特定非営利活動法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣氏

12月1日は「世界エイズデー」です。近年は、東京タワーのライトアップなどで徐々にメジャーとなりつつありますが、まだ「自分にとっては無縁のもの」と感じる人も多く見受けられます。

しかし感染報告数は毎年増加しており、厚生労働省の発表によると、日本国内におけるHIV陽性者が15,812人、AIDS患者は7,203人です。(平成25年エイズ発生動向概要

そこで現在のHIV感染の状況がどうなっているのか、HIVと共に生きる人々が、ありのままに生きられる環境の実現を目指し活動している特定非営利活動法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣氏にお話を伺いました。

パートナーが同性との性的接触を持っているケースも

ぷれいす東京の研究グループではHIV陽性者の生活調査を行っており、2013年7〜12月に、1,786名のHIV陽性者にアンケートを配布したところ、1,100名から郵送による回答が得られました。男女比は、男性95%に対して女性5%。感染原因は、同性間での性的接触が多く、異性間での性的接触は少数でした。だからと言って、「私は女性だし、異性愛者だから問題ないわ」と検査を受けないのは非常に危険。

「夫のHIV感染をきっかけに、これまでに知らなかった夫の性生活、夫が他の女性とセックスをしていた、男性とセックスしていた、海外での性行為の過去があるなどの事実に直面したなどの相談もあります」(生島氏)

服薬は1日1回

アンケートの回答によると、HIV陽性者のうち95%は服薬治療を行なっているとのこと。服薬のペースに関しては、HIV陽性者のうち6割が、「服薬は1日1回」と回答しています。

「最近はフリスクくらい小さい薬を1錠だけ飲めば良いものもあるんです。開発がどんどん進化してきて、飲む回数も飲む量も減っていますよ」(生島氏)

1日1錠なら、風邪薬よりもよっぽど少ないくらいです。薬の費用は、ウン十万かかるイメージでしたが、健康保険の適用で5〜6万程度、障害認定を受けることで、個々の収入差にもよりますが、だいたい1か月に上限1万円程度におさえられます。

感染後もセックス・出産は可能!?

通院ペースは、回答者のうち半数が「3か月に1度」とのこと。病院では、免疫状態のチェックを行ないます。HIV治療と聞くと、つい大がかりな治療をイメージしてしまいますが、1日1回の服用と数か月に1回の通院なら、仕事や学業にも差し支えはないといえるでしょう。もちろん、入院が必要なケースもあります。15.7%が、「過去1年間に入院経験あり」と回答しており、中には感染に気付かずにいて、体調不良による入院をきっかけに、発症で感染に気付く人も多く含まれているそうです。

「服薬や通院をしっかり行なっているHIV陽性者のうち7割は、血液中にウィルスがほぼいないんです。ウィルスがいないということは、感染源ではない……つまりパートナーとのセックスも可能なんですよ。もちろん、性感染症を予防するためにコンドームの使用は必要ですが。さらには、妊娠や出産も夢ではないんです」(生島氏)

HIV陽性者の中には、婚活中の人もいるのだとか。HIVポジティブとなったことで、出会いやセックス、結婚や出産はできなくなると考えがちですが、とんでもない! そういった観点からも、社会全体の理解を底上げする必要性が感じられます。

不安はまず電話で相談から

HIVは自分にとっては無縁のものという考えの人が残念ながらまだ多いのが現状です。そのため、友人知人間の会話においてHIVの話題が出ることはほとんどなく、「検査を受けたほうが良いのかも」と思っても、身近な人には相談しづらかったりします。

そういった感染不安に対して、ぷれいす東京では「電話相談」を行っています。電話なら、顔が知られることもないですし、気軽に利用できそうですね。「コンドームを装着せずに肉体関係を持ってしまったが、相手の男性が不特定多数の人物ともセックスしている可能性が高い」などのお悩みを抱えている人は、予防の第一歩として、電話相談を利用するという選択肢もアリかと思われます。

HIV陽性者同士の交流ミーティングをきっかけに結婚も

また、HIV陽性者及びパートナー、家族を対象としたカウンセリングも設けており、予防啓発と同様に電話での相談も可能ですし、匿名による対面相談も。もちろん、個室で行なわれます。ほかにも、特徴的なのはなんといっても「参加型プログラム」。陽性者同士のグループ・ミーティング、HIV陽性者の周囲の人に向けた母親同士、パートナー同士の会や女性HIV陽性者のみのウーマンズサロンも存在します。

「息子さんのHIV感染をきっかけに、今まで見えていなかった別の一面に気付いたというお母さんも多いです。異性愛者向けの交流ミーティングでの出会いをきっかけに結婚したカップルもいらっしゃいますよ」(生島氏)

「コンドームを所持していることで『やる気満々』と思われるのが恥ずかしい」「ナマ挿入を受け入れなければ、カレが遠ざかってしまうのではないか」などと悠長なことを言っている時代ではありません。女性陽性者の感染原因は、パートナーとの性的接触によるケースが多いとのこと。感染後も、適切な治療によってほぼこれまでどおりの生活が可能とはいえ、感染しないに越したことはないのです。セックスの際に予防すべきは「望まぬ妊娠」が第一優先で、「HIV感染予防」は二の次となっているように見受けられます。

「私はピルを飲んでいるからコンドーム装着の必要がなく、男性にも喜ばれるのよ」などとドヤ顔している場合ではありません。世界エイズデーを機に、予防や検査の重要性を、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。

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(菊池美佳子)