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スターバックスの「多店舗展開」と「サードウェーブ」の違い

――スターバックスは現在、国内1,000店舗を越えていますよね。私の地元の金沢郊外にも、ドライブスルー併設のお店が増えていて、失礼ながら、初めて「スターバックス香林坊109店」を見た当初の「ありがたみ」のようなものが、若干、薄れてしまった気もします。人との触れ合いや温もりを大切にする「ていねいな暮らし」が流行る中で、スターバックスさんの「多店舗展開」は、そうした潮流と矛盾しないのかな、とも感じたのですが……。

梅本龍夫さん(以下、梅本):これはすごく大きなテーマです。最近、ブルーボトルコーヒーなどのサードウェーブが出てきていますが、それらはそもそも、事業の考え方として1,000店舗まではいかないと思います。ニッチプレイヤーなんですね。

ただ、そういうコンセプトのお店がたくさん出てくると、恐竜のごとく大きな存在になったスターバックスも、足元を食いつかれて動けなくなる……という事態になる可能性は、ありますよね。マクドナルドなどを見ても、それは感じます。それで、今、スターバックス コーヒー ジャパンが打ち出しているのは「1,000のお店、1,000の個性」ということなんですよ

――当時、スターバックス・コーヒー・インターナショナルの社長だったハワード・ビーハー氏の、「成長か死か」という言葉が印象的です。多店舗展開しても、お店ごとの個性は失わないということでしょうか。

梅本:均一化されて、どこへ行っても同じものが出てくるサービス――「アメリカ型」のチェーンオペレーション――のビジネスモデルは、もう古くなっているかもしれません。経営を見る視点として、そう思います。ただ、スターバックスもアメリカ型のチェーンオペレーションと同じようなことをやっているようで、実は「似て非なるものだ」というのがポイントなんですね。大量に同じ商品を作ることはしていますが、オペレーションは1店舗ずつ違う。

働く人が、目の前のお客様にとってどうしたらいいのか自分で考えて、自分で考えたことを表現するということを徹底しているんです。これは、事業を立ち上げたときから一貫しているやり方です。

――「お店のスタッフが自分で考える」という教育方針は、スターバックスを扱ったビジネス書でも度々取り上げられるテーマですよね。ただ、具体的なイメージが湧きにくい気もします。実際は、どういうことでしょうか。

梅本:たとえば、おっしゃったような金沢郊外のドライブスルー店について考えてみましょう。来店するお客様には、それぞれのライフスタイルがある。どうすれば自分たちが、そのコミュニティーに溶け込んで、価値ある存在になれるかと考える際にやるべきことは、六本木ヒルズのお店とは全然違うわけですよ。

根幹は同じスターバックスですから、価値観、コーヒーの質は共有している。そうしたチェーンオペレーションは同じですが、「表に出てくる部分では個性を出していこう」ということなんです。元々やってきたことを、もっと磨いて行こうという原点回帰なんですね。1号店、2号店、3号店のそれぞれのマーケット、コミュニティーに対して、それぞれどう変えていこうか、ということを今、また打ち出しているのです。

スターバックスとセブン-イレブンとの、意外な共通点

――ご著書の中で、「セブン-イレブン」について、経営者の目線から分析されていらっしゃいます。コンビニエンスストアであるセブン-イレブンと、スターバックスの戦略とは、素人目から見ると、違うように思えるのですが……。

梅本:先ほどの「1,000店舗になるとありがたみがなくなる」という話と繋がる、良い質問ですね。最近、ますます確信するのは、本当にセブン-イレブンはすごいということです。スターバックスのように、どのお店に行っても「個性」があるということではないので、ある意味では真逆です。ただ、徹底して標準化しているという点では、学べることがある。

何かというと、「店が増えれば増えるほどブランド力が高まる」ということです。スターバックスの1,000店舗というのは普通に考えても、とんでもない数ですよね。ファッションビジネスだったらせいぜい50店舗。アフタヌーンティーのティールームも、約100店舗なので、1,000というのはケタ違いなんですよ。そうなった時に「そんなにスターバックス、いらないよ」となる。ファッションビジネスからしたら、多店舗展開は「禁じ手」です。

