※写真はイメージです(以下同)
―連載「沼の話を聞いてみた」―

「巫女(みこ)の資格で、本業に特色を出したい」
「教養として正しい所作を学びたい」
「巫女として活動したい」

聖なるものへの憧れという需要を拾う、民間の「巫女養成スクール」がある。今回はそこが怪しげな商売の「狩り場」となっている話を紹介しよう。
話をしてくれたのは、50代の石倉絹江さん(仮名)。長年スピリチュアル業界で仕事をしてきたつながりから巫女養成スクールの起ち上げに携わり、さまざまな内情を知る立場になったという。

◆目標は「社会での活躍」

巫女養成スクールを運営しているのは、地方に本部のある神道系の某新宗教団体である。神社庁(※)に所属していない神社であるので自由度が高く、また、スクールから送り出される“認定巫女”たちの活動も同様である。

(※神社庁:神社本庁の地方機関として、各都道府県に設置されている。神社庁の管理指導を行うのが、神社本庁。伊勢の神宮を本宗と仰ぐ全国約80,000社の神社を包括する団体である。有名な神社(伏見稲荷大社や日光東照宮、靖国神社など)も、神社庁に所属しておらず、神社本庁以外にも神社神道系の包括宗教法人があるので、どれが「正当」ということはない。)

そもそも一般的には、巫女になるために特別な資格は必要ないとされているが、このスクールでは「巫女の精神を学ぶことで、社会で活躍できる女性になれる」というようなことがウリにされている。

◆発信源は、マルチの上位会員

コミュニティ提供の場でもあり、スクールが主催するさまざまなイベントで、学びをアウトプットする機会も設けられている。しかしそうした場が、どうもきな臭い。

「巫女養成スクールの生徒たちがイベントに派遣されてコンパニオンのように扱われたり、そこで酔客からセクハラに遭ったり。スクールで教える内容が一部、適当なものであったり。問題は多々ありますが、いちばん見過ごせないのは、スクール内で蔓延(まんえん)するマルチ商法と疑似科学ビジネスです」

巫女認定のための受講は短期間で終了するが、スクールから認定証を授与された巫女たちは、横のつながりを保ったまま、さまざまな活動に参加している。そのコミュニティの古株メンバーが、某マルチ商法会社の上位会員なのだとか。そして認定巫女たちのあいだで、マルチ商法が広がりつつある。

さらに、効果の怪しげな健康器具を販売する代理店の勧誘もある。

スクールの生徒には、絹江さんの元教え子が複数人いる。絹江さんが起ち上げに関わっているとSNSで知ったことが、参加のきっかけだった。それゆえ「責任を感じ、スクールに関わったことを後悔している」と苦しい胸のうちを筆者に打ち明けてくれたのだ。

元教え子である20代の女性は、巫女養成スクールでマルチ商法会社に登録したきっかけを、こう話していたという。

「商売にそんなにガッツリ関わるつもりはなくて、お小遣い程度の収入になればいいかなってくらいの気持ちです! 私もサプリはよく飲むから、会員価格で変えるならありがたいし」

◆スクール側も野放し状態

巷のマルチ商法も、こうした軽いノリで登録する人は多いだろう。仮に損はしなくても、そうした業者へ個人情報を渡すのは、業界内で共有される騙(だま)しやすい人リストに入れられているようなものだと説明しても、後の祭りである。

「スクール発足前は、運営団体からこんな話も聞いていました。巫女の活動を通じて地域とつながり、生徒たちが手に職を得たり、地域のボランティア的に独居老人の助けになったりするといいね、と。

それには私も、賛同していたんですけどね。ところがどんどん、そんな健全な理念を掲げる場から、かけ離れたものとなっていきました」