「南総里見八犬伝」の八犬士の戦いと、作者である滝沢馬琴の生き方という両方の世界を交錯させた映画『八犬伝』(10月25日公開)。栗山千明さんは、里見家に恨みを持つ怨霊「玉梓(たまずさ)」として、持ち味の切れ長の眼も印象的に“恐ろしさ”を表現しています。役作りや作品への思いについて聞きました。

悪役を演じるということ

――映画『八犬伝』のお話を聞いたときの感想を教えてください。

栗山千明さん(以下、栗山): 曽利文彦監督とは以前、映画『鋼の錬金術師 完結編』でご一緒させていただいたことがあります。キャストの方も以前共演したことのある方が多かったので、また皆さんと一緒に作品に携われることがとても楽しみだなと思いました。曽利監督のチームは安心して演じられ、今回も期待が高まりました。実際、アクションなどで大変な撮影も多かったですが、現場はとても和やかで楽しく演じることができました。『八犬伝』については、作品そのものは知っていましたが、詳しい内容まではわかっていなかったので、「どんな作品なんだろう」と、今回のオファーをきっかけにすごく興味を持ちました。

――今回演じた玉梓については、どのように感じましたか?

栗山: 玉梓という役は、これまでにもさまざまな先輩の女優さんが演じてこられていて、かなりインパクトのあるキャラクターです。そのため、自分に務まるだろうかとプレッシャーはありました。が、それ以上に非常に演じがいのある役だと思って、わくわくしました。また、ビジュアル面でもどんなふうに変身できるのか、楽しみだなと思いました。

――演じるにあたり、意識したことは?

栗山: 物語の作者である滝沢馬琴さんにとっての「悪」を具現化した役が玉梓だと思います。そこに宿る恐ろしさやしたたかさのようなものをきちんと表現したいと考えました。怨霊なので、やはり見る人に怖いと思ってもらいたい。最大限、自分自身の想像力を発揮しながら、特殊メイクやヘアメイク、衣装などビジュアルの力にもかなり助けられました。特殊メイクは時間もかかり大変ではあるのですが、自分が玉梓へとどんどん変身していく過程が楽しかったです。

自分の姿を鏡で見ても、自分ではそれが怖いかどうかわからないんですよね。でも、玉梓の姿で犬に会ったことがあって。そのときにワンちゃんがすごく驚いて震えあがっちゃったんですよ。それを見て、「大丈夫だな」と少し安心しました(笑)。大きな声を出そうとするとどうしても声が高くなってしまうので、声のトーンを抑えて話したり、より眼が鋭く見える角度を考えたり、いかに怖さを表現できるか、試行錯誤しながら演じました。

虚と実を織り交ぜて

――物語は八犬士たちが戦う「虚」のパートと、作者である滝沢馬琴の人生を描く「実」のパートに分かれています。

栗山: 劇中劇の「虚」の部分は、八犬士たちが戦うアクションなどハラハラドキドキの展開が見どころです。一方、「実」の部分は、馬琴さんたち作り手の生活や生きざまが丁寧に描かれていますし、役所広司さんや内野聖陽さんがとても重みのある演技をされています。
最初に脚本を読んだときはこれがどのように1つの作品になっていくのか、正直あまり想像ができませんでした。でも映画が完成して初めて見たときに、「こういうことだったのか!」と腑に落ちましたね。

2時間半と長めの映画ではありますが、「え、もう2時間半?」と感じるくらいあっという間で、それくらいすごく面白かったです。アクションシーンもそこで初めてすべてを見たのですが、八犬士の皆さん、すごくカッコ良かったですね。完成した作品を見て、曽利監督はこれを作りたかったんだなと理解できましたし、虚と実の両方の世界があるからこそ、この感動が生まれるんだろうなと思いました。

ヘアメイク:奥原清一(suzukioffice)
スタイリスト:ume