白衣やスクラブなどの医療用ユニフォームを提供するメディカルアパレル業界。新規メーカーが参入するハードルが非常に高く、古いメーカーの"ゴワゴワでペラペラのユニフォーム"が改良されないまま、医療現場で使われ続けているのが現状だ。

メンズ白衣:アーバンLABコート(2024年モデル)

そんな業界に一石を投じたのが、メディカルアパレルブランドの「クラシコ」だ。医療用白衣・スクラブ・ナース服などの商品開発を行うアパレルメーカーで、テーラード技術を用いたデザインの白衣をはじめ、医療従事者に寄り添った高機能な衣料品を企画・販売している。

「かっこいい白衣」を目指してブランドを立ち上げたクラシコ株式会社(以下、クラシコ)。業界に参入したのはどのようなきっかけだったのだろうか。今回は代表取締役CEO 大和新さん、取締役COO 福島信広さんのお2人に、ブランド誕生のきっかけや白衣・スクラブの特徴、ビジネス展開などについて話を聞いた。

クラシコ 代表取締役CEOの大和新さん


■クラシコがメディカルアパレルを始めたワケとは?

――まずは、貴社がメディカルアパレル事業に参入されたきっかけについて教えてください。

【大和新】私がクラシコを創業する以前はインターネット系の会社で営業をしていました。そのころにたまたま中学生の同級生が集まる同窓会があったのですが、友人のひとりがお医者さんになっていました。彼はファッションが好きで、毎日ビシッと髪も服も決めて病院に出勤するのですが、「病院支給の白衣を着るとすごくモチベーションが下がる」と言っていたんです。

【大和新】後日、インターネットで調べてみると、実際にお医者さんが着る白衣は昔ながらのペラペラのものしかないことを知りました。そして、いろいろなドクターにアンケートを取ってみると、8割の人が白衣に不満を抱いていることがわかりました。なかには「何倍のお金を出してもいいから、質の高い白衣がほしい」という意見もありました。

メンズ白衣:アーバンLABコート(2024年モデル)


【大和新】そこで、サラリーマンをしながらオーダースーツの職人をしていた友人と一緒に、スーツのようなデザインのスタイリッシュな白衣を作ってECサイトで販売してみたところ、どんどんドクターからの問い合わせが増えていき、その流れで会社とブランドを作りました。

――起業後には、白衣以外の商品も展開されたのでしょうか?

【大和新】最初はドクター向けの白いコート型の白衣だけだったのですが、その後スクラブ(医療従事者が着用する半袖のユニフォーム)を販売しました。最近ではこの服が手術中だけでなく医療従事者が日常的に着られていて、いわばビジネスマンのワイシャツやTシャツみたいな存在になっています。現在は白衣とスクラブが販売商品のメインになっていますね。

メンズ白衣:アーバンジャケット(2024年モデル)


――貴社のブランドにはどのようなこだわりが詰まっていますか?

【大和新】着たときにモチベーションやテンションが上がるデザインを意識し、素材も糸からオリジナルで開発しています。着心地や肌触りがよかったり、デザインと機能性が両立していたりしている点が、大きなこだわりですね。そのほか、何度洗濯に出しても使用可能な耐久性も自慢です。

【福島信広】弊社は日本中の医療従事者に届けたいという目的で商品展開をしていますが、デザインや機能性を好評いただいており、一般の消費者様からも注目されています。スクラブをオフィスカジュアルとして職場に着用されている方もいますね。それくらい、作業着に見えないスタイリッシュなデザインの服を作っていることも、弊社のこだわりのひとつです。

取締役COOの福島信広さん


レディース白衣:アーバンショートコート


■医療従事者の“気分”を上げるクラシコブランド

――現在、アパレルブランドの国内市場はどれくらいの規模なのでしょうか?

【大和新】大体500億円くらいの規模ですね。最近では国の要請もあって、医療従事者が毎年増加しています。また、スクラブについては、昔は手術する人だけが着ていたのですが、ここ近年はドクターやナースが日常的な業務の際に着ていますし、介護業界の人たちも着るようになってきています。ですので、市場はどんどん大きくなっていますね。

【大和新】また、クラシコの商品については、10人のドクターのうち4人くらいの人が購入し着用したことがあります。ドクターは自分の好きな白衣やスクラブを着ることができる場合が多いので、複数購入して毎日着ている方もいます。一方でナースについては、ユニフォームが病院から支給されていることが多いので、弊社としては病院支給いただける弊社プロダクトの提案もしています。なお、弊社は創業から15年で3303%の成長を遂げています。

メンズ:スクラブトップス・DECO


――使用者からの反応や感想はいかがでしょうか?

【大和新】ある医療従事者の方がX(Twitter)に、「おしゃれなスクラブが支給されてうれしい!」といったポストをしてくれたのですが、普通は仕事先の支給された制服についてSNSに投稿することは少ないと思います。ですが、クラシコの場合は衣服の写真とともに「気分が上がります!」「テンションぶち上げです!」といったポジティブな投稿がされることが多いんです。

【福島信広】医療従事者の方々は日々、患者様に誠心誠意向き合っていただいています。弊社の白衣やスクラブを着ることによって「朝の気持ちが上がる」、「1日頑張れる」、「背筋が伸びて診察に気合が入る」、「集中力が高まる」といった数多くの声が届いているのがとてもうれしいですね。また、患者さんから「かっこいい服着ているね」という声もあったりすると伺っています。

レディース:スクラブトップス・FREE


――では、他社との差別化はどのような点で行っていますか?

