仕事や働きかたの可能性がSNSやブログにある時代……というとまだ少し遠い感じがするでしょうか。しかし、転職や独立をポジティブに成功させている人に話を聞くと、SNSがきっかけになったという回答もよく耳にするようになりました。

SNSは友人の投稿をチェックするだけ、というのはちょっともったいないかも……。

デジタルコンテンツプラットフォーム『note』で1000人以上のフォロワーを集める最所あさみ(さいしょ・あさみ)さんも、SNSで転機を迎えたひとり。「個人のSNSに禁止令を出す会社は要注意。転職先リストには入れない方がいいかも……」と語ります。

「ブログを始めてたった1年で環境が激変した」という最所さんに話を聞きました。

個人名を出したら応援者が増えた

--最所さんは、大手百貨店からITベンチャー2社を経て、6月に独立されたとのこと、おめでとうございます。今はどんなお仕事をされているんですか?

最所あさみさん(以下、最所):ありがとうございます。現在はフリーランスとして、東京・八重洲にあるシェアオフィス「Diagonal Run Tokyo」でコミュニティマネージャーを務めるほか、WEBメディアの運営などに携わっています。

--最所さんは『note』で発信を続けたことで独立のきっかけをつかんだとか。まずは、『note』に記事を書き始めた理由について教えてください。

最所:『note』に記事を書き始めたのは、2016年6月頃でした。ベンチャー企業で会社員をしていた時、自社の製品について「どうすれば使ってもらえるか?」と考えたのがきっかけです。ベンチャー発の製品は、世に出すスピード感を重視するあまり、改善の余地があるものが多いという面もあって。もちろん全ての製品がそうだとは言いませんが、使ってもらわないことには改善もできない。

--宣伝活動が大事になりますよね。

最所:はい。でもそこで製品ではなく、私について知ってもらおうと考えたんです。まずは私のファンになってもらい、「最所がおすすめするなら使ってみようかな」と応援してくれる人を増やそう、と。

--反響はいかがでしたか?

最所:想定以上でした。というのも、当時はオウンドメディアの担当も任されていたのですが、わりと早い段階で、個人の『note』がオウンドメディアのPV数と並ぶくらい読まれるようになったんです。書き手はどちらも私なのに。個人名だと親近感が出て、ファンを獲得しやすいのだと実感しました。最初は週に1、2回程度のユルい頻度で更新していましたが、反応が嬉しくて、2カ月経った頃には毎日書くようになりましたね。

「あなた」に仕事を頼みたい

--『note』を始めて、1年でどんな変化があったのでしょうか?

最所:大きな変化としては、仕事の相談や、イベントに声をかけてもらえるようになったこと。会社に所属している私ではなく、「あなたに仕事を頼みたい」「あなたと話したい」と、「最所あさみ」という個人にメッセージをいただけるようになるなんて、『note』を始めた当初は全くイメージしていませんでした。

--発信を続けたことで、活躍できる場所を手に入れたんですね。ところで最所さんは、イベントや記事で「SNSを禁止する会社には就職しちゃダメ」と伝えるようにしているそうですが、その理由とは?

最所:企業、個人、両方にメリットがあるからです。企業だけ、個人だけじゃなくて、相乗効果を生み出すこともあるんですよ。以前勤めていた百貨店はそれなりに大企業だったし、就業規則も厳しいものでした。

突然SNS担当になったら…

--芸能人が来た!と機密情報を流してみたり、厨房の冷蔵庫に入ってみたり……一時期は、企業に大きな損害を与える“バカッター”と呼ばれる行為や人もニュースになっていましたよね。企業にとってはリスクがあまりにも大きいような……。

最所:私としても、企業が禁止したくなる気持ちは分かるんですよ。社員が1万人以上いれば、1人くらいは変な投稿をして炎上する人が現れます。そうすると「あの会社の社員が……」という噂が広まり、会社のブランドイメージを毀損する可能性がありますよね。

そうしたリスクはありつつも、発信する力を養ったり、マーケティングセンスを磨いたりするのに、SNSは有効だと思うんです。

--どういうことですか?

最所:今は企業単位とかプロジェクト単位でSNSのアカウントを運用することも多いですよね。TwitterのノリとInstagramの雰囲気、Facebookのお作法など、それぞれ特徴が違うじゃないですか。自分が普段SNSをやっていないのに、会社のアカウントを運用しようと思っても無理。「このワードは地雷だから踏まないようにしよう」という感覚も、普段からSNSで発信をしていないと分かりません。

「中の人」にファンが付く

--まずは個人のSNSで感覚を磨くことが、企業や商品の上手なPRにつながるというわけですね。

最所:はい。企業はSNSを禁止するよりも「これは言ってはいけない」という最低限のルールを決めて、その上でどんどん発信をしようと促すのが賢いやり方ではないでしょうか。今は企業対個人よりも、個人対個人の方がエンゲージメントが高い傾向にあります。ツイッターの「中の人」が人気なのは、ツイートに人間味が感じられるからですよね。企業の皮をかぶった「中の人」にファンが付いている。むしろこれからは、会社側が個人に乗っかる時代になるのではと思っています。

--ちなみに最所さんは、書いた記事が炎上した経験はありますか?

最所:これまで炎上したことはない……はず(笑)。でも先日、「『美女と野獣』というディズニーの壮大な実験」という記事を書いた際に、初めて否定のコメントがついたんです。「すごく面白い」と言ってくれる人がいた一方で、「そんなの当たり前でしょ」「何を今さら」というコメントも多くて。ピックアップに取り上げられて、読者層が広がったゆえの賛否両論とは理解していますが、受け取り方の違いには、衝撃を受けました。そういう反応も、経験しないとわからないですよね。

ムチャぶり防止にも役立つ

--読む人数が増えれば増えるほど、批判も覚悟しないといけないのかもしれないですね。では、個人が発信することで得られるメリットは何でしょう。

最所:仕事を選べるようになることです。私は独立したときに「独立するのを待っていました」と言っていただくことが多かったんですよ。発信を続けたことで、「何かあったらこの人と仕事をしたい」と思ってもらえる輪ができていたんです。記事を読んでもらうことで、話がスムーズになるのもメリットですね。

--というと?

最所:私の『note』を読んでくださった方は、「バズを生むような記事を書いてほしい」という依頼はしづらいと思うんです。雰囲気から、丁寧にファンを増やしていくスタイルが得意だと気づいてもらえるはず。幸いなことに、今のところ「これは私には合わない」とお断りする案件はほとんどありません。発信することで仕事のマッチング精度が高くなっているのだと思います。

普段の発信は「いかにギブするか」

--企業アカウントでも個人でも、「これはやってはいけない」という発信の仕方はありますか。

最所:たとえば、ふだんは音沙汰がないのに、イベントを開催するときだけ発信する人っていますよね。必要に迫られたときだけ発信するのは、ギブアンドテイクでいうとテイクしようとする発信の仕方。一度は反響があったとしても、絶対に緩やかに下がっていきます。

--確かに。「新商品をリリースしました」という告知ばかりだとうんざりしてしまうかも。

最所:そうですよね。『note』ではコンテンツを有料にすることもできますが、私の記事はほとんど無料で読んでもらっています。無償提供から始まって、回り回って自分に還ってくる。普段の発信でいかにギブするかが大事だと思います。

この10カ月ほど、毎日欠かさず記事をアップしているという最所さん。次回は、記事を発信し続けるコツや、人に届く記事をどうやって考えているかについて伺います。

(取材・文:東谷好依、写真:池田真理)