【睡眠】その「枕」、実は合ってないかも!? “正しい枕の見分け方”を専門家に聞いた

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寝つきが悪い。ぐっすり眠っているはずなのに、朝からなぜかだるい。疲れやすいともいわれる現代人、睡眠の“質”を改善させたいと願う人たちも少なくないだろうが、寝るときに欠かせないアイテムのひとつ“枕”についてちょっと考えてみるのはいかがだろう。

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寝るときに頭をのせる枕。記録によれば、紀元前2000年頃から使われていたようで、言葉も道具も使われていなかった時代、猿人・アウストラロピテクスが、石を砕いた枕を使っていたという。それは、眠るときに頭を支えるというのは、人間が自然と本能的に「大切である」と感じていた証拠でもある。

毎日使うものだから、自分にピッタリのものを選びたい。でも、何がそもそもピッタリなのかが分からない。そこで、神奈川県相模原市の16号整形外科に併設している「山田朱織枕研究所」へお邪魔して、枕のイロハを教わってきた。

感触で選ぶべからず! 寝る時に「首の角度が約15度前後で寝返りしやすいこと」が枕の理想

人間も動物の一種。いわれてみれば、ハッと気づかされる事実である。一見、意識がないと思いがちだが、「人間は睡眠中も身体を動かすことがたいへん重要です」と話すのは、山田朱織枕研究所の広報担当・齊藤真奈美さんである。

「赤ちゃんは教えもせずに自然と“寝返り”を打つようになります。これは、人間にとって必要な行動だからです。姿勢を変えずに固まったまま眠るのはよくありません。寝たきりの患者さんが“床ずれ”という症状を起こす場合も、まさにこれが原因ですね。

人間は寝返りを打つことで、血液やリンパ液、関節液などを循環させ、細胞や組織が健康な状態を保とうとします。また、睡眠には身体にかかった負担をやわらげる効果もあります。日常生活では歩いたり、物を持ったりするだけでも骨が少しずつ歪んでいきます。それを、本来の自然な状態へ戻したり、体温調整も寝返りの役割です」

例えば、横向きで同じ姿勢のまま寝ていると、下側になっている腕や太ももなどが次第にしびれてくるときがある。これがまさに固まったまま寝ているときの状態で、床ずれはそれがさらに進み、最悪、皮膚や筋肉が圧迫され壊死してしまう症状である。

日常で感じる慢性的な肩こりや首の痛み、起きた瞬間からある頭痛や腰痛、疲労感などの症状もそれぞれの“睡眠環境”に影響されると齊藤さんは話す。日本人口の5人にひとりが不眠症ともいわれる現代社会、それぞれの寝ている姿“睡眠姿勢”を改善する適切な枕を使用することで、患者さんからは『よく眠れるようになった』という声も多くあるそうだが、では、私たちは実際にどのような基準で枕を選べばよいのか。続けて伺った。

枕選び、ポイントは「首の角度」!

「みなさん寝具売り場に行かれたとき、その場で感じられる手ざわりや肌ざわりなどで選ばれることが多いと思います。でも、枕は本来寝ている間の姿勢を決めるものなので、身体に合うかどうかが重要なんですね。例えば、柔らかい枕は頭を預けたときにどれほど沈み込むのか。頭の重さは平均的に男性が5〜6kg、女性が4〜5kgといわれていますが、同じ素材でもやはり頭の大きさにより沈み込む具合いも異なります」

素材のやわらかさなどを求めがちだが、それはあくまでも「眠りに落ちるまでの感触です」と齊藤さんは話す。そこで、枕選びの基準として「首の角度が約15度前後」という数字と「寝返り」がキーワードになってくるという。

「仰向けになって『首の角度が約15度前後』になるように睡眠時間を保てるのが目安です。ちょうど頭と身体を繋ぐ首の骨“頸椎(けいつい)”には全身を司る大切な神経が集中しています。首は不自然な角度で曲がると首回りの筋肉が緊張し神経に栄養分を運ぶ血管が締めつけられ、結果的に神経を痛めることになり、肩こり腰痛などさまざまな症状を引き起こす原因にもなります」

「頭と身体の構造を考えても、人間は日常的にまっすぐな姿勢を保とうとすることで負担を抱えています。横になって寝る時だけ、唯一その負担から解放されるんですね。約15度前後というのは、整形外科の治療で行われる“けん引療法”と似たイメージです。頚神経に圧迫がない睡眠姿勢になることは、慢性的な痛みなどを抱えた方にとっては一晩中治療しているようなものです」

すぐに試してほしい。自分で作れる理想の“玄関マット枕”

寝具売り場やネット通販で自分の体形・体格に合わせた枕を選ぶのは大変難しい。しかし、身近なもので簡単に作れる、理想的な枕“玄関マット枕”の作り方を教えていただいたので、紹介していこう。

◎用意するもの
玄関マット(1枚)
新品で裏地までしっかりしたもの。ゴワゴワしたものではなく毛足が短いもので、サイズは横80〜90cm、縦50cmほど。

タオルケット(1〜2枚)
折りたたんだときに玄関マットより小さくならないもの。質感は玄関マットと同じく、毛足が短いもの。適度な硬さがあるものが望ましい。

バスタオル(1〜2枚)
タオルケットでもサイズが足りない場合の予備。

〈作り方〉

1)玄関マットをじゃばら状(Z型)になるように折る。大きな敷き布団をたたむようなイメージ。それぞれの端がピッタリと揃うようにするのが重要。

2)タオルケットを縦に2つ折りしてから、横に向けても2つ折りにする。その後、玄関マットと同じくじゃばら状(Z型)にして、先ほどの玄関マットの上に重ねる。高さを調整する必要があるため、タオルケットがめくれる方を、首を置く側にしておく。

〈調整〉
先ほど作ったものを、自分の身体に合うよう調整していく。誰か他の人にチェックしてもらうのがベストだが、ひとりで行う場合には姿勢を確認するために全身鏡などを布団やベッドのそばに置いておこう。

1)先ほど作った玄関マット枕をベッドや布団に置き、両手を胸のあたりでクロスさせた状態で横向きに寝る。

2)頭・鼻・アゴ・胸の中心のラインをチェック。それぞれチェックして、一直線に並んでいればオッケー。首が上がっている場合は高過ぎるため、タオルケットを1枚ずつめくってみる。首が下がっている場合は低過ぎるので、バスタオルを使って微調整する。

3)今度は上向きになる。首すじに押さえつけられているような圧迫感がないか、後頭部から肩にかけて力が抜けているかをチェックするのがポイント。タオルケットをめくったり、戻したりしながら微調整を行う。

4)上向きの調整も終わったら、手をクロスさせた姿勢のままで寝返りを打ってみる。左右に何度か転がってみて、頭と腰をひねることなく、同じタイミングで転がっているかどうかの感触に注意しながらチェックする。

取材する前、正直「枕ひとつでそんなに変わるのだろうか」とやや疑問も感じていた。しかし、玄関マット枕の作り方を教えて頂く中で、少しずつ大切さを実感。タオルケットをめくるたびに、たった数mmの違いでも首などの圧迫感が変わり、ともすれば「いっそこのままひと寝入りしてしまおうか」というほどの心地よさも感じられた。

寝ている時も動いているのは事実で、睡眠の重要性も論理的に解説してもらう中で改めてかみしめられるようになった。たかが枕、されど枕。山田朱織枕研究所では、それぞれの身体に合わせたオーダーメイドの枕やベッドも提案しているので、日頃から疲れを感じるみなさんには、ぜひとも自分に合った枕で快適な睡眠を手に入れてもらいたい。