居酒屋でデザートばかり頼んだのは、たわいもない一言がきっかけだった

写真拡大

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)と診断されたご主人とのちょっとユニークな日常生活をInstagramで発信している、ちくわさん(@chikuwa_bloger)。彼女のコミックエッセイ「好きになった人はアスペルガーでした」は、ちくわさんとご主人の出会いから、沸きあがる違和感、まさかのカミングアウトを経て、それを受け入れ結婚するまでを描く。今回のテーマは「違和感を抱いた日」。

【漫画】アスペルガーあるあるの「異常な集中力」「言われた言葉をそのまま受け取る話」を紹介

テニススクールに通うちくわさんは、担当テニスコーチ(のちのご主人)の非常識な言動にうんざりしつつも、どこかユニークな人だと感じていた。やがて、コーチが義理チョコで無邪気にはしゃいだり、仕事の悩みに正論でズバリ答えたりする姿に「裏表のない、信頼できる人」と好感を抱き交際を始める。ただ、その率直さや極端な言動はアスペルガー症候群の特性によるものだった。ちくわさんは、そのことをまだ知らない。

■「違和感を抱いた日」

本格的に付き合い始めたふたり。だが、ボウリングデートで早くもちくわさんは彼に違和感を抱き始める。ちくわさんに負けた彼はいきなり翌日から、コーチを雇ってマイシューズを手に入れ、さらに毎朝20ゲームの猛特訓を始めたのだ。

その後のデートで見事リベンジを果たした彼は、なんとその日からぱったりと特訓をやめた。ちくわさんは、たかがデートの遊びに過ぎないボウリング勝負で、異常な集中力を見せた彼の姿に違和感を抱く。またある日、海鮮居酒屋に行った2人。ちくわさんが「好きなもの注文して」と言うと、彼は…。

海鮮居酒屋での乾杯直後のテーブルが、彼の大好きなデザートで埋め尽くされた。「確かに『好きなもの』とは言ったけど…」。ちくわさんはその極端さに、強烈な違和感をぬぐえなかった。

■今でこそ分かるアスペルガーの特性も、その当時は驚くばかり

「ボウリングにかける熱量は本当にすごいものでした」と振り返るちくわさん。「負けた次の日から、朝4時半スタートで20ゲームを毎日投げ続ける集中ぶり。私もボウリング好きですが、友達と投げ放題したときも腕が疲れて5ゲームが限界でした(笑)」。漫画には描かれていないが、彼(ご主人)はさらにマイボールを購入するつもりだったらしく、全力で止めたという。「この人の入れ込み方や集中力は半端ない、と驚嘆した瞬間でした」

このエピソードは、アスペルガー症候群の特性の一つ「過集中」では、とちくわさんは分析する。「過集中の状態では、一度何かに夢中になると、食べることや寝ることさえも忘れて没頭してしまうのです。また、アスペルガー症候群の人は、興味が限定されやすい傾向も。一度興味を持ったものに対しては、時間やお金の概念も忘れて、どんどんのめり込みます」

これが、はたから見ると「どうしてそこまで?」と変わった人に映ってしまう。「ちなみに、私へのリベンジを果たしたあとは、すっかりボウリングへの興味はゼロに。せっかく購入したシューズなどには目もくれず、その日以来、一度も夫はボウリングをしていないそうですよ(笑)」

■言われた言葉をそのまま受け取る特性にも戸惑う

居酒屋での一件も衝撃だった。「確かに『後は好きなもの頼んで』とは言いましたけど、乾杯直後にまさか1人前のデザートを4つも注文するとは度肝を抜かれました」とちくわさん。アスペルガー症候群の特性である「言われた言葉をそのまま受け取ってしまう」典型的なケースだという。

「例えば『お味噌汁見てきて』と指示をした場合、普通なら『火にかけたお味噌汁が沸騰して噴き出していたら、蓋を開けて火を止めてね』という意味だと理解します。でも、アスペルガー症候群の人ははっきりと言語化されていない部分が想像できず、ただ沸騰したお味噌汁を見つめているだけになったりします」とちくわさん。「居酒屋の件も、今ではその特性が出たものだと分かるのですが、当時の私には知るよしもなく、ただただびっくりしましたね」

ちくわさんのケースに限らず、みなさんも、指示をその言葉通りに受け取ってしまう人に出会ったことはないだろうか。似たような出来事がいろいろと積み重なっていき、ちくわさんの困惑はこれからさらに深まっていく。

なお、ちくわさんのご主人の場合は、人の気持ちを想像できない特性に加え、多動性や衝動性に代表されるADHD(注意欠如・多動症)の特徴もあるタイプ。漫画内や記事に出てくる特徴の描写はあくまでちくわさんとご主人のケースに対する説明で、すべてのアスペルガー症候群の方に当てはまるわけではないことを念のため補足しておく。

取材・文=折笠隆