「付き合う前に、絶対お泊まりしたい」3回目のデートで彼に迫ったら…
これは男と女の思惑が交差する、ある夜の物語だ。
デートの後、男の誘いに乗って一夜を共にした日。一方で、あえて抱かれなかった夜。
女たちはなぜ、その決断に至ったのだろうか。
実は男の前で“従順なフリ”をしていても、腹の底では全く別のことを考えているのだ。
彼女たちは今日も「こうやって口説かれ、抱かれたい…」と思いを巡らせていて…?
▶前回:彼の部屋で「今日は無理」と拒否した女。どんなにタイプでも“その気”にはなれない、男の特徴
ケース5:寝てから男を品定めする女・日野原七海(28)
「どうだった…?」
彼とは、今夜3回目のデートをしたばかりだ。それなのに今、私は一糸まとわぬ姿で亮の部屋にいる。
これまでのデートは店のチョイスもよくて、会話もまあまあ盛り上がった。おまけに外資コンサルに勤める亮の年収は、おそらく2,000万円以上。スペックだって申し分ない。
― だから相性もいいと思ったのに、なんか違ったなあ。
私はあいまいに頷くと、彼と視線を合わせないようにしながらベッドを出る。
「よかったよ。…そろそろ帰るね」
「え?あぁ、そう。わかった。気をつけてね」
亮は、少しも引き止めてこなかった。私は、子どもがするみたいに手を伸ばし「今日はありがとうね」と言って握手を求める。
エレベーターの中で気持ちを切り替え、エントランスを出ると、六本木の中心部に建つタワーマンションを見上げた。
亮:またね
彼から届いたLINEを既読にせず、非表示にする。
具体的な日程提示のない「またね」は、こちらから誘わない限り次がないことを意味しているからだ。
“女は抱かれると相手を好きになる”
これは恋愛のセオリーだ。だけど、それは間違っていると思う。私は付き合いたいと思った男なら、先に身体の相性を確かめる。
なぜなら、それでわかる真実があるからだ。
七海が“付き合う前に必ず抱かれる”理由とは
「えー!また付き合う前に抱かれちゃったの?」
「うん、私から家に行きたいって言った」
翌日の夜。
麻布十番にある韓国料理屋『グレイス』で参鶏湯を味わっていた美里は、食べる手を止めて驚いていた。
「だけどさ…。付き合う前に抱かれるって、軽すぎない?私は“付き合うまで絶対抱かれない派”だったけどね」
そう言う彼女の薬指には、結婚指輪が光っている。大学時代の友人で唯一の既婚者である美里は、私にとって大切なメンターだ。
「で、なんでダメだったの?…実は変態だったとか?」
「ううん。お互い、相性が良くないって思ったんじゃないかな。どうだった?って不安げに聞いてきたし」
身体を重ねた後の、答え合わせのような質問。
それがなんだか気まずくて、視線をそらした瞬間。リビングのテーブルに、まるで定規で測ったかのように並べられているリモコンが目に入ってきた。
そのとき、これから2人の間に何が起こるのか見えてしまったような気がしたのだ。
「なるほど。コンサルにありがちな空っぽな人間性と、潔癖症ってことか。そういうのを確かめるために、早めに相手の部屋に行くってことね」
「それは言いすぎだけど…。でも、そんな感じ。それにね、終わってからすぐタバコ吸いに行かれたんだ」
「軽い女って思われて、ぞんざいに扱われたんじゃないの?すぐ寝る女は本命になれないってよく言うでしょ」
どこかで聞いたことのあるアドバイス。
美里の言うことはごもっともだ。だけど私は、どうしても付き合う前に身体の相性を確かめたい。
熱々の参鶏湯からあがる湯気を見つめながら、ふいに元カレのことを思い出した。私が交際前に抱かれるキッカケとなった、あの出来事を…。
◆
それは2年前のこと。
当時26歳だった私は、都内の私立中学で社会科の教師をしている、27歳の和弘と付き合っていた。
フレックス制の編集プロダクションで昼から深夜まで働く私と、バスケ部の顧問で練習のために朝早く出ていく彼とは、なかなか生活リズムが合わなかった。付き合ってからも、会うのは週1回程度。
それでも優しくて真面目な彼が大好きで、いつか結婚を夢見ていた。しかし…。
交際して2ヶ月ほど経った頃、彼と少しも相性が合わないことに気づいてしまったのだ。
結局、和弘とはレスになってしまい、私たちはあっけなく別れてしまった。
それから私は「付き合う前に必ず抱かれよう」と決めたのだった。
◆
「お〜い、七海?…また和弘くんのこと思い出してたんでしょ」
気づくと、美里が私の顔を心配そうにのぞき込んでいた。
「やっぱりさ、私ももう28歳だし。付き合う前に相手の生活スタイルも、身体の相性も知っておきたいの。付き合う前に抱かれたらダメって風潮はあるけど、実際にしてみてなんか違うってなったら、キツイでしょ?」
「変な癖とか、一瞬で終わっちゃうとか?…まぁとりあえず、彼のことは忘れよ!」
その言葉に、私は「早く次の彼を見つけよう」と決心したのだった。
そんな七海が出会ったのは…?
