第5週第30回で恵里が挨拶回りをする場面がある。扉を少しだけ開けて隙間から顔をだす島田が「なに」と無愛想にふるまう。扉を開けて見せる仏頂面は北村有起哉そっくり。第7週第37回でも「なに」。偏屈な、なになにジジイなのである。

 成瀬巳喜男監督の『乱れる』(1964年)が筆者は大好きだ。加山雄三演じる森田幸司の義理の兄を北村和夫が演じた。出番は少ないが、喫茶店場面で加山と向かい合って座り、ひたすら知的で慇懃無礼なくらいがちょうどいいといった雰囲気が絶妙で、深い低音の声が魅力的な人だ。

◆かつての時代の余韻を生きている二世俳優

 北村和夫の簡単な経歴を紹介しておくと、1953年にテネシー・ウィリアムズの戯曲『欲望という名の電車』でスタンレーを演じ、杉村春子の相手役になったことから、1955年に文学座の座員になった(成瀬巳喜男監督の『晩菊』で元芸者・倉橋きんを演じる杉村春子は、世界映画史の名演として記憶されている)。根っからの演劇人である。

 北村有起哉もまた俳優デビュー作が舞台作品(『春のめざめ』)。と同時に今村昌平監督の『カンゾー先生』(1998年)で映画作品とWデビューした。北村有起哉は、今村監督が設立した日本映画学校(現在の日本映画大学)で演技を学んだひとりだが、今村監督と北村和夫は大学時代からの付き合いだった。

『にっぽん昆虫記』(1963年)など、今村組の常連俳優として映画の世界でも活躍した。2007年に北村有起哉は、『欲望という名の電車』で父と同じスタンレー役を演じている。父子の共演作としては、井筒和幸監督の『のど自慢』(1999年)がある。共演といっても、同じ画面を共有しているわけではない。同級生たちとカラオケでだべる坊主頭の高校生を演じる息子。孫を可愛がる老人を演じる父。

 重厚な演劇世界と端正な映画世界を渡り歩く俳優の父がいて、息子もまた俳優として飛び込んだ。二世俳優なんて言葉が細く痩せて聞こえるくらい、豊かで分厚い俳優の世界があった。二世俳優としての北村有起哉は、その名残り、かつての時代の余韻を生きている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu