愛も未来もなければ、別れる理由もない…「ズルズル」な関係【カレー沢薫 アクマの辞典】
漫画家として活躍するカレー沢薫さんの連載コラム「アクマの辞典」
このコラムは、ア行からワ行まで、女や恋愛に関する様々なワードをカレー沢さん独自の視点で解釈していきます。女の本性をあぶりだす新しい言葉の定義をとくとご覧あれ!
【ズ】
➤ 「ズルズル」(ずるずる)
今回のテーマはザ行から「ズルズル」だ。
人間の人生の3分の1は「睡眠」だと言うが、それよりも長い時間、この「ズルズル」をやっているヤツもいる。
物事というのは「はじめる」「つづける」「おわる」で1セットである。
私ほどのスゴ腕無職になると「なにもしていない」が一番長くなるのだが、大体の人は上記の流れを繰り返しながら生きていると思う。
その中でも「おわる」が苦手な人間は「ズルズル」しやすい。
よく、ジムなどに会費だけ払って行かない、という慈善事業に従事している人がいる。
普通の人から見れば、もったいないから早く退会すれば良いのにと思うかもしれない。
しかし「おわる」が苦手な人間からすると、まず退会を伝えにいく「手間」が面倒、そして退会を伝える「勇気」が出ない。
そして「ああ、こいつ続かなかったんだな」と思われるのが嫌という「見栄」がある。
それらのコストを考えると退会より会費を払い続けたほうが「安い」と感じてしまうのが「おわれない人」である。
おわれない人はとにかく「終わり」をマイナスなことと思っている。
よって恋愛もなかなか終わらせることができない。
恋愛には、愛情もなければ未来もない、バッグでずっとセックスピストルズが「ノーフュ―チャー ノーフュ―チャー」と歌っているような状況に陥るときがある。
そういうときに限って、愛も未来もなければ「別れる理由もない」。
つまり真の意味での「虚無」であり、この関係がラブホのポイントカード以外なにも生み出さないのは明白だ。
これ以上の時間的損失を出さないために、多くの投資家が「損切り」のサインを出すところである。
しかし、おわれない人は未来の時間より「これまで使った時間」が無駄になることを厭う。
そして「こいつと別れても、次が見つかる気がしない」など終わることによるデメリットばかりに目を向け、「つきあい続ければ好転の可能性がある」と続けることのメリットを無理にでも作り出そうとする。
つまり、終わることにより次が始められる、というポジティブな気持ちになれない、己の未来に悲観的でネガティブな人が「おわれない人」になりがちなのだ。
だが、これは短所でしかないとも言い切れないだろう。
続けられること自体が才能だし、続けることで上向く可能性もなくはない。
それに、次の新しい相手がリアルセックスピストルズ、シド・ヴィシャスからカリスマとセンスを取ったような男で、前の相手のほうが5兆倍マシだった、ということもある。
また「はじめる」が苦手な人は慎重だが、慎重すぎると「なにもしてない時間」だけが過ぎ、「慎重なだけの無職」になってしまう。
「はじめる」のも「おわる」のも得意だが「つづける」が壊滅的に苦手というのは、ただの「飽きっぽい人」だ。
「ときめき」が重要視される恋愛の場合、「ズルズル」は悪いことかもしれないが、結婚となると、良い事もないが悪い事もない状態は「ズルズル」ではなく「安定」と言われたりする。
「ズルズルできる関係」というのも決して悪い事ではないのだ。
【ザ】
➤ 「残念男子」(ざんねんだんし)
…他人に「残念」「惜しい」と言われるのは、告ってないのにフラれるに等しい
【ジ】
➤ 「ジェンダーレス男子」(じぇんだーれすだんし)
…指毛や腕毛が生えていてもガタガタ言われない「ジェンダーレス女子」も認めてほしい
【ズ】
➤ 「ズルズル」(ずるずる)
…継続は力なり、主に「忍耐力」がつく
【ゼ】
➤ 「前世」(ぜんせ)
…前世恋人同士だったより、前世王族とカナブンだったものが、今世結ばれるほうがロマンチック
【ゾ】
➤ 「増税」(ぞうぜい)
…「増税前に買っとこう浪費」を今すぐやめろ
カレー沢薫
漫画家、コラムニスト。1982年生まれ。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビューを飾る。秀逸な言語感覚で繰り広げられる切れ味鋭い世界観が人気。こよなく猫を愛し、猫が登場する作品も多数。著書『ブスのたしなみ』(太田出版)も発売中。
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このコラムは、ア行からワ行まで、女や恋愛に関する様々なワードをカレー沢さん独自の視点で解釈していきます。女の本性をあぶりだす新しい言葉の定義をとくとご覧あれ!
