お金持ちは、モテる。ゆえに、クセが強いのもまた事実である。

そして、極上のお金持ちは世襲が多く、一般家庭では考えられないことが“常識”となっている。

“御曹司”と呼ばれる彼らは、結果として、普通では考えられない価値観を持っているのだ。

これは、お金持ちの子息たちの、知られざる恋愛の本音に迫ったストーリー。

▶前回:「駅前で30分待機…」美女と付き合うために、ストーカー気質の男がしたありえない行動




裕子(29)「手料理を喜んでくれると思ったのに…」


昨日、最近お付き合いを始めた彼氏の拓人が、初めて家に来てくれた。

私の家は、中野駅から少し離れた場所にある1DK。決して華やかではないが、デザイナーズマンションで気に入っている。

拓人は、私がきちんと自立して住んでいる家を見に行きたいと言ってくれたのだ。だから、先週から彼が自宅に遊びに来る日をずっと楽しみに過ごしていた。

拓人が喜んでくれると想像し、得意料理を披露しようと決めていた。買い物から料理の下ごしらえまで、準備は万端だ。

タンドリーチキン、トマトクリームパスタ、海鮮サラダ、きちんと裏ごしをした南瓜のスープ。“料理上手な女子”のメニューを並べると、地味な我が家も華やかに見える。

だが、これほど頑張ったのに、拓人は食事をほとんど残して帰ってしまったのだった。

「ごめんね。僕、あんまりお腹が空いてなくて…」

料理は美味しいと言ってくれたはずなのに…。一体、どうしてだろう?


彼はなぜ、足早に帰ってしまったのか…?


拓人との出会いは、数ヶ月前。

「誰かいい人がいたら、紹介してくれない?」

元彼とは音信不通で別れてしまったので、もうそろそろ彼氏が欲しいと思っていたのだ。私は知人に会うたび、繰り返しそう伝えていた。

知人に頼むのは、理由がある。それは、マッチングアプリで出会った男と付き合い、数ヶ月で別れるという恋愛を3回ほど繰り返し、心身ともに疲弊していたからだ。

最近の恋愛経験から、初見の人との恋愛は難しく、知人の紹介ほど信用のおけるものはないと実感していたのだ。

そして、大学時代の同期が紹介してくれたのが、拓人だった。

「初めまして。拓人と申します」

― うわ…!身長が高いな。

第一印象は、背が高いことだった。拓人の身長は185センチもある。

俗にいう“イケメン”の部類ではないが、鼻筋が通っていて、細めの目がキリッとした印象を引き立てていた。

そして、拓人がお金持ちだということは、彼の小綺麗に整えられた身なりや持ち物から想像できた。

「うん。一応…親は医療法人の代表をしているよ」

恵まれた環境にもかかわらず、家業を継がずにベンチャー企業の代表をしているそうだ。それを、親からよく思われていないと最初のデートで笑いながら話してくれる。

尊敬できる親から認められているからだろう。彼から発する言葉から、自己肯定感の高さがうかがえる。

それは、育ちのいい人が持つ、特有のものに思えた。




拓人が住んでいるタワーマンションも、親に買ってもらったらしい。

「もうそろそろ、引っ越したいんだけどね…」

マンションを買ってもらうことが特別ではないと思っている、憎めない口調だった。

私の親は大企業のサラリーマンというだけの、一般家庭。彼のそんなお金持ちなところも、“いいな”と思ったポイントだったのだ。

それから、デートを重ねてもなかなか告白をしてくれないな…と思っていた。

だが、ついに6回目のデートの最後に彼の自宅へ行き、晴れて男女の関係になったのだ。

「将来を考えて、裕子と付き合いたい」

こうして拓人からの告白で、私たちは正式に付き合うことになったのだ。



― 家は綺麗だし、料理だって悪くなかったはずなのに。なんでだろう…。

拓人が自宅から帰ってしまったあと、私は何が悪かったのか考え込む。すると、拓人からLINEが届いた。

『今日は帰りが早くてごめんね。電話できるかな?』

『OKだよ!』

数分後。拓人から電話で伝えられた事実に、私は大きな衝撃を受けてしまうのだった。


電話で告げられた、拓人の衝撃的な秘密とは…?


