1996年に『いきいき』として創刊され、2016年に『ハルメク』と名称を変更した50代以上の女性をターゲットとした女性誌です。

「そういえば実家にあった気がする」「母親が読んでいる」と思い当たる人もいるのでは?

『ハルメク』は、書店には売っておらず自宅に配送される定期購読のみで22万部*を売り上げ、雑誌以外の通信販売や旅行、イベント、店舗などのサービスを展開してシニア女性の暮らしを丸ごとサポートしています。
*2018年11月号

編集長を務めるのは、山岡朝子(やまおか・あさこ)さん(44)。新卒で「主婦と生活社」に入社し、雑誌の編集長を歴任。2017年7月に株式会社ハルメクに入社し、8月に同誌の編集長に就任しました。約1年半で実売部数を約1.5倍に引き上げた山岡編集長に話を伺いました。

最終回は、PDCAの回し方と山岡さんが目指すことについて聞きました。

PDCAを回してコンテンツを成長させていく

--読者の声やデータを大事にしているということで、PDCAもうまく回っているというお話がありました。PDCAがうまく回った例を教えてください。

山岡:11月号でスマホの使い方を特集したのですが、実は、スマホの特集をするのは3回目だったんです。

2017年7月号でスマホを初めて特集して、数千人規模で新規購読のお申し込みがあったのですが、一方で、読後の満足度が低かったんです。

分析してみると、読者が知りたいこととズレがあった。たとえば「アプリ」や「ダウンロード」という言葉も、意味がわからないという読者が多かった。

「スマホの使い方を教える」というテーマでニーズを発見できたのはよかったけれど、期待されたレベル感とは違っていたということですね。

そこから、PDCAを回して作ったのが2回目(2018年3月号)です。普通は2回目ならレベルアップするところをレベルダウンしたんです。

--レベルダウン?

山岡:はい。あらためて「スマホの何に困っているのか」を調査したら、「画面が回転するのが困ります」「すぐ暗くなっちゃうのを止めたい」「『位置情報の利用を許可しますか?』の表示の意味が分からない」など、ものすごく基本のところで止まっていることが分かった。そこに徹底的に応えるようにしたら、この号は、1回目の5倍を超える記録的なお申込みをいただきました。

1回目を受けて、PDCAを回して、2回目を作ったら売り上げが爆発して、「そこだ!」と読者のかゆいところがわかった。11月号の第3弾では、第2弾をもとにさらにPDCAを回して、売上げ記録を更新しています。

--「第2弾がヒットしてよかったね」で終わりではないんですね。

山岡:シニア世代のスマホに対するマインドは日々変化しています。PDCAを回す過程で、変化に気付き、すくいとり、前回を超える新作を作っていく。

実は、取り上げる内容だけでなく、キャッチコピーの語感など細かい部分も少しずつ変えています。

そうやってコンテンツを育てていけるのも、当社がデータ収集と分析に優れているからでしょうね。またPDCAを回して第4弾を作ると思います。

女性の心の機微に寄り添っていきたい

--山岡さんの今後の展望を教えてください。

山岡:部数は確かにすごく伸びたのですが、そうは言っても、シニアの方の人口を考えたら少ないほうです。まだ伸びしろがあると思って、もっと多くの方に読んでいただけるように頑張りたいですね。

もう一つは、当社の強みである、情報とモノ、情報とコトの連動を、さらに広げていきたいです。例えば「グレイヘア」という言葉が、今年の「新語・流行語大賞」にノミネートされました。

今はまだ、誌面で「グレイヘア」を特集して、素敵な女性たちのスナップを紹介したり、美容院でグレイヘアをオーダーするときのコツをまとめたり……というだけですが、将来的には、「グレイヘア」関連の商品の開発・販売まで一貫してできたら、読者の方にもっと喜んでいただけるかなと。

これはあくまで一例で、さまざまな特集において、そういった連動を拡大したい、それによって、読者のニーズに、情報だけでなく、モノやコト全体で応えていければいいなと思ってます。

商品の開発には時間もお金もかかるので、そう簡単ではないですが、実現すれば、本当に丸ごとシニアの期待に応えられる。私の仕事というか、会社全体のミッションとして、取り組んでいけたらいいなと思っています。

--各部署をもっと深く連動させるということですね。

山岡:世の中まだまだ、会社の重要な意思決定は男性によるところが大きいですよね。でもハルメクの読者は女性です。

「いくつになっても若々しく素敵でありたい」「でも白髪染めを続けるのもストレス」「だからといって白髪染めをやめたら老けてしまうかもしれない」「素敵なグレイヘアの写真を見るとワクワクする」「でも……」というような、迷ったり悩んだり戻ったりしながら答えを探す女性の心の機微を、経営の意思決定の場でも大切に発信して、各部署の連動を推進していけたらいいなと思っています。

--世の中はまだまだ「若いほうがいい」「アンチエイジング」のほうが多数派です。でも、ありのままの自分をいかに受け入れて、加齢を楽しんでいくかという視点も大事だし、そう思っている女性もいると思います。

山岡:髪が白くなれば、赤い口紅も映えるし、華やかな色の服が似合うようになったり、おしゃれの幅の広がります。体力が落ちて飛行機の移動が辛くなっても、時間がたっぷりあるのだから、若いころにはいけなかった船旅に出てみるのもいい。加齢によって失うものよりも得るものに目を向けて、いろいろな提案をしていきたいですね。

(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)