「便秘がつらくて、たまに浣腸を使っています。効果は感じますが医学的にはOKなのでしょうか」「市販の便秘薬があまり効かないので浣腸を常用気味です。くせになるとか、健康上、悪いことはありますか」など、浣腸について読者から質問が届いています。そこで、名古屋市大大学院医学研究科助教で消化器病専門医の菊池志乃医師に、医学的な効用や使用上の注意などについて聞きました。

Q1: 冒頭の読者をはじめ、「浣腸は医学的に有用ですか?」というお尋ねが多いです。どうなのでしょうか。

A1: 医師や医療関係者が治療の参考とする「慢性便秘症診療ガイドライン2017」(2023年6月時点で最新版)では、「エビデンスレベルC」とされています。

エビデンスレベルとは「治療による影響がどれくらいかを推定した時の確実さの程度」を示し, 質が高い順にA、B、C、Dの4段階に分けられます。Cは「質が低いエビデンス」になります。

浣腸は便秘の原因になるような大腸がんや炎症性腸疾患などの病気が見つからず、「慢性便秘症」と診断された人で肛門のところに便があるのに出ないケースや、うまくいきめないケースの治療には有用で、医療機関で処方する場合もあります。ただし「定期的な使用はするべきではない」とされます。

また、日本大腸肛門病学会発行の「便通異常症(慢性便秘症・下痢症)診療ガイドライン」でも、浣腸の処方は「適宜使用とし、可能な限り連用を避ける」となっています。

つまり、「浣腸の適応となるような肛門付近に便があり、排便ポーズやいきみなどの工夫をしても排便できない場合などに使用し、毎日のように頻回に使うことはひかえましょう」となります。

排便ポーズとはよく知られているように、便器に座って上半身を少し前に傾け、ひじをふとももにつけてかかとを上げる(もしくは踏み台に足を乗せる)姿勢のことです。ロダン(19世紀後半に活躍したフランスの彫刻家)の代表作「考える人」のポーズをイメージしようといわれます。

ロダン作の「考える人」

Q2:「連用を避ける」という理由はなんですか。

A2: 浣腸の容器には肛門から差し込むためのノズル(細い管)がついています。無理な使用などにより、このノズルで肛門や直腸(大腸のうち、肛門にもっとも近い部分)を傷つける可能性もあるからです。

実際に、浣腸による直腸の出血や腸の壁に穴が開く穿孔(せんこう)、また、浣腸液が傷ついた直腸から血液中に入って腎障害を起こした例も報告されています。

肛門が硬いなどで注入しにくい場合はオリーブオイルや内容液をつけてそっと試み、うまくいかないときは無理をしないで医療機関で相談しましよう。

さらに、浣腸ですっきり出たという認識が条件付けされると、浣腸に対して心理的に依存する場合があります。すると、むしろ生活の質が低下するため、市販のものを使うときでも、「浣腸は必要時の切り札」と考えましょう。

Q3: 浣腸の成分は何ですか。体に悪い影響はないのですか。

A3: 浣腸の主成分は、「グリセリン」と「精製水」です。グリセリンとはアルコールの一種で、無色透明の油性の液体です。医薬品のほかに、甘味料や保存料、増粘安定剤として食品添加物に、また、保湿剤として化粧品などに活用されることもあります。

薬剤としての耐性もないため、使ううちにだんだんと効きにくくなるということはありません。

それだけに成分は人体にとって安心と言え、0歳から高齢者まで使用が可能です。

Q4: 浣腸には副作用はないのですか。

A4: 副作用として、Q2で伝えたノズルで肛門や直腸を傷つけることのほか、腹痛、下痢、立ちくらみ、肛門部の不快感、便失禁、また血圧が低下して一時的に意識を失うなどがあります。

そのため、高血圧、心臓に病気がある、体調不良などの場合は使用する前にかかりつけ医に相談してください。

成分は安全で、便秘改善に即効性があって効果を実感しやすいため、つい連用する、また、便秘ではないのにダイエット用に使用する人もいますが、こうした点には注意が必要です。

