男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

-果たして、あの時どうすればよかったのだろうか?

できなかった答えあわせを、今ここで。

今週のテーマは「女が三度目のデートで急に帰った理由は?」
という質問。さて、その答えとは?

▶【Q】はこちら:二軒目に移動した途端に、スマホをいじり始めた女。30分後不機嫌になって帰宅した理由は…




金曜23時。もうそろそろ帰ってもいいだろう。今日は雰囲気を悪くしないように、最大限頑張った。

隣で呑気に飲んでいる雅史に、私はタイミングを見計らいながら帰る旨を伝えると、雅史はとても驚いたような顔をしている。

「え?もう帰るの?」

先ほどから頻繁にスマホをいじって“帰りたいオーラ”を全力で出していたけれど、当然この人は気づいていない。

「うん、今日は帰ります。雅史さんは、まだ飲みますよね?気をつけて帰ってくださいね」
「わかった…」

店の下まで送りに来た雅史が、不安げな顔をしている。

「恵麻ちゃん、大丈夫だよね?」
「何が?」
「いや、何でもない」

もちろん、大丈夫なワケはない。私は帰りながら、「何で今日食事の誘いに乗ってしまったんだろう」と後悔すらしていた。


A1:カウンター席は、正解。男性の知り合いのお店だから良かった。


雅史と出会ったのは、半年くらい前のこと。共通の知人を介して知り合い、何度か皆で遊んだ後、2人きりでのデートに誘われた。

最初はそこまで興味がなかったけれど、雅史が誘ってくれたお店は行ってみたかったので、私は二つ返事で快諾した。

神泉にあるこぢんまりとしたイタリアンはカウンター席しかなく、雅史は常連のようだった。




「素敵なお店…!このお店、前からずっと気になっていた」
「ここ、常連なんだよね。何を食べても美味しいから、どうしても恵麻ちゃんを連れてきてくてさ」

気さくで話しやすい人だとは思っていたけれど、初めて2人で会うと印象もまた変わる。またカウンター席だと真正面から相手を見ないので、適度に視線も外せるし初デートはカウンター席に限る。

