なぜお笑いファンは芸人に「上から目線」なのか?元 M-1 ファイナリストも感じる“ファンとのいびつな関係性”
最近お笑い芸人の「ファン事情」に注目が集まっています。

見た目に惹かれて推し始める「顔ファン」やネタを深堀りして考察する「ネタファン」、そしてその中でも目立った暴走をして周囲に迷惑をかけてしまう「痛ファン」など。昨今ではファンの在り方について、応援される芸人たち自身も様々な意見を発信しており、たびたび論争が起きています。

◆ネタに上から目線で本人にダメ出しするファンも

先日、とあるお笑い芸人のファンが、ライブを見に行ったけれどネタがつまらなくて帰りの新幹線の中で泣いたというテキストをnote記事として公開してSNS上で「例のnote」として話題になりました。驚いたのは、このファンがSNSの投稿やリプライで、わざわざ本人や他のファンに伝わるような方法で日常的にダメ出しをしていたということ。

しかし、このファンでなくとも、賞レースやネタ番組で芸人が披露したネタに、独自のジャッジをしてダメ出しをするファンは少なくありません。中には「上から目線」であることも。

アイドルやアーティスト、俳優のファン界隈において、歌や演技についてここまで直接的にダメ出しをするケースはあまり見受けられません。なぜお笑いファンの間では、こうしたことが当たり前のように行われているのでしょうか。もしかしたら、他の芸能人とは違う、芸人とファンとの距離感や関係性が作用しているのかもしれません。

昨今のお笑いファンの現状について、M-1グランプリのファイナリスト経験もあるお笑いコンビ・馬鹿よ貴方はの新道竜巳(しんどう たつみ)さんにお話を伺いました。

◆お笑いファンは芸人を「自分たちのもの」

――YouTubeチャンネル『馬鹿よ貴方は、新道竜巳のごみラジオ』にて、ファン事情について数々の言及をしている新道さんは、長年にわたってお笑いシーンを見てきたライブ芸人さんの一人です。こんなにもお笑い界でファン論争が起こっている現状をどう考察していますか?

「お笑いファンって、もともと芸人を『自分たちのもの』と捉えている感覚が強いと思うんですよ。今は芸人側も情報発信が活発なので、劇場に足を運ぶことはカジュアル化してきていますけど、昔のお笑いライブっていうのは普通の生活をしていたらなかなかたどりつかないような場所だったわけですから。

特に小さい劇場に出ているような芸人であれば、物理的に距離がものすごく近いし親しみも感じやすいでしょうしね」

――なるほど。「お笑い芸人=他の芸能人よりも近しい存在」という考えが根底にあると。

「近年はコロナ禍もあって出待ちもできなくなったから、芸人とお笑いファンの直接的な距離は少し遠くなったかもしれないです。それでもライブに加えて、SNSや配信がある以上、テレビタレントよりはまだ身近なのでしょう。だからこそ、その分だけ芸人の変化に過剰な反応を示すことが多いんです」

――具体的にどのような反応があるのでしょうか。

「例えば、ライブでウケていたネタをブラッシュアップしてテレビに出演した場合、『なんでそういう改変をするの』と不快感を露わにするんです。芸人が出るメディアによって表現方法を変えることは当たり前のことなんですけどね」

◆顔ファン=悪というのは違う理由

――慣れ親しんだ『自分たちのもの』が奪われたように感じられるのかもしれませんね。以前に比べて「顔ファン」や「ワーキャー人気」についての言及も増えているように思いますが、新道さんは芸人の立場としてこれらをどう感じていますか?

「ひと括(くく)りに顔ファンとはいっても、実際は常識を持って応援している人がほとんどなんですよ。ただ、一部によくない人がいて、顔ファン全体が批判される状況になっているような気がします。たとえ推しの芸人が、顔ファンNGを匂わせたからといっても、顔ファン=悪というのは違うと思いますよ」