井浦新「心の画角が広角になっていくのを感じました」 『東京カウボーイ』でアメリカ映画デビュー
東京で働く商社マンのヒデキがモンタナの牧場を訪れ、カウボーイや異文化に触れながら、人生を見つめ直していく映画『東京カウボーイ』。
井浦新さんが心温まる再生物語でアメリカ映画デビュー。
「ヒデキは日常に一生懸命で、目の前のことにしか目が向かなくなっています。特別個性的でもなく、誰しもがなり得るキャラクターが、信じていたものの外側に広がる世界を知り、新しい生きがいを見つけていく。そんな普遍的な物語なので、世界中の人に共感や希望を持ってもらえるんじゃないかと思います」
そう話す主演の井浦新さんが演じるヒデキには、上司で7年付き合っているケイコ(藤谷文子)がいる。モンタナへの出張は、停滞する二人の関係を見つめ直すきっかけに。
「おそらくヒデキはいい大学を出て、いい会社に就職して勝ち続けてきたタイプ。それまでのすべてが通じず、初めて負けたのがモンタナという場所だったんです。東京でのヒデキはケイコと会話はしているんだけど、彼女の顔を見てはいません。でも、モンタナで負けを受け入れられた時に、ケイコという存在を大切に感じられて、ちゃんと向き合い“ありがとう”“ごめんなさい”を伝えられる人にならないと、二人で歩んでいけないと気づけたんじゃないかな」
温かな再生の物語である本作には「派手なカーアクションもCGもない」。しかし、舞台のモンタナの自然はため息が出るほど広大で美しい。
「車で何時間走ってもロッキー山脈が続いて頭がバグりました(笑)。見慣れてくると話すペースも景色を見つめる眼差しも変わり、心の画角が広角になっていくのを感じました」
慣れない英語のセリフには、発音で苦心したよう。
「セリフに牧場を表す“ranch”が何度も出てくるんですが、『昼ごはん(lunch)じゃないよ』ってよく言われました(笑)。ただ、ヒデキは英語が得意なわけではないから、英語と日本語を交ぜて話してみたら監督が面白がってくれて。でも、流暢に話せなくてもいいというのは、自分自身への言い訳でもあったなと。これはあくまでアメリカ映画。英語で伝わらなければダメなんだと考えを改めました」
もともとは海外作品に積極的に出たいわけではなかったという井浦さんが、参加を決めた理由は。
「日本で出合った作品で、その瞬間ごと自分の最高を更新していけるように役に向き合っていると、海外の映画祭に立ち会えるというご褒美のようなことがたまに起こるんです。映画は国や言葉の違いを超え、どこまでも飛んでいけることを実感してきましたし、この作品に関しても、僕の出演作を見てくれていた監督やプロデューサーとのご縁でした。最初の話し合いでは『新の芝居を見ているとそこにいた人にしか見えなくなる』とまで言ってもらえて。僕は、俳優としての生みの親である是枝裕和監督からは『表面的な芝居なんかしなくていい』、育ての親である若松孝二監督からは『下手な芝居をするくらいならお前の心を見せてくれ』と、演出スタイルの異なる監督から同じようなことを言われてきました。自分の礎となった演技スタイルが通じず苦々しい想いをしたこともあるから芝居が上手くなりたい気持ちが、なりたくない気持ちと同じようにあるといった話をしました」
アメリカ映画の現場で受けた刺激を日本で活かしたいとも話す。
「英語圏の俳優さんは、その場で積極的に意見を出します。気持ちが乗らない自分自身に対して怒り始めることも。すると、そのシーンが成立するにはどうすればいいか、全員がおのずと考えるんです。これまでの僕はそういう姿を見せないようにしてきたけど、感じたまま伝えることは何もマイナスじゃない。先輩後輩関係なく、相手への敬意や感動も、その場で感じたことを率先して伝えられる俳優になりたいです」
映画『東京カウボーイ』 勤務する商社が所有する牧場を立て直すために、ヒデキは畜産業の専門家のワダ(國村隼)と共にアメリカへ。脚本は『忍びの家 House of Ninjas』のデイヴ・ボイルと、日米に拠点を置く藤谷文子の共作。公開中。
いうら・あらた 1974年9月15日生まれ、東京都出身。映画『ワンダフルライフ』に初主演以降、数々の作品に出演。ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ/フジテレビ)が放送中。待機作に映画『ラストマイル』。
ジャケット¥35,200 パンツ¥23,100(共にニードルズ/ネペンテス TEL:03・3400・7227) その他はスタイリスト私物
※『anan』2024年6月19日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・上野健太郎 ヘア&メイク・山口恵理子 インタビュー、文・小泉咲子
(by anan編集部)