「ヤバイ、俺今最高に幸せかも」
「そんなに?雅史くんっていい人だね」

そして雅史は想像以上にピュアで、いい人だった。

「いやいや、嬉しいんだもん。恵麻ちゃんほど綺麗で可愛くて性格も良い子はなかなかいないから」
「そんなことないでしょ」

2人で話していると、料理が運ばれてきたタイミングで、ここのオーナーシェフらしき人が話しかけてきてくれた。

「雅史くん、今日はご機嫌だね。こちら、季節野菜のフリットです」
「わかる?こんな美女を連れて来られて幸せなんだよ」

シェフとにこやかに話す雅史。でも次の一言に、思わず私は目を丸くする。

「恵麻ちゃん、可愛いでしょ?まだ彼女じゃなくて、今から頑張って口説く予定なんだけどさ」

急に入ってきた口説きモードに、私はびっくりしてしまった。それはオーナーシェフも同じだったようで、にこやかな笑顔を残してキッチンへ引っ込んでしまった。

「雅史くん、そんなこと言える人だったの?」
「ただ本当のことを言っただけだよ」
「もう、こんな場所でやめてよ…」

幸い他のお客さんには聞かれてなかったから良かったものの、恥ずかしくなった私は、少し残っていたワインを慌てて飲み干す。




でも雅史はまだ話し続ける。

「恵麻ちゃんって、本当に可愛いよね」
「雅史くん、それ誰にでも言ってるでしょ?」
「そんなことないよ」

そう言ってもらえるのは、本当に嬉しい。でもまだ初デートだし、しかも他のお客さんもいる場だ。

「恵麻ちゃんのこと、本気だよ?今彼氏いないんだよね?」
「ちょっと、そんなこと大きい声で言わないでよ(笑)。いないけどさ…」

私に彼氏がいないことを、大きな声で言われてますます恥ずかしくなって下を向く。

「僕とかダメ?普段はこんなこと言わないんだけど…。恵麻ちゃんは特別なのかも」

さらりと口説いてくる雅史に、若干の不信感が募る。

「このカウンターで、何人口説いてきたの?」
「そんなのいないよ!本当に遊んでないよ?」

でも慌てる雅史を見て、この人は本当に遊んでいなくて誠実なのかもとも思い始めた。

「そうなんだ…。雅史くんモテそうだから心配になっちゃって。ごめんね、信じるよ」

こうして、一旦初デートは終わった。でもこの時に感じた“恥ずかしい”という思いを、私はもっときちんと受け止めておくべきだった…。


A2:飲食店で、カウンター席でのマナーがなっていなくて最低だった。


二度目のデートは、普通に楽しく終わった。しかし三度目のデートで、私はもう二度と一緒に食事をしたくなくなってしまったのだ。

三度目のデートは、前から行ってみたかった代官山にある数席しかない創作和食のお店を予約してくれていた雅史。

「ここ、来てみたくて…嬉しい♡」
「良かった。この店、僕も初めて来たけれどいい感じだね」

店内は照明が若干暗くていい感じで、何よりキッチンを囲うように作られたコの字型のカウンター席は、お店の人との距離が近くて嬉しい。

「私、こういう少人数の方でやられているお店が好きで」
「わかる。シェフが近いのっていいよね。サーブしてくれる人との距離も近いし」

ここまでは良かった。しかし何を思ったのか、突然私たちの隣に座っていた男女2人に、雅史は急に話しかけ始めた。

「そのシャンパン、美味しいですよね」

― …なんで今、隣のお客さんに話しかけた?

急に話しかけられた男女2人組も驚いていたが、幸い良い人たちで、にこやかに対応してくれる。

「シャンパンお好きですか?この銘柄、僕大好きで」
「え〜!本当ですか?僕も大好きなんですよ」

大きな声で隣の人に絡む雅史。

この時点で「うわ…ないわ…」と思った。けれども、“雅史劇場”はこれだけでは終わらない。




なぜか隣の2人と一緒に飲むことになり、4人で乾杯をする私たち。このあたりでやめておけばいいのに、雅史はとんでもない失礼発言を始めたのだ。

「やっぱりこのシャンパン美味しいな…ちなみにお二人はどういう関係なんですか?親子ですか?」

たしかに、男性のほうがだいぶ年上に見えた。でもどこからどう見てもデートだし、失礼にもほどがある。

隣のお客さんがいいたち人で本当に良かった。

「僕たちは仕事仲間でして。お二人は…?」

困惑しながらも笑顔で対応してくれたのだけれど、彼らが気を使って質問したことに対する雅史の返答に、私は笑顔が凍りついた。

「僕たちはこれから関係を進める感じです(笑)」

― 恥ずかしいから、本当にヤメテ…。

そう思っていると、雅史は店員さんに断りなく名刺交換までし始めた。

「これ、僕の名刺なんですけど」

雅史が隣のお客さんに名刺を渡す様子を見て、目の前にいる店員さんの顔がみるみる曇っていく。

個人オーナー店のご法度。それは他のお客さんと勝手に繋がったり、オーナーやお店の人に断りなく名刺交換をすることだと思う。




お店の人は、こちらにもう見向きもしなくなった。雅史はどうして何も気がつかないのだろうか。

「雅史さん、隣の2人の邪魔するのも悪いから、私ともう一度乾杯しようよ」
「そうだね。乾杯」

さりげなく諭してみるものの、当の本人は何も気にしていない。

「恵麻ちゃんと僕たちって、カップルに見えるってことかな。どうですか?」

機嫌の悪いシェフにそんな質問を投げかけている雅史を見て、私は心底呆れてしまった。

― 最悪…。この人と一緒のお客さんだと思われることすら嫌なんだけど。

いたたまれなくなり、とにかく私はこの場を早く去りたくなった。

「雅史さんって、人見知りとかしないんですか?」

心が完全にシャットダウンしてしまったので、自然と敬語になる。

「そうだね〜。ついこういう場だとみんなと仲良くなりたくなるんだよね」
「カウンター席の醍醐味ですね」
「そうそう。恵麻ちゃんの隣の席の人たちが食べているのも美味しそうじゃない?アレなんだろう」

場を盛り上げる、楽しい人だと自分では思っているのかもしれない。でもレストランでの空気を読めない最悪な言動に、げんなりしてきた。

― この人は、自分のことしか見えていないんだろうな。

二軒目に移動する最中にタクシーを呼び、私はもう二度と一緒にご飯に行かないと決めてその場を去った。

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女がデート中に言われたくない一言とは