新型コロナウイルス感染症が拡大し、不安が広がっています。
「今私たちに必要なのは、正しい知識に基づく感染予防・治療です」と話すのは、20数年間にわたって感染症の問題を取材し続けてきた木村良一さん。
自分たちでできる感染予防策を聞きました。

新型コロナウイルス対策は、マスクよりも手洗いを




マスクを過信してはいけません(写真はイメージです)

「まず、この新型コロナウイルスは、WHOなどによると、致死率は低く、死に至る病ではありません。病原性(毒性)は弱く、患者感染者の8割以上が軽症。感染力もインフルエンザと同じか、少し高いぐらいでしょう」と木村さん。

「ワクチンや治療薬はないが、体力がそれなりにある人ならば、熱を下げたり、咳を止めたりする対症療法で十分に治ります」

毎冬のインフルエンザや風邪とあまり変わらないと考え、落ち着いて行動することが大切です。

●インフルエンザと同じくらいの感染力

新型コロナウイルスの感染の仕方や感染力は、インフルエンザをほぼ同じくらいで、長時間同じ空間で生活するなどの、いわゆる「濃厚接触」があった場合に感染が成立するとみられています。

「ただし、感染者との会食で感染したとの報告もあり、感染させやすい感染者や、感染しやすい人がいるようなので、注意は欠かせません」

個人で行う対策は、手洗いとうがい、それに十分な睡眠と栄養摂取で抵抗力をつけること。

「人混みを避けることも大切で、これらも風邪やインフルエンザの予防と共通しています」

●マスクは、感染者が正しく着用したときのみ効果あり

マスクの売りきれが続いていますが、木村さんは疑問を呈します。

「マスクは感染者の飛沫(咳やくしゃみで飛び散るしぶき)を防ぐことができます。唾液や鼻水の飛沫を通じて感染するウイルスや細菌などの病原体に対し、一定の効果があるといえます。飛沫は普通に会話していても飛び散るもの。飛沫によって人から人へと伝播していく新型コロナウイルスには確かに効きます」

ただし、「効果があるのは、感染者が正しくマスクを着用した場合のみ」と木村さん。

「たとえば感染者の飛沫がマスクの内側にたまっているにもかかわらず、マスクを外すときにその内側を手で触れば、当然の結果として手に多くのウイルスが付着します。内側に触れなかったとしても、マスクの外側にも網目をかいくぐった感染者のウイルスが多く付着しているので、外側に触れても同じこと。

直接マスクに触れた手でドアノブを触り、電車のつり革をつかめば、ウイルスが付着し、そのウイルスが他人の手につき、その人がなにげなく鼻や口、目を手でこすると、今度はウイルスに感染します。人は1日何度も無意識に顔に手をやっています。極小のウイルスは、鼻や口、目の粘膜の細胞から侵入します。

多くの人は、感染リスクを避けるためにマスクを着用しているのだと思います。鼻や喉の乾燥を防いで水分を保つという利点は確かにあります。しかし、マスクを外すときに感染者の飛沫がついている可能性のあるマスクに直接触れれば、結局は接触感染してしまいます。それにマスクでは、目はガードできません」

●マスクより手洗いを!


予防策としていちばんいいのは、手をよく洗うこと。

「外出先から帰ったら、家の中のものに触れる前にすぐ手を洗いましょう。石けんやアルコール液を使わずに水だけで洗っても、付着したウイルスは流すことができます」
これなら手荒れも少なくてすみます。

「マスクの売りきれ、品薄はパニックのひとつ。マスクの効用を正しく理解していないからこそ起きる現象です。マスクを過信してはいけません。正しい知識をもたずにむやみに恐れると、パニックを引き起こして社会全体が混乱します」

正しい知識を得るには、厚生労働省と国立感染症研究所、それに都道府県や市区町村など公共機関のホームページを確認するのがおすすめです。

根拠のないデマが氾濫する今、20数年間にわたって感染症の問題を取材し続けてきた木村さんが、最新の情報を一般の読者向けにわかりやすくまとめた書籍『「新型コロナウイルス」―正しく怖がるにはどうすればいいのか―
』(扶桑社刊)が3月26日に発売となります。また本書から抜粋した特別版電子書籍が2月29日より発売予定です。
正しく対策するために、ぜひチェックしてみてください。

<取材・文/ESSEonline編集部>

●教えてくれた人
【木村良一さん】


ジャーナリスト、作家。日本医学ジャーナリスト協会理事・幹事。産経新聞の論説委員・編集委員として厚生労働省の記者クラブに在籍し、感染症の問題を20年以上にわたって取材