■第42回 アクマの辞典 ザ行
【ズ】
➤ 「ズルズル」(ずるずる)
今回のテーマはザ行から「ズルズル」だ。
人間の人生の3分の1は「睡眠」だと言うが、それよりも長い時間、この「ズルズル」をやっているヤツもいる。
私ほどのスゴ腕無職になると「なにもしていない」が一番長くなるのだが、大体の人は上記の流れを繰り返しながら生きていると思う。
その中でも「おわる」が苦手な人間は「ズルズル」しやすい。
よく、ジムなどに会費だけ払って行かない、という慈善事業に従事している人がいる。
普通の人から見れば、もったいないから早く退会すれば良いのにと思うかもしれない。
しかし「おわる」が苦手な人間からすると、まず退会を伝えにいく「手間」が面倒、そして退会を伝える「勇気」が出ない。
そして「ああ、こいつ続かなかったんだな」と思われるのが嫌という「見栄」がある。
それらのコストを考えると退会より会費を払い続けたほうが「安い」と感じてしまうのが「おわれない人」である。
おわれない人はとにかく「終わり」をマイナスなことと思っている。
よって恋愛もなかなか終わらせることができない。
恋愛には、愛情もなければ未来もない、バッグでずっとセックスピストルズが「ノーフュ―チャー ノーフュ―チャー」と歌っているような状況に陥るときがある。
そういうときに限って、愛も未来もなければ「別れる理由もない」。
つまり真の意味での「虚無」であり、この関係がラブホのポイントカード以外なにも生み出さないのは明白だ。
これ以上の時間的損失を出さないために、多くの投資家が「損切り」のサインを出すところである。
しかし、おわれない人は未来の時間より「これまで使った時間」が無駄になることを厭う。
そして「こいつと別れても、次が見つかる気がしない」など終わることによるデメリットばかりに目を向け、「つきあい続ければ好転の可能性がある」と続けることのメリットを無理にでも作り出そうとする。
つまり、終わることにより次が始められる、というポジティブな気持ちになれない、己の未来に悲観的でネガティブな人が「おわれない人」になりがちなのだ。
だが、これは短所でしかないとも言い切れないだろう。
続けられること自体が才能だし、続けることで上向く可能性もなくはない。
それに、次の新しい相手がリアルセックスピストルズ、シド・ヴィシャスからカリスマとセンスを取ったような男で、前の相手のほうが5兆倍マシだった、ということもある。
また「はじめる」が苦手な人は慎重だが、慎重すぎると「なにもしてない時間」だけが過ぎ、「慎重なだけの無職」になってしまう。
「はじめる」のも「おわる」のも得意だが「つづける」が壊滅的に苦手というのは、ただの「飽きっぽい人」だ。
「ときめき」が重要視される恋愛の場合、「ズルズル」は悪いことかもしれないが、結婚となると、良い事もないが悪い事もない状態は「ズルズル」ではなく「安定」と言われたりする。
「ズルズルできる関係」というのも決して悪い事ではないのだ。
【ザ】
➤ 「残念男子」(ざんねんだんし)
…他人に「残念」「惜しい」と言われるのは、告ってないのにフラれるに等しい
【ジ】
➤ 「ジェンダーレス男子」(じぇんだーれすだんし)
…指毛や腕毛が生えていてもガタガタ言われない「ジェンダーレス女子」も認めてほしい
【ズ】
➤ 「ズルズル」(ずるずる)
…継続は力なり、主に「忍耐力」がつく
【ゼ】
➤ 「前世」(ぜんせ)
…前世恋人同士だったより、前世王族とカナブンだったものが、今世結ばれるほうがロマンチック
【ゾ】
➤ 「増税」(ぞうぜい)
…「増税前に買っとこう浪費」を今すぐやめろ
プロフィール
カレー沢薫
漫画家、コラムニスト。1982年生まれ。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビューを飾る。秀逸な言語感覚で繰り広げられる切れ味鋭い世界観が人気。こよなく猫を愛し、猫が登場する作品も多数。著書『ブスのたしなみ』(太田出版)も発売中。
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