男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

-あの時、彼(彼女)は何を思っていたの…?

誰にも聞けなかった謎を、紐解いていこう。

さて、今週の質問【Q】は?

▶前回:深夜のタクシーで、デート中の女性に「彼女とは終わったんだ」と報告。喜んでくれると思ったのに…




「え?もう帰るの?」

いつもニコニコしている恵麻に、今日は珍しく笑顔がない。

「うん、今日は帰ります」

西麻布にある会員制のバーで、僕は慌てて引き留めようとしたが、彼女は有無を言わさず帰り支度を始めている。

「雅史さんは、まだ飲みますよね?気をつけて帰ってくださいね」
「わかった…」

何だか嫌な予感がする。いい関係を築けてきていたはずだった。

「恵麻ちゃん、大丈夫だよね?」
「何が?」
「いや、何でもない」

恵麻を店の下まで送ったけれど、結局この日以降、彼女の態度は急に冷たくなった。

二度ほどデートをして、今日はそろそろいけるかなと思っていた。それなのにむしろ素っ気なくなった恵麻。僕は何をしてしまったのだろうか…。


Q1:初デートはカウンター席のイタリアン。これは正解?


恵麻と出会ったのは、約半年前。

最初は普通の友達だった。けれど何度かみんなで食事に行った後、思い切って2人きりでの食事に誘ったら快諾してくれて、念願の“デート”が実現することになった。

初デートは、僕の行きつけであるカウンター席しかない、お気に入りのイタリアンへ連れて行くことにした。




「素敵なお店…!このお店、前からずっと気になっていた」
「ここ、常連なんだよね。何を食べても美味しいから、どうしても恵麻ちゃんを連れてきたくてさ」

2人でカウンターでシャンパングラスを傾けると、恵麻は幸せそうな顔で微笑んでくれた。

「ヤバイ、俺今最高に幸せかも」

嬉しくて、ついそう本人に伝えてしまうほどだった。

「そんなに?雅史くんっていい人だね」
「いやいや、嬉しいんだもん。恵麻ちゃんほど綺麗で可愛くて性格も良い子はなかなかいないから」
「そんなことないでしょ」

そんなふうに2人で話し込んでいると、お皿が空いたタイミングでカウンター越しにいるオーナーシェフが僕たちの間に入ってきた。

「雅史くん、今日はご機嫌だね。こちら、季節野菜のフリットです」
「わかる?こんな美女を連れて来られて幸せなんだよ。恵麻ちゃん、可愛いでしょ?まだ彼女じゃなくて、今から頑張って口説く予定なんだけどさ」

そう話すと、隣にいた急に恵麻は頬を赤らめた。

「雅史くん、そんなこと言える人だったの?」
「ただ本当のことを言っただけだよ」
「もう、こんな場所でやめてよ…」

でも「やめてよ」と言いながら、誰が見ても恵麻は嬉しそうにしている。

― めっちゃ可愛いじゃん。

そう思うと、思わず頬が緩んでしまう。




「恵麻ちゃんって、本当に可愛いよね」
「雅史くん、それ誰にでも言ってるでしょ?」
「そんなことないよ」

酒が入っていたことも大きいけれど、僕は恵麻をどうしても口説きたくなってきた。

「恵麻ちゃんのこと、本気だよ?今彼氏いないんだよね?」
「ちょっと、そんなこと大きい声で言わないでよ(笑)。いないけどさ…」
「僕とかダメ?」

僕自身も、こんなに積極的に口説けることに驚いていた。それほど僕は恵麻のことが気になっているらしい。

「普段はこんなこと言わないんだけど…。恵麻ちゃんは特別なのかも」
「このカウンターで、何人口説いてきたの?」

恵麻の質問に、僕は慌てて首を横に振る。数回女性を連れてきたことはあったけれど、断じてこんな口説きモードではなかったから。

「そんなのいないよ!本当に遊んでないよ?」
「そうなんだ…。雅史くんモテそうだから心配になっちゃって。ごめんね、信じるよ」

この時の恵麻のとろんとした瞳を見て、僕に対する好意を確信した。


Q2:女が男を店に放置してまで先に帰った理由は?


