「経口補水液」という名前やあの透明な見た目から、なんとなく処方薬のような、熱中症対策に科学的根拠のある特別な飲み物という印象を持つ方も多いと思います。でも実際は、スポーツドリンクの仲間だと思っていたほうがいいでしょう。

スポーツドリンクも経口補水液も飲みやすいように甘めに作られています。実質的には、砂糖水にミネラルが少し入っているようなものを飲んでいる状態なので、虫歯リスクという意味では注意が必要です。もちろん、脱水症状があるときや医療機関から勧められた場合には、経口補水液は非常に有効です。ただ、「普段の水分補給」として日常的に飲むことは避けた方が良いでしょう。

――では、虫歯リスクを考慮したうえで、夏場の水分補給のために何を飲めばいいのでしょうか?

前岡:一番おすすめなのは麦茶です。ノンカフェインですし、ミネラルも含まれています。梅干しを食べるのと一緒に麦茶を飲んだり、少量の塩を麦茶に入れて溶かして飲むのが理想的ですね。お茶であればいくら飲んでも虫歯になる心配はありません。昔から日本には夏に麦茶を飲む風習があるわけなので、ぜひ改めて積極的に飲んでもらいたいです。

自販機やコンビニでもラインナップの多い緑茶や紅茶、コーヒーなどはカフェインを多く含むので利尿作用が強く、脱水を招きやすい特徴があります。そのため、水分補給をしているつもりでも尿で出てしまって体内に水分が残っていない状況になりやすいので、夏場は特に飲み過ぎに注意が必要です。

麦茶はティーバッグを煮出して作る方がミネラルも多く溶け込むのでおすすめです。経口補水液や緑茶などと比べてもコストも低くて優秀ですが、地味なのでなかなか広まっていないのが勿体ないところです。

――夏場の栄養補給としてクエン酸を摂ろうと、お酢のドリンクを飲む方も多いと思います。酸は歯に悪いイメージがありますが、「クエン酸」も歯に影響がありますか。

前岡:クエン酸のような弱い酸でも、頻繁に摂れば歯の表面は少しずつ溶けてしまいます。ただ、朝や食事のタイミングで1杯飲む程度であれば、そこまで神経質になる必要はありません。

注意してほしいのは、デスクに置いて少しずつ何度も飲むような飲み方です。冷蔵庫に常備して、水分補給代わりに口にするのも、歯にとってはよくありません。酸に触れている時間が長くなるほど、歯へのダメージは大きくなってしまいます。

◆「昔からずっと行われていること」が熱中症対策と虫歯予防に

――夏場の熱中症対策と虫歯予防について、各家庭で心掛けるべきことを教えてください。

前岡:熱中症対策も虫歯予防も、一貫して言えるのは「Less is more」という考え方です。塩分タブレットや経口補水液だけでなく、マウスウォッシュや機能性歯磨き粉など、「これを足せば安心」とうたう商品はどんどん増えています。でも、本当に大切なのは、何かを足すことではなく、正しい知識を持って当たり前のことをきちんと続けることなんです。

その「当たり前」のヒントは、昔の人の暮らしにあります。昔の人は、和食で自然に塩分を摂り、麦茶で水分補給をしながら夏を乗り切っていました。もちろん温暖化によって昔より暑さは厳しくなっていますが、基本となる考え方は今も変わらないと思います。

――たしかに、熱中症対策も虫歯予防も何かを買うことで解決をしていることが多いです。

前岡:はい。あとは、気温が35℃を超えるような日に、子どもを外で遊ばせないことも大切な熱中症対策です。実際、子どもも35℃を超えるような暑さで「外で遊びたい」とはあまり言わないはずです。私の病院の近くに小学校があるのですが、そこでも「今日は気温が高いので、お昼休みは外で遊ばせないでください」という放送が流れるくらいです。