職場は見渡す限り異性だらけ。それでも、この仕事が天職と言える……。そんな“紅一点”や“黒一点”として活躍するプロフェッショナルへのインタビュー。記念すべき初回は、25歳で春風亭小朝さんに弟子入りした女流落語家・春風亭ぴっかり☆(しゅんぷうてい・ぴっかり)さんです。

関東の落語家には前座、二ツ目、真打ちという階級が存在していますが、男ばかりの世界で二ツ目に昇進後、翌年の「NHK新人演芸大賞」でいきなり決勝に進出し、話題をさらいました。

その後も10日間連続独演会、全国ツアー、海外公演や、「笑点」若手大喜利をはじめとするテレビ・ラジオへの出演など、落語だけにとどまらない活動を精力的にこなし、長澤まさみさんら有名女優を抱える東宝芸能株式会社に所属する、初の落語家としても知られています。

そんなぴっかり☆さんに、男性だらけの世界に飛び込んだ理由や、女流落語家としてのやりがいなどをお聞きしました。

ミュージカル女優の卵から落語家へ

――まず、落語家になったきっかけを教えていただけますか?

春風亭ぴっかり☆さん(以下、ぴっかり☆):実はもともと、ミュージカル女優になりたかったんです。それが子どもの頃からの夢で、女優になるために専門学校にも入ったし、演劇やミュージカルばかり観ていました。

でも、ある時「日本の伝統芸能を見たことがないな」と気づいて、勉強の一環として落語を聴いたんです。なので落語との出会いはすごく遅かったんですが、そこで衝撃を受け、「私も落語をやりたい!」と決意しました。一目惚れに近いですかね。

ちょうどその頃、ミュージカルの勉強のため、ロンドンに旅行していたんですが、帰国して2日後には(春風亭)小朝の楽屋を訪ねていました(笑)。

――すごいスピード感ですね!

ぴっかり☆:入門を決意した2006年当時は、女流落語家は10人前後しかいない時代でした。「私自身が、大好きだと思える師匠」そして「女流を受け入れてくれる師匠」。どちらで考えても、小朝にしか行き当たらなかったんです。他の師匠とはいっさい迷いませんでしたね。

何回かは断られるのを覚悟で行ったにもかかわらず、すぐに弟子入りが決まりました。翌日には「春風亭ぽっぽ」という前座名ももらって、人生が一気に変わりました。いきなり噺家生活突入です。

――それにしても、ミュージカル女優から落語家というのは、かなり大きな方向転換のように感じますが……。

ぴっかり☆:そうですね。でも、演劇も落語も、「生の舞台でお客さんと時間を共有する」という点は同じです。

それに、落語家という職業は枠に縛られない魅力があるんです。古典落語をやる人もいれば、新作落語をやる人もいる*。タレントみたいな活動をしている人もいれば、市議会議員もいる。最初は「何なんだ、この職業は!?」と思いましたね。これだけ幅がある伝統芸能はないんじゃないかと。だから、迷いはなかったですね。

*新作落語…江戸から昭和に至るまでに作られた「古典落語」に対して、現代を題材に創作された落語を指す。

24時間営業のスーパー銭湯で励まし合った前座時代

――お客さんからの反応はいかがでしたか?

ぴっかり☆:「女の人もいるんだ!」と驚かれることが多かったんですが、なかには「俺は女流落語なんか認めない」という声を聞いたり、肌で感じたりすることもありました。

――同性が少ない中で、ストレスが溜まった時や仕事上の悩みに直面した時、どうやって解消していたんでしょうか?

ぴっかり☆:芸については師匠から盗むしかないので、悩む暇もないくらいにがむしゃらに取り組んでいました。ただ、これほどの男性社会の中で女性としてそこにいるストレスはやはり大きかったですね。女流の同期と夜中に24時間営業のスーパー銭湯に通行って愚痴をぶちまけたりしたこともありました。とはいえ、覚悟して入った男性社会なので、そのなかで生きていくうちに、マインドがだんだん「男性化」していくんですよ。結果的に、男女問わず仲間とは腹を割って話せるようになりました。

女性が古典落語をやることには、まだまだデメリットが多い

――女流ならではのメリットはありましたか?

ぴっかり☆:10年間落語をやってきましたが、こと古典に関して言えば、女性がやることにはデメリットしかないと思います。

――デメリットしかない?

ぴっかり☆:はい。もともと、古典落語は男性の視点で、男性が語るように作られているものなので、それを女性がやるのは落語の骨格をまるまるひっくり返すようなものなんですよね。もちろん、まだまだ私が未熟だからうまくモノにできていないというのもあるんですが。

――2016年10月に行われたNHK新人落語大賞のインタビューで「女の人の悪い癖を排除しようと頑張ってきた」とおっしゃっていましたね。

ぴっかり☆:それは技術面の問題ですね。私自身がそうなんですが、女流には、声が高くて語尾をギュッと上げてしまう傾向があるように思います。通常、独演会だと1時間くらい話し続けるものですから、話し方に癖があると耳障りに感じてしまうんです。「女だから聞きづらい」というところは直せるなら直したいので、声質や音程には気をつけています。

それでも、私が女だということは変えられない。それは個性ですから。だから、「女流落語は認めない」と言われても「私は男にはなれませんから」と開き直っています(笑)。万人に受け入れられないのはわかっていますから、「いい」と評価してくださるお客さんを増やしていくしかないなと思います。

――開き直る強さも必要なんですね。

ぴっかり☆:女性にしかない感性で落語の世界を面白く伝えられたら、私たちの存在価値も出てきますしね(笑)。

最近は女流落語家も30人くらいに増えて、落語ファンの間でも「女流って当たり前になってきたよね」と、ほんの少しずつ空気が変わって来たように感じます。そうやって女流を認めてくださるお客さんが増えていく中で、師匠のように、場の空気を華やかにする「ちび小朝」になる。それが私のずっと抱いている夢です。

(小泉ちはる)