こうして僕たちはもう一度デートをし、迎えた三度目のデート。この日は恵麻が「行きたい」と言っていた代官山にある創作和食の店にした。

「ここ、来てみたくて…嬉しい♡」

恵麻は店に着いた途端に、かなりテンションが上がっている。

「良かった。この店、僕も初めて来たけれどいい感じだね」

キッチンを囲うように作られたコの字型のカウンター席に、薄暗い照明。デートにぴったりだと思った。

「私、こういう少人数の方でやられているお店が好きで」
「わかる。シェフが近いのっていいよね。サーブしてくれる人との距離も近いし」

そんな会話をしていた時だった。隣の席の男女が、僕の好きな銘柄のシャンパンを開けており、思わず話しかけてしまった。

「そのシャンパン、美味しいですよね」

すると隣の男女も、嬉しそうに話しかけてきてくれる。

「シャンパンお好きですか?この銘柄、僕大好きで」
「え〜!本当ですか?僕も大好きなんですよ」

思わず声が大きくなってしまう。そこからしばらく会話が弾み、気がつけば僕と恵麻、そして隣のカップルと4人で乾杯をしていた。




「やっぱりこのシャンパン美味しいな…ちなみにお二人はどういう関係なんですか?親子ですか?」

男性のほうの年の頃は50くらいに見えたけれど、女性は30代に見える。

「僕たちは仕事仲間でして。お二人は…?」

男性客の問いに、僕は意気揚々と答える。

「僕たちはこれから関係を進める感じです(笑)」
「楽しそうですね〜」

いい店には、いい客が集まる。さらに話を聞いていると男性は経営者で、僕の仕事と割と近い業種だった。

「これ、僕の名刺なんですけど」

そう言って名刺を渡すと、相手の男女は目の色を変えた。

「…え!すごく有名な会社じゃないですか」
「いやいや、それほどでも」

こういう時に、有名企業に勤めていて良かったと思う。隣の恵麻をみると少し誇らしげに笑っていたから。




「雅史くん、隣の2人の邪魔するのも悪いから、私ともう一度乾杯しようよ」
「そうだね。乾杯」

再度乾杯をしたところで、僕はさらにいい感じに酔いが回ってきた。

「恵麻ちゃんと、僕たちカップルに見えるってことかな。どうですか?」

目の前にいるシェフに聞いてみると、シェフは曖昧な笑顔を僕に向けてきた。そんな様子を見ながら、恵麻が僕に問いかける。

「雅史さんって、人見知りとかしないんですか?」
「そうだね〜。ついこういう場だとみんなと仲良くなりたくなるんだよね」
「カウンター席の醍醐味ですね」
「そうそう。恵麻ちゃんの隣の席の人たちが食べているのも美味しそうじゃない?アレなんだろう」

さっき話しかけた人たちとは別の2人が食べている物も美味しそうで、僕は思わず身を乗り出す。

「こういうカウンター席って、隣の人たちが食べている物が美味しく見えますよね」
「そうなんだよね〜。あれオーダーしようか」

そんな会話をしながら、僕たちは美味しい食事とお酒を堪能して店を後にした。

そしてもう一軒誘うと、恵麻は喜んでついてきてくれた。

「さっきのお店、美味しかったね」
「そうですね」
「恵麻ちゃん本当に可愛いね」

この時まで、恵麻はニコニコとしていた。

しかしここから30分くらいすると急にスマホを触り始めた恵麻。そして途端に顔が曇り始め、そして急に帰ってしまった。

― 誰かから連絡が来たってこと…?

それにしても恵麻が急に態度が変わった理由がわからず、僕はずっと悶々としている。

▶前回:「彼女とは別れる」と言って他の女を口説いていた男。でも予想外の出来事が待ち受けていて…

▶1話目はこちら:「あなたとだったらいいよ♡」と言っていたのに。彼女が男を拒んだ理由

▶NEXT:5月7日 日曜更新予定
女が二軒目ですぐに帰った理由は?