【福島信広】プライスや耐久性などの実用性みたいなところをメリットとしている点を見ることが多いですが、弊社の場合はクラシコの商品を着た方々の気持ちがどう変化するか、どういった用途のときに私たちのユニフォームが医療従事者の役に立つかを重視しています。お客様の声を聞いて、それを実際に感じてもらっているのがとてもうれしいですね。

【福島信広】また、弊社の商品は「クラシコカラー」として、他ではあまりみかけないニュアンスカラーを取りそろえていて、自分らしいカラーを自由に選んで楽しむことができます。本当にアパレルのような、気分や趣向に合わせて好きなものを着ることができるのが他社にはない特徴で、みなさまにご愛顧いただいている理由のひとつだと思います。

■目指すは日本全国、そして全世界でのブランド展開

――現在、クラシコを伸長させていくうえで取り組まれていることはありますか?

【大和新】創業から16年続けていますが、国内においても毎年高い成長を続けているので、まだまだ伸びしろというかチャンスがあるかなと思いますね。現在取り組んでいることとしては、国内と国外の2つの事業展開がありまして。国内のドクターに関しましてはそれなりに認知が進んでいる一方、医療従事者は増えており、ドクター以外の方々にはまだまだですので、そこにしっかりアプローチしています。

【福島信広】弊社は、複数のお客様との接点を多く持っているのを強みにしております。ひとつは自社のECサイトでのD2C、もうひとつは実店舗ですね。実店舗については出店を加速していて、今期だけでも横浜、名古屋に常設店舗、神戸にPOP UP店舗と3店舗を出すことができました。ですが、まだまだ進出できる余地があると思うので、今後は拡大を図っていきます。

【大和新】あとは病院で支給するユニフォームに採用されるための法人営業ですね。白衣やスクラブを一括で購入している病院さんに、「クラシコの商品を採用しませんか?」といったアプローチをしています。お客様や病院さんが商品を欲しいと思ったときにクラシコがいつも隣にある状態を目指し、間口を広げながら展開しています。

レディース:フロントオープンスクラブ・LUXE


――海外市場ではどのような取り組みをされていますか?

【福島信広】海外については伸びしろだらけなんですよね。というのも、海外の方がスクラブを着る習慣が根付いているからです。また、海外は白衣やスクラブを個人で購入する傾向にあります。そして、地域にもよりますがアメリカや欧州諸国は自分のお気に入りのスクラブで過ごしたい方や消費マインドが高い人も多いので、品質やクオリティが求められる傾向にあります。ですので、そのあたりの需要にもしっかりと応えていきたいと考えています。

【福島信広】医療従事者は世界中のどこにでもいる存在です。そして、メディカルアパレルは国によって嗜好やデザイン、求められる機能の違いが少ないので、すべての国々で必要とされるのです。たとえば、日本とサウジアラビアのスクラブってほとんど同じなんですよね。市場が世界規模で広がっているからこそ、ジャパンクオリティーならではの高品質な衣服が求められていると思いますし、どんどん展開していきたいと思っています。

「ブランドを世界に広げていきたいです!」と福島さん


ジェラート ピケ&クラシコ:スムーズィーロングリブカーディガン


■野望は、世界中の医療従事者をブランドで応援すること

――今後、貴社はブランドをどのように展開されていく予定でしょうか?

【大和新】ひとつは、先ほど申し上げたグローバル展開ですね。クラシコというブランドがiPhoneやスターバックスのように世界中に広まって一般的なものになることを目指しています。やはり世界の市場に挑戦していき、ブランドをグローバルスタンダードにしていくことが大きな目標です。

Lautashi×Classico DECOスクラブトップス


【福島信広】また、最近では新商品にも力を入れています。医療業界の中にはまだまだ昔から変わっていないものってたくさんあると捉えています。たとえば、入院した人が着る「患者衣」ですね。現在、病院で使用されているものは洗濯耐久性優先で作られているので、肌ざわりなどを含めてまだまだ改善の余地があると思っています。

【大和新】患者さんの中には「カッコ悪い」と患者衣の姿を見せたくないという人もいます。そのような人に弊社の患者衣を着用してもらうと、すごく好評でした。小さいところではありますが、このようなちょっとした不満を弊社のブランドで解消していき、医療の世界を少しずつ変えていくことが今後の目標ですね。

あたらしい患者衣「lifte(リフテ)」


――ありがとうございます。最後に、貴社の野望をお聞かせください。

【大和新】この仕事を始めてから強く感じるのは、「医療業界で働く人たちは大変な仕事を使命感を持ってやられている」ということです。医療従事者のみなさまが弊社の白衣やスクラブを着て、モチベーションややる気が上がって、仕事を頑張れているという声を聞けるのがすごくうれしいんです。それまでの仕事では、ここまでの声は聞くことがありませんでした。

「世界の医療従事者を、メディカルアパレルの分野から応援します!」と大和さん


【福島信広】医療従事者の方々から感謝の声を聞けることが本当に励みになって、今の仕事を頑張ることができています。弊社の商品によってみなさまが喜んでくださって、診察や手術などの仕事のクオリティにつながっていることが、とても意義のあることだと思います。このようないい影響を、世界中に広げていくことが私たちの使命です。

この記事のひときわ#やくにたつ

・機能性重視のものをデザインの力でブランドに昇華できる

・競合他社との勝負は「愛される」かどうかも重要

・どの国にもある職種は、世界展開のヒントになる

取材・文=福井求(にげば企画)