Q5: 浣腸はどのようにして便秘改善に働くのですか。

A5: 容器に入った薬剤の浣腸液を肛門から注入すると、浣腸液が直腸の壁を刺激します。すると腹圧が高まり、腸のぜん動運動が促され、肛門の筋肉が緩んで排便の準備が整います。

また、浣腸に含まれるグリセリンは吸水性が強いため、浸透圧で直腸から水分を引きよせます。その水分と浣腸液に含まれる水分で便をやわらかくして排便を促します。さらに、グリセリンは油性なので、便を滑りやすくする作用もあります。

Q6: 浣腸を使うタイミングなど、効果的な使用法はありますか。

A6: とくに効果的といえる時間帯はなく、一日のうちでいつ使用してもかまいません。それより、使用時には即効性があるので、使用後3時間ぐらいはトイレに行ける環境下で行ってください。

また、浣腸液を冷蔵庫で保管する人もいますが、冷たいままで使用すると腸がびっくりします。使用時には白湯などで容器ごと少し温めましょう。寒い時期はとくにそのようにするとよいでしょう。

さらに、緊張すると肛門の筋肉が引き締まって薬剤が注入しにくくなる、自律神経の働きで便意が起こりにくくなる、あせるとノズルの挿入操作が荒くなって直腸を傷つける危険があるので、時間に余裕があるリラックスした状態で使用しましょう。口から息を吐くとおなかに内圧がかからず、注入が容易になります。

Q7: ひどい便秘のとき、便秘改善のための内服薬と、浣腸を併用しても大丈夫でしょうか。

A7: 便が溜まっている部位と便の状態によって違います。肛門の付近に便がおりてきていない段階で浣腸を使ってもあまり意味はありません。内服薬は排便の効果までに、種類によって7〜12時間を要します。それに比べて、浣腸の場合は瞬時〜10分ほどで効果が現れ、即効性があります。その時間差を考えて、内服薬の効果が現れそうなときに浣腸を使うのは避けましょう。下痢が激しく出現することがあるためです。

内服薬の効果が出る時間を過ぎて、便が肛門のところにあるのに排泄(はいせつ)できない場合などは併用してもよいでしょう。また、検査や治療ですぐに排便する必要があるなどの場合は併用することもあります。もちろん、これまで話した理由で、内服薬と浣腸を普段から常に併用することは避けてください。

Q8 :精神的ストレスが原因の「過敏性腸症候群(IBS)の便秘型」と診断されました。浣腸は有用でしょうか。

A8: 残念ながら有用とは言えません。便意は、一定量の便が直腸に溜まり、腸管の壁が引き伸ばされる刺激などで感じます。しかし過敏性腸症候群では腸管の知覚過敏のために、本来なら便意を感じない程度の少量の便でも残便感や閉塞感を感じる場合があります。

そもそも便が排泄するほど溜まっていないケースでは、浣腸を用いても期待した効果は得られないでしょう。

過敏性腸症候群の場合は知覚過敏を緩和する処方薬の内服や、肛門部に対する注意をそらす心理療法が有効とされています。

Q9: 最後に、「慢性便秘症」かもと思う場合、受診のタイミングを教えてください。

A9: 排便にあたり、「いきまないと出ない」「ウサギの糞便のようなコロコロとした硬い便になることがある」「残便感が気になることがある」「肛門付近につまった感じがある」「自然な排便が週に3回未満」「便秘が続いて日常生活に支障がある」などに思いあたる場合は、浣腸に頼らず、まずは消化器内科や内科を受診しましょう。

――ありがとうございました。浣腸は医学的に有用で成分は安全であるものの、便が肛門付近にあって硬くて出ないときに便秘改善の切り札として使う、連用を避けるべきこととその理由、使用法も理解が進みました。効用と注意事項を十分に把握したうえで適切に使いたいものです。

(構成・文 品川 緑/ユンブル