それから半年後。
私は3回目のデートとなる修平と、マンダリン オリエンタル 東京の最上階にある『マンダリンバー』で肩を並べていた。
彼は「産地から直接コーヒー豆を仕入れ、中間業者を介さずに直接売上を産地に還元する」というビジネスモデルを立ち上げた、ベンチャー企業の創業者。
私自身もコーヒー好きということもあり、初めて食事した際に3時間ぶっ続けで話し込んでしまうほど意気投合したのだ。
目を輝かせながらコーヒービジネスの可能性について熱く語る修平とのディナーは、心の底から楽しかった。
何杯目かのカクテルが空になり、23時を回った頃。私はそっと身体を寄せ「今日、修平くんのマンションに行きたいな」とささやいた。
いつもの常套句だ。こう言うと、たいていの男は喜ぶ。しかし彼はあからさまに動揺していた。
「…どうして?」
あえて返事をせずに、質問を返してくる。
「修平くんのこと、もっと知りたいから」
― 今夜こそは、身体の相性がよければいいな。
そんなことを考えていたが、彼からは思いもよらぬ言葉が飛び出したのだ。
「俺も、七海ちゃんのこともっと知りたいと思ってるよ。…だから今日は送るよ」
そう言ってサッと会計を済ませられてしまったのだ。自宅近くまでタクシーで送ってもらい、私が車を降りる瞬間、彼がこう言った。
「じゃあ、またね」
具体的な日程提示のない「またね」。こちらから誘わない限り、次がないことを意味している。
― 修平くんとは、ここまでか。
そう思っていたが、30分後LINEの通知が鳴った。
shu:今日はすごく楽しかった。来週の土曜日、横浜にドライブ行かない?
予想外のメッセージに驚きつつも、嬉しかった。そして、いつも以上にオシャレして出掛けたみなとみらいで、彼は「付き合ってほしい」と告白してくれたのだ。
その日の夜、私は初めて修平に抱かれた。
「なんであの日、俺んちに来たいって言ったの?女の子から言われるの初めてで、ビックリしちゃって」
その問いに持論を展開する私を見て「根は真面目なんだね」と、彼はクスクス笑った。
「じゃあ修平は、いつ私を抱きたいと思ったの?」
「初めてのデートで3時間話し込んだときかなあ。そのときにはもう、七海ちゃんと付き合いたいと思ってた」
そう言って小さくキスをすると、続けてこんなことをつぶやいた。
「実は七海ちゃんが『俺んち来たい』って言った日さ。部屋が散らかってて、見られたくなかったんだよね。そうじゃなかったら俺から誘ってたかも」
今まで「付き合う前に身体の相性を確かめたほうがうまくいく…」と思っていたけれど。付き合う前に抱かれるか、付き合った後に抱かれるかは、大した問題じゃないのかもしれない。
私は出会った日のことを回顧し、考えていた。
2人がうまくいくかどうかは、抱かれる前に決まっているかもしれない、と。
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