婚約者が、他の女と遊んでいることが発覚!でも、結婚がしたくて黙認したら…
恋愛の需要と供給ほど、バランスが崩れているものはないかもしれない。
満たされぬ思いを誤魔化すために、女は自分に嘘をつく。
嘘で人生を固めた先にまっているのは、破滅か、それとも…?
満たされない女と男の、4話完結のショートストーリー。
東カレで大ヒットした連載が、4話限定で復活!
19話〜22話は『諦めきれない想い』。
◆これまでのあらすじ
里緒は婚約者・伸介のことが大好きだが、ずっと愛情表現しない彼に違和感を抱いていた。そしてある日、蘭という女性を口説く伸介を見かけてしまう…。
諦めきれない想い(2)
髪の毛を丁寧に巻き、少しほぐしてスプレーをかける。Tiffanyのパールのピアスをつけてメイクも完璧。
自分の顔を、鏡でまじまじと見つめて、思った。
― 私、だいぶ可愛い。
これから、大好きな婚約者の伸介とデート。今日は彼が行きつけのイタリアンに連れていってくれる。
それなのに―。
私の心の中は、沈んでいる。
朝、目が覚めた瞬間に、あの映像がフラッシュバックするのだ。伸介が蘭という女を口説いているあのシーンが。
あの日以来、はじめて彼と会う。
私は、いったいどんな顔で伸介と会うんだろう。
◆
「ここのワインおいしいんだよ」
「そうだね」
何も知らない彼は、満足そうにワインを飲んでいる。
「ペアリングが最高でしょ?」
「うん…」
― 蘭って人と、どういう関係なの?
私がそう尋ねたら、彼はなんて言うだろう。どんな反応を示すだろう。
「仕事を頑張ったあとのお酒は、やっぱりうまいね」
「うん、おいしい。ほんと」
「あの人とはどういう関係?あなたはどう思っているの?」って、本当は、彼に聞きたいけれど、私はできなかった。
「今日、学会で先輩がまた俺のこと妬んできてさ〜」
「え〜、また例の先輩?」
溢れ出てくる感情を、私はワインで流し込む。
今の関係が壊れてしまうリスクが少しでもあるのなら、黙っておくべきだと判断したのだ。
自分の気持ちに素直に行動できないくらいには、私は十分大人になってしまっている。
でも、それもこれも、伸介が好きだから。結婚して彼と、幸せな家庭を築きたいから。
ちなみに、“蘭”という女の正体については調べがついている。
伸介のインスタから、すぐに彼女は見つかった。Facebookでもすぐに発見し、本名をググったら色々出てきた。
良い時代なのか、そうじゃないのか。
蘭は、現在34歳。慶應義塾大学経済学部卒業、大手外資系金融会社勤務。3歳から小学校卒業までイタリアに住んでいたという。
学生時代は読者モデルとして活躍していたそう。
そして、既婚だ。
彼女のインスタのトップ画はウエディングドレス姿だった。投稿にたくさんの結婚式の写真がポストされていた。
女の私でも息をのむほどの美しさ。
埼玉の中流家庭に育ち、一浪して明治大学に入学。卒業後は、アパレル広報として働く私とは住む世界が違う人だと思った。
でも、相手が既婚であることに、少し安心感を覚えた。2人の恋が実を結ぶことなんて、きっとない。
恐らく、お互いただの火遊び。
伸介は、結婚前に、ちょっと羽目を外したかったのだろう。
遊びだから、いつか飽きる。
だから…。
私は、目をつぶることにした。
知らなかったことに、見なかったことにしよう。
私は、自分にそう言い聞かせた。
◆
「それでさ、お前はいいよな〜開業してるんだもんなって先輩に嫌味言われてさ…」
伸介は今日、機嫌が良さそうだ。
35歳の若さで痩身専門のクリニックを開業している彼は、先輩から妬まれているという。
その愚痴を私に話してくれている。
「それは伸介に嫉妬してるんだよ。いいじゃん、聞き流しておけば」
私は、いつものテンプレを口にしながら、本当に聞きたいことをぐっと飲み込んだ。
伸介とのデートを終え、自宅に帰る。
鏡の前で、自分的には相当かわいい自分を見つめながら、それでも脳内にフラッシュバックするあの女を思い出し、ちょっと落ち込む。
― でも、大丈夫。伸介の本命は、私だから…。
鏡の中の自分にそう言い聞かせたそのときだった。
スマホに舞子から新着メッセージが届いた。
『舞子:話したいことがあるんだけど、近々会えない?』
◆
「結婚の準備、進んでるの?」
「あんまり、彼も忙しいからね…」
「そっかぁ〜そうだよね〜」
『ホワイト グラス コーヒー』でカフェラテを飲みながら、他愛もない会話を舞子と繰り広げる。
穏やかな休日の午後―。
でも、こんな与太話をするために舞子は、私を呼び出したんじゃない。そんなこと、わかっている。
「言おうかどうか迷ったんだけどさ…」
嫌な話がはじまる前振りだ。
舞子からメッセージがあったときから、嫌な予感はしていた。
「里緒、伸介くんのことちょっと怪しいって思ったこととか…あったりする…?」
「…」
「これは、あくまで共通の知り合いから聞いた話。だから、真相は確認しないとわからないんだけどね…」
前置きしながら、舞子は語り始めた。
舞子も、実は伸介が蘭という女性とデートしているところを目撃したことがあるらしい。しかも、蘭は舞子の高校時代の先輩なのだという。
世間は狭い。東京は狭い。すぐに繋がってしまう。
そして、舞子はすぐに蘭の周辺をサーチしたところ、伸介と蘭が昔付き合っていたということを突き止めたのだ。
伸介からの猛アプローチの末はじまった恋だという。
「いや、でも付き合ってたのは10年近く前らしいし、蘭って人も結婚してるぽいからさ、本気とかじゃないと思うんだけどね…」
昔からゴシップ好きの舞子。こういう時のサーチ能力は凄まじい。
「そうなんだ…。教えてくれてありがと…」
― あれはきっと火遊びだと割り切っていたのに…。
“元恋人”という新情報は、押さえ込んでいた不安をこれでもかというほどに刺激する。
「本当に言おうかどうか迷ったんだけど…。でも、結婚する前だし、知らないよりは知っておいたほうがいいのかなって思って…」
「うん、そうだね…」
確かに、知りたかった。あの現場を目撃してしまったあの日から、ずっと真相が気がかりでしかたなかった。
けれど、舞子から与えられた中途半端な新情報はただただ私を混乱させるだけ。
「で、どうするの?里緒」
「どうしよう…」
「聞かないの?伸介さんに…」
「聞きたいけど…」
悶々とした思いをどう処理していいかわからなかった。
そのとき、メッセージを着信して机の上に置かれた私のスマホが振動した。待ち受けに表示された新着に、私はドキッとする。
『伸介:大事な話がある』
普段、伸介とは業務連絡しかやりとりしない。“大事な話”なんて、彼から発せられたことがない。
― 何、大事な話って…。
嫌な妄想がどんどん膨らみ、心臓が激しく鼓動を打ち始める。
▶前回:計画通り“医者”を捕まえた32歳女。しかし婚約直後、知りたくなかった彼の本性に触れ…
▶1話目はこちら:「恋愛の傷は、他の男で癒す…」26歳・恋愛ジプシー女のリアル
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伸介の口から飛び出た意外すぎる提案に、里緒は…