なんか私だけ別の世界に来たみたい


【漫画を読む】『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』を最初から読む

精神科病棟と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?

「なんだか怖そう…」というイメージを抱く人もいれば、「まったく想像できない」「自分とは無縁だから!」と感じる人もいますよね。

『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』の著者・もつおさんもそんなふうに思っていた、どこにでもいる高校生の一人でした。でもある日、摂食障害で精神科病棟へ入院することになって…。

本作は、話題のコミックエッセイ『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』の作者による、自身の経験をベースにしたセミフィクション。入院から退院するまでの困難や成長、絶望、希望などがリアルに描かれています。本作を描くこととなったきっかけや完成するまでの経緯などを、著者のもつおさんに聞きました。

■精神科病棟に入院した女子高生の日々

夢じゃなかったんだ


物語は、病院のベッドの上から始まります。

朝7時から大きな音で流れるラジオ体操、そして廊下に出れば手すりに倒れこむ人、連日のように「その靴、可愛いね」と褒めてくる人…奇妙な行動をとる人たちばかりいるそこは、大きな総合病院の精神科病棟。

やっと静かになったと思ったら


なんなんだ…


摂食障害に陥り、体重が33kgにまで減った高校2年生のミモリは、体調を崩して入院したばかり。スマホなどの私物を没収され、家族とも面会できず、自由にベッドから降りることすらできません。ミモリは新しい環境に戸惑い、制限が多い入院生活に絶望し、涙する日々を送っていました。

名前は何て言うの?


しかし、他の入院患者と交流するようになり、ミモリの気持ちに少しずつ変化が訪れて…。

■精神科病棟での生活をありのままに表現

――本作はご自身の体験をもとにしたセミフィクションですね。このエピソードを描こうと思ったきっかけを教えてください。

もつおさん:「精神科病棟に入院していた時の話を詳しく知りたい」と、打ち合わせで担当さんに言われたことがきっかけです。今まで描いてきたコミックエッセイでも入院について触れているものもありますが、病棟での日々の出来事や病棟から高校に通っていたことなど、あまり詳しくは描けていなかったので、そこに焦点を当てました。

制服、こんなに大きかったっけ


――精神科病棟という場所について、想像がつかないという読者も多いと思います。病棟での日々を描く際に、気を付けたことや意識したことはどんなことですか?

もつおさん:自分が見た病棟での景色を、嘘がないように描こうと意識しました。きれいに描きすぎたり、逆に怖く描きすぎたりせず、本当に自分が見たまま、感じたままの病棟を描けばリアルに感じていただけるかなと考えました。

ここには、他の病棟にないもがある


――本作品を描く上で、難しかったことや苦労したことを教えてください。

もつおさん:絵柄を今までの作品と少し変えてみたので、背景やキャラクターにデフォルメを効かせすぎないように描くのが難しかったです。また、エッセイだと文章で説明することが多いけど、本作では病棟の空気感を感じてもらったり、主人公に感情移入できるようにしたかったので、雰囲気を崩さないようにできるだけナレーションや説明の文章を省きました。背景で一コマを使ったりすることに慣れていなくて、少し手こずりましたね。

病棟で迎えた初めての朝


■当時の辛い気持ちを乗り越え、過去を昇華できた

クラスメートたちの生活の中に、私はいない


――制作過程で、ご自身の過去を振り返りながらどんなことを感じましたか?

もつおさん:当時の、自分の意思では退院できない窮屈さ、家族や学校の友達と会えない寂しさを思い出して、少し苦しくなった時もありました。

――そんな苦しい気持ちを乗り越えて完成した本作。描く前と現在で、心境に変化はありましたか?

もつおさん:主人公のミモリは、当時の自分にかなり近いモデルとして描きました。そのため、ミモリに自分ができなかったことを行動させたり、言えなくて後悔したことをセリフで言わせたりしたことで、描いた後は過去が昇華されたようなスッキリした気持ちにもなりました。

私もあんなふうになれるかな


――読者の方々からは、どんな反響がありましたか?

もつおさん:「泣いた」とか「泣ける」など、感動したという感想が多くて驚きました。自分は当時の入院での出来事や感じたことをそのまま描いたつもりだったけど、そんな風に感じてもらえたんだと思って、ちょっと照れました(笑)。でもすごく嬉しかったです。

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精神科病棟の空気感を、嘘偽りなく、ありのままに描いたという本作。もつおさんが丁寧かつリアルに描いた世界観に思わず引き込まれ、感動せずにはいられない作品となっています。

取材・文=松田支信