波瑠さん主演のドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系)が、巷で話題です。

火曜22時のドラマ枠は、漫画原作の『逃げ恥』で「ムズキュン」ブームを起こした枠。ストーリーを漫画とはまた違う上手な調理をして、たくさんのドラマファンを生み出しました。

『あなたのことはそれほど』も、原作をかなり加工しています。
セリフやト書きを足したり消したり、別のところに配置したりして、違う解釈をするように構成しているといったほうが正しいかもしれません。

第1話を観た身近の原作ファンたちは「こんなの『あなたのことはそれほど』じゃない」「主人公の美都が嫌な女に描かれすぎ。もっと淡々とした、切なくて苦しい、いい話なのに……」と大ブーイングでした。

波瑠さんにいたっては、自身のブログで自分が演じる美都のことを「後ろめたさ、罪悪感ゼロ」「共感もできない、応援もできないような女性」と書いています。

中2のときの初恋の相手・有島と、30歳になる年に偶然奇跡的に再開し、この出会いは「運命だー!」と彼との不倫に突っ走る美都。

有島が「息を吐くように女性を喜ばせることを平気で言う男」に成長していたことも作用して、美都は「彼以外、周りがまったく見えない」恋愛真っ只中状況に陥ってしまいます。だから、うしろめたさも罪悪感もない。波留さんのいう通りです。

でも、美都は完全に「運命の恋に突入」モードになってしまっているのだから、仕方がないともいえます。

原作の美都にも葛藤はありません。ただただ、ひたすら有島に恋をしてます。会える日は嬉しいし、会えなくなったと言われると一気に落ち込む。単純です。

ドラマでは東出昌大さんが演じていますが、夫、涼太のことは、「2番目に好きな人」。「あなたのことはあなたで、好き」だから、一緒にいる時間は、それはそれで楽しい。

「1番じゃなくてごめんなさい」という上から目線もないし、「好きでもない男と一緒にいて我慢してやっている」という感じでもありません。
原作では、美都のそういう気持ちが丁寧に描かれているから、「人を好きになる気持ちってしょうがないよね。だって人間だもの(byみつを)」という共感ができるのです。

でもドラマでは、運命の恋にはしゃいでいる美都と向き合う涼太の顔が不気味すぎて、美都がえらくひどい女に見えてしまいます。それこそ、「カメラワークが大げさすぎ」「東出の無表情の顔がストーカーみたい」と原作ファンはゲンナリです。

また、「美都の目を見開いた顔にイライライライラする」「キョトンって顔すんな!って思わず突っ込みたくなる」と、波瑠さん演じる美都への嫌悪感も強い。

と、思ったら、4話のラストでハッキリしました。

このドラマは「人間って色々ダメだし、過去にとらわれもするし、なかなか難しいけれど、それでも生きていかないといけないんだよね……」というもやもやを味わうのではなく、「不倫ホラーサスペンス」として観ればいいんだ!と。

短絡的な不倫をしたバカ女・美都が、どんどん追い詰められて不幸になっていく様子を「こっわーい」と眺めていればいい。

そう考えれば、出演者たちのホラーっぽい目の動かし方や、サスペンス的な間の取り方も納得がいきます。

不倫ホラーサスペンスなら、あら面白い! ネットでも、4話のラストで「涼ちゃんが美都にあげた誕生日プレゼントが怖すぎる」と話題になっています。ネタバレは避けますが、プレゼント自体は旦那様からもらったら最高にうれしいものだと思います。ただ、東出昌大の演技が。そして演出が。完全にホラー仕立てなんですよね。

 5 話予告のあとの美都のモノローグ「私の夫は、全然普通なんかじゃなかった」には、制作側の「これからホラー展開がはじまります!」という心意気すら感じました。

不倫ドラマ、とくにW不倫ものにハッピーエンディングはありえない、というのはドラマのルールです。不倫男女が「いけないことだとわかっているけど、だからこそ、一生背負って静かに生きていく」か「どちらか、あるいは両方が死を選ぶ」といったパターンが多い。でも、今回はそこにも着地にしないようです。

有名人の不倫のニュースが多く取沙汰され、非難轟々だという世相もあるのだと思います。世の中じたいが「結婚してたって、人を好きになっちゃうのはしょうがないじゃん」「だって運命を感じたんだもの」という、浮っついた既婚者の恋心なんて許しませんからね!という流れになっている気がします。

だから、ドラマでは、美都が必要以上にヒール的に演出されているのではと思うのです。誰もが「お前はこれから地獄を味わうがいい」と素直に思えるように、美都を悪者に描いているのでは、と。
波瑠さんご本人も、ブログに「(美都を演じることは)損の連続かもしれない」と書いていました。

でも、逆に、「ホラー」であれば大丈夫。
ホラーは非現実の世界ですから、美都が嫌い=演じている人を嫌いになる、という構図にはなりません。とことんコワい演出で「これはホラーなんですよー」というアピールをして、今にも心を病みそうな波瑠さんを助けてほしいとすら思います。

それにしても、「結婚後に運命の人に出会っても決して手を出してはいけないよ」「恋の奇跡とか信じている女は地獄の淵にいるだけだよ」という、このドラマのテーマは、働く独身OLの心に強く響きます。

原作の主人公は、葛藤のないまま恋に突っ走る行き当たりばったり感が、むしろ人間らしくで共感できたのだけど。

妥協して結婚したあと運命の人に出会っちゃったら……。その2では婚活中の働くアラサー&アラフォーに「2番目に好きな人」との結婚ってアリ?ナシ?を聞いてみました。