「ごめん。直接言うのは気が引けてしまったんだけれど、僕、食洗機のない家で生活をしたことがなくて…その…」

拓人は、食洗機のないキッチンで作ったご飯を食べたくなかったということらしい。

私は、かなりの衝撃を覚えた。

― それならば、最初からそう言ってくれればいいじゃない…。

思わず口から出てしまいそうになる言葉をグッと堪えて、そうだったんだねと言うのが精いっぱいだった。

そういえば、これまでデートで行った店は食洗機がありそうなところばかり。それに加えて、拓人はかなり綺麗好きなことも思い出した。

料理の取り分けには必ず取り箸を使うし、いつもアルコールスプレーを持ち歩いていたのだ。

― 潔癖気味なのかもしれない…。

これから手料理を振る舞うときは、拓人の家のキッチンでということに決まった。

だが、私は先行きが不安な気持ちでいっぱいとなってしまったのだった。


拓人(29)「食洗機がない家で食事。僕には無理だ…」


裕子は、俗に言う“美人”ではないが、愛嬌があり社交的。それに、話すと少し強気な性格なところが僕のタイプだった。

裕子との出会いは、友人からの紹介である。

「なあ。紹介したい人がいるんだけど」

仕事が楽しすぎて、35歳くらいで結婚できればいいや…と思っていた僕は、恋愛をしたいという気持ちが今までなかった。

僕はベンチャー企業で働いているので、人脈を大切にしている。その界隈でお世話になっている知人に紹介をお願いされたら、断れないのだ。

そういった理由で、裕子を紹介してもらった。僕にとって、久しぶりの恋愛だった。

社会人になってからは、恋愛より仕事優先。また忙しさからか、人を好きだという感情を、僕自身よく理解できていなかったのだ。

3ヶ月デートを続けてもなかなか告白しない僕に、裕子が不安を覚えていたのは伝わっていた。

それでも、裕子は優しかった。

仕事で待ち合わせに遅れても、嫌な顔一つしない。先に店に入って、1人で時間を潰して待ってくれている。

それに、家が近いというのも好都合に思えた。

裕子は中野で、僕は西新宿のタワーマンションが住まいだ。そう遠くない距離なのでタクシーでも行きやすい。

― なんだか裕子といるとホッとするな…。

付き合う前の最後のデートで焼き鳥店に行ったとき、そう思った。

― これが“好き”という感情なのかもしれない…。

こうして、裕子をタワーマンションに連れて帰り、翌朝に告白をした。




「裕子ちゃん。きちんと将来のことも考えて付き合いたいんだけど」

「え…ありがとう。まさか告白されるとは思っていなかった」

正式にお付き合いを始め、家に呼んで手料理を振る舞うと裕子が言ってくれたときは、本当に嬉しかった。

しかし、キッチンを見て、完全に食欲が失せてしまったのだ。

― え…待てよ。食洗機が、ない…。

実家にはMieleの大きな食洗機が付いていた。もちろん、今住んでいるタワーマンションも食洗機付きだ。

食器は食洗機が洗うものだと思っているし、そうでなくては汚すぎる。

「いいわね、拓ちゃん。食洗機付きのお店以外は汚いから、なるべく避けるようにしなさいね」

幼いときから母に伝えられていたことが、僕の価値観として大きく刷り込まれているのかもしれない。

だから、僕は裕子の家から自宅へ早々に帰ってしまった。

裕子との関係は今後も続けていきたい。なので、電話で今日の帰宅理由を伝えることにしたのだ。

― 話せば、裕子はわかってくれるかもしれない…!

そんな思いを秘めつつ、電話で食洗機のことを伝えた。申し訳ない…とも思ったが、僕はやはり譲れなかったのだ。

すると裕子は、どうやら理解を示してくれたようだ。

― やっぱり裕子は最高だな!

近い将来、裕子と結婚するとなったら、今のマンションを売ったお金で新しいマンションを買おう。

そのときも、きちんと食洗機がある物件を選べばいいだけの話だ。

裕子に食洗機のことを話してよかったと心から思う。これから彼女と結婚を前提に、どう関係を育んでいこうかとても楽しみだ。

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