ところがセブン-イレブンを見ると、消費者から「昔よりも今の方がもっといい」と思ってもらえている。昔のセブンのプライベートブランドは、安かろう悪かろうでしたが、今は「ちょっといいよね」と思ってもらえていますよね。

――確かに、お店が増えてもブランド力は落ちていない気がします。カウンターコーヒーなど、次々と、新商品をヒットさせていますよね。

梅本:セブン-イレブンのドーナツ、食べました? 全部100円均一なんですよね。ミスタードーナツとほぼ同じなんですが、毎日食べられる味になっているそうですね。甘さと、くどさのバランスをすごく工夫している。同じ食べ物でも、他のコンビニより、セブン-イレブンの方がいいかも、と思わせる。数が多いからブランドが落ちるんじゃなくて、数が多ければできることを、どんどん工夫してやっている。メーカーを巻き込んで商品を作る、そうするとブランド力が上がっていく。

「物量戦」で勝ちつつ「斬新さ」を出す

――セブン-イレブンのやり方を、スターバックスに当てはめると、どうなるのでしょうか。

梅本:「スターバックスが他のコーヒーチェーンに比べて、なぜ今、輝いているかというと、季節ごとの新商品をどんどん出しているんですね。ある意味「物量戦」ができている。定番の商品だけで、ある程度売れるのに、新商品を出す。昨年ヒットしたバナナのフラペチーノだって、原料が足りなくなったとニュースになりましたよね。それで、飲めないからまた来たくなる。内装や外装も、定期的にやり直しています。

すべてにおいて、スターバックスらしさは残しつつも、ソファから何から、お店ごとに違うんですね。お客様がスターバックス体験を共有する中で、「いいね!」と思ってもらうためには、常にそういうことに気持ちを向けてブラッシュアップしていかなくてはいけない。そこは、まさにセブン-イレブンと同じなんです。

――多店舗展開と革新性を持ち合わせている点が、スターバックスとセブン-イレブンの共通点なのですね。

梅本:今は、Wi-Fiが普通に使える店が、まだ意外と少ないですよね。アメリカでは、コードを繋がなくても、スマホを充電する装置を全店に導入するということもしています。そういう企画が実現すると、「スターバックス体験」がさらに新しいものになる。これまでのライフスタイルを維持したいという人もいますが、新しいライフスタイルを体験したい人は確実にいます。「半歩先」のものを常に提供していく。セブン-イレブンは「次の便利」を提供していますが、スターバックスは「次のライフスタイル、おいしさ、楽しさ」を提供していくんですよ。

――たとえばインスタグラムには、女子が「スタバで一息つく私」ですとか、新商品のフラペチーノをおしゃれに撮った写真をアップしていますよね。それが「おしゃれだ」というライフスタイルが定着しています。

梅本:若い人がインスタグラムにアップするのを含めて、ブランドというのは象徴なんですよ。その背景に美味しいコーヒー、美味しい生活があり、ある意味、精神的な豊かさがある。ネットに載せる写真というのは、それを切り取るわけですね。で、「いいね!」となる。それがブランドなんです。20年前の開店前から、スターバックス ジャパンの経営幹部はそれを見抜いていたんです。あのロゴがカッコイイと。

――最後になりますが、ブランド力との関連で、よく「店員さんには美男美女が多い」と言われていますね。

梅本:それは結果論だと思いますね(笑)。むしろ内面です。スターバックス的な雰囲気かもしれません。ただそういう雰囲気が得意じゃないお客さんもいると思いますね。「放っておいてよ」という人もいると思います。そういうお客さんにも、個々のスタッフが、どう対応していくかが身に付いたら、またスターバックスは進化すると思います。スターバックスはまだまだ途上ですよ。

(北条かや)