2010年から妊婦健診の検査項目にも追加―「HTLV-1」って、どんな病気?

写真拡大

インフルエンザや風しんが騒がれるなか、意外と知名度の低いHTLV-1。2010年から妊婦健診の検査項目にも追加されているように、母子感染の危険性があるのはご存じだろうか?

1980年に発見されたHTLV-1ウィルスは、残念ながら現在も治療方法が見つからず、感染すると生涯持ち続けることになる。ただし潜伏期間が40年と長いので、なにも起きないひとも多く、母乳を飲ませなければ赤ちゃんにうつることもない。

検査で陽性といわれても、あわてず騒がず落ち着いて行動するのが大事なのだ。

■95%のひとは、なにも起こらない

HTLV-1の正式名称は「ヒトT細胞白血病ウィルス」で、その名の通り白血球の1つであるTリンパ球に感染するウィルスだ。発見されたのは1980年だが新種のウィルスではなく、縄文時代から存在したと考えられている。

このウィルスが体内に入ると、

1. ATL(成人T細胞白血病) … 白血病やリンパ腫

2. HAM(HTLV-1関連せきずい症) … 歩行困難、排尿障害

3. HU(HTLV-1関連ぶどう膜炎) … 視力低下、眼の充血

のいずれかを引き起こす場合がある。

残念ながら治療法が見つかっていないのだが、同時に発症率が低いのが救いで、発症率、潜伏期間、男女比をあげると、

1. ATL … 4〜5% / 40年以上 / (男)1.3〜2.2:(女)1

2. HAM … 0.3% / 数年以上(30〜50歳代に多い) / (男)1:(女)2.5

3. HU … 0.1% / 数年以上 / (男)1:(女)2

それぞれ概数ではあるが、発症率の合計5.4%なので、生涯なにも起こらないひとが95%近くいることを意味する。とくにATLが「成人」と名付けられているのは、ひとえに潜伏期間が長いためで、楽観的に考えれば40年以内に治療方法がみつかるかも知れない。

つまり、検査結果が陽性でも、悲観的に考えないほうが良いと言えよう。

■陽性なら、母乳は厳禁

HTLV-1ウィルスのおもな感染経路は、

・母子感染(60〜70%)

・性交渉(20〜30%・60%は男性から女性へ)

・輸血(ほぼ0)

だが、感染力は非常に弱いため「うつる可能性がある」と言うべきだろう。とくに日常生活での感染は否定されており、くしゃみやせき、お風呂やプール、握手などの接触でうつる心配はない。輸血の場合も1986年からHTLV-1の検査も追加されているので、現在は起きるはずがないし、性交渉もどれくらいの頻度で感染するのかはっきりしていない。

対して母子感染は大半を占め、これから子を授かりたい夫婦、出産を控えた妊婦さんは、必ず検査を受けて頂きたい。

親が陽性、つまりHTLV-1ウィルスのキャリアと判定されても、赤ちゃんに感染しているとは限らない。母乳を与えなければ、子にうつる率が大幅に下がるからだ。生後、母乳を与える期間と感染率を比較すると、

・3か月以内 … 3%

・6か月未満 … 8%

・6か月以上 … 20%

と、長期間になるにつれリスクは高まる。ただし胎内感染している例もあるので、母乳をまったく与えない場合でも2〜3%のリスクは理解しておこう。

■まとめ

・HTLV-1ウィルスは、治療方法が見つかっていない

・おもに3種類の病気につながるが、発症率は合計でも5%程度

・潜伏期間が長く、生涯なにも起こらない率が95%と高い

・母乳を与えなければ、赤ちゃんに感染するリスクが大幅に減る

治療方法がないだけに、インフルエンザや風しんよりも怖い病気だが、95%は心配ないとも言えるので、その事実をきちんと理解するのが肝要だ。

発症するまでに40年以上かかる場合もあるので、そのあいだに特効薬が誕生することを切に願う。

(関口 寿/ガリレオワークス)