しかけてきました。年の近い2人はすぐに意気投合。当時まだ町に知り合いが少なかったこともあり、ルイーズさんは彼に、どこかでディナーを食べないかと提案します。

2人はスペイン料理のレストランに入りましたが、彼は何も食べませんでした。それどころが、何だか居心地悪そうにしています。帰り際、家の場所を尋ねたルイーズさんは、ショックを受けます。彼の「家」は、公共の駐車場に停めたシボレー・シベット、つまり車だというのです。

その晩、彼はルイーズさんを彼女のアパートまで送り、家の前でハグをして別れました。ハグの瞬間、「電流が走ったように感じた」というルイーズさん。しかし、もう彼に会うことはないだろうと考えていました。

下着デザイナーとして働いていた彼女の給料は決して高くはありませんでしたが、当時の彼女は快適なアパートでの暮らしに満足していました。

次の日、ルイーズさんは、家の前に置かれた1枚の紙切れに気付きます。「次に会う時は、梯子を持っていくね」―背の高いジェイソンさんから、小柄なルイーズさんへのちょっとしたジョークでした。

ルイーズさんは、彼のことを忘れることができませんでした。そして数日後、例の駐車場に彼を探しに行きます。彼の車はすぐに見つかり、彼はその中で寝袋にくるまって本を読んでいました。

ルイーズさんに気付くと、彼は彼女を招き入れ、2人はお互いの話をしました。ジェイソンさんは車で生活しながら、ガラス掃除のアルバイトで日々の生活費を稼いでいるということでした。

彼がルイーズさんのアパートに転がり込んできたのは、それからわずか数週間後。同棲を始めた2人でしたが、やがてその家賃が高く感じるようになり、一緒にホームレスになるという信じがたい決断を下します。

それは、波瀾万丈な人生の幕開けでした。デザイナーの仕事は続けていたものの、車やテントでの生活は決して清潔なものではありません。彼女の上司は、ロンドン出張に際して「服を変えなさい」と注意し、彼女の家族は頭がイカれたのではないかと心配しました。

4カ月後、彼らは稼ぎをつぎ込んで、1台のキャンピングカーを購入します。しかし、事態はジェイソンさんの体調により暗転―彼はパニック障害を発症してしまったのです。

彼が心の病気を患ったことは、2人とも仕事をやめなければならないことを意味していました。「住所不定無職」となった2人は、ホームレスの人々と並んで道端に座り、カンパを待つ日々を過ごしました。

かつての快適な部屋と、仕事を持った暮らし―それを思い出すと、「自分は何と価値のない人間なんだろう」と感じることもあったと言います。

時が過ぎ、2人に転機が訪れたのは1992年。スコットランドでエココミュニティ(循環型社会)を実践する村に滞在した2人は、画家の夫婦に出会います。夫婦はジェイソンさんのアートの才能を見出し、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれました。

彼らはジェイソンさんの作品を売るという、新しい生活の手段を得たのです。

彼のアートは評判となり、2人の蓄えは夫婦でギリシャに行けるまでになりました。ジェイソンさんの父親が病気になったことで、結局イギリスに帰ってきた2人ですが、その後、さらなる事件が起こります。ジェイソンさんが交通事故に遭ったのです。


ただ、それによって保険金が2人に振り込まれました。

そのお金を元に、2人は作品を売る「ショップ」としてのボートを購入。彼のアートを売り続け、とうとうルイーズさんの祖母宅を購入するに至りました。

自身も詩を書き溜め、2009年には詩集を出版したルイーズさん。その後も、家を売っては買い、を繰り返して移動してきた夫婦ですが、現在はデボンに落ち着き、ギャラリーを持っているということです。

2人の間には、2歳半になる娘がいます。これも、4度の死産を経てからの高齢出産でした。

「思い返してみると、ジェイソンと私の人生の浮き沈みは信じられないものがあります。でも、まだこうして生きています。私たちは完璧じゃない、でも、何かが私たち2人を繋ぎとめている―きっと、それは愛なのだと思います。そして、私はいまだに彼にときめくことがあるんです。もし、あの時私がそのホームレスの男性に背を向けていたら、娘のリモニーは私たちのもとに生まれてこなかったし、私が経験したできごとは存在しなかったでしょう。それとも、別の形で、こんな人生を歩んでいたかしら」

何が起こるか分からない。だから人生は面白い―こんな生き方もあるんだ、と考えさせられるエピソードです。

参考:How I fell in love with a homeless man
http://www.telegraph.co.uk/women/womens-life/10521133/How-I-fell-in-love-with-a-homeless-man.html