「赤子の前では自分は無力である」 | 弘中綾香の「純度100%」〜第113回〜

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ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。

「例えるとするならば…」

育児の大変さを何と言い表せばいいだろう。ここ数日ずっとこの問いにしっくりくる解答を探しているが、出せずにいる。なぜかいつも時間に追われているし、常にハラハラドキドキしているし、気が付くと日が暮れていて「ああ、今日も何もせずに一日が終わってしまった」と落ち込む。とにかく大変なのは大変なのだ。でも、何が大変なのか言語化することが難しい。先輩方が口々に言う「仕事の方が全然ラクだよ」という言葉、生まれる前は半信半疑で聞いていた。でも、この立場になってその通りだと分かる。育児、なめたらアカン。

まず赤子の前で自分は無力である、ということを頭に叩き込まなくてはいけない。「私が産んだんだぞ!」などと威張れるのは、相手が言語と物事を理解できるようになるだいぶ先のこと。「お仕えする」という言葉が相応しいかもしれないと思うくらい、有無を言わさず私たち大人を翻弄してくる。イメージとして掴みやすいように、家を会社に置き換えてみると、私たち夫婦は「赤サマ」という絶対的権力を持った社長に仕える秘書である。この社長、私たちとは異なる言語を使う。「あー」とか「うー」とかの微妙なニュアンスから何を望んでいるかを汲み取るという能力が求められる。しかも昼夜問わず24時間、こちらの都合での休みは許されない。週7日休日なく、いつでもどんな時でも動けるようにしておかなければいけないし、絶えず要求に応え続けなくてはいけない。

加えて、厄介なことにこの社長は機嫌がコロコロ変わる。ご機嫌でニコニコしていたかと思いきや、次の瞬間には顔を真っ赤にさせながら大声で泣き叫ぶ。何が原因なのかはもちろん教えてくれないので、過去データを蓄積させて経験則から導き出すしかない。おむつを替えてほしいのか、暑いのか寒いのか、お腹が空いているのか、眠いのか。またしても、こちらの察知する能力が必要とされる。この機嫌の乱高下は時と場所を選ばないために、特に外出時はハラハラする。「うちの社長がすみません」と頭を下げたことも何度かある。

これだけでも超絶ブラック企業の過重労働なのに、会社という家庭を回していくための仕事も並行して行わなければならないというトラップも存在する。いわゆる家事全般、掃除、洗濯、ごはんの準備と社長周りの必要物品の調達、在庫の把握などなど。理想は旦那という同僚にこの家庭を回す仕事をすべてカバーしてもらい、自分は社長にベタ付き、といきたいところだけれども、そうもいかないのが現状である。同僚は社外業務に忙しく、ほぼこちらの会社では戦力になることがない。そんでもって実際に社長と相対する時間が短いもんだから、これまた言語化が難しい「社長トリセツ」をOJT(実地訓練)にて共有・指導しなくてはいけないという負担までこちらにのしかかってくる(同じ新卒で入った同期なのにこの頼りなさは何事?という心理的ストレスも)。

場面場面で対処するべきことが多すぎて、何かに集中するまとまった時間も取れないし、予定を立てることも難しいというのが現実。我が家では外注できる仕事(主に家事)は外注することと、時にプロ(ベビーシッターさん)の手を頼ることにより、何とか自転車操業を続けられているけれど、これをすべて一社で内包せよというのは正直無理だ、と私は思う。この令和の今まさに走っている同志の皆さんにも頭が下がるけれど、Amazon、紙おむつ、粉ミルク、洗濯乾燥機などなど便利なモノ・サービスたちが無かった世代の皆さんはどうやってこの計り知れない業務を乗り越えていったのか、本当に考えもつかない。いつの時代も、母は偉大。諸先輩方に敬礼。

【弘中のひとりごと】でも頑張れるっていうのが、本当に謎(笑)。

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ひろなかあやか

勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。