もしかして、マザコン?28歳女がドン引いた、彼の母親の“食事中のある態度”とは
「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」
そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。
彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。
男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。
でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。
▶前回:167cm48kg、年収650万円のスタイル抜群な美女。なのに、セカンドになってしまうワケは…
Vol.15 里穂、28歳。自分の気持ちに嘘をつきたくない。
「里穂、急なんだけど来週の土曜空いてる?」
丸の内にある『THE UPPER』での食事中。彼氏の匡平(きょうへい)が聞いてきた。
私はメニューをテーブルに置き、彼に向き直る。
「土曜日?」
「うん。母親が滋賀から遊びに来るんだけど、里穂のこと紹介したいから一緒にランチでもどうかなって」
― 土曜は、ネイルと美容皮膚科予約してるんだよな…。
私は、「スケジュール確認するね」と言いながら、頭の中でどうすべきか考えていた。
女子には欠かせない毎月の美容メンテ。どちらも土日は予約が取りにくいから、リスケしたくない。
しかし…ここは快くOKすべきだろう。
私を紹介するということは、匡平はいよいよ、結婚を意識しているということだろうから。
「わかった。予定入ってたけど、そっちはずらせるから」
「ありがとう!助かるよ。それとお願いがあるんだけど…」
― え、何?なんだか嫌な予感。
コンサルの仕事をしていて、独立に向け忙しくしている匡平。
IT企業で総務をしている私は、毎日19時には帰宅している。だから、何を頼まれるのかは想像がついた。
私は、モヒートを一口飲んでから、匡平のお願いを聞いた。
匡平と出会ったのは、5年前の夏。
つまらない食事会の後、私は女友達とふたりで恵比寿横丁にいた。適当に選んだ店で隣の席にいたのが匡平だったのだ。
「それ、おいしそう!何ですか?」
友達のヒロコが、匡平に先に声をかけた。
「え?あ〜、この店で1番美味しいやつだって。よかったら食べますか?」
「じゃあ、遠慮なく」
その会話がキッカケで、彼らと一緒に飲むことになった。
ヒロコは彼氏持ち。私は数ヶ月前に別れてフリー。匡平と一緒に来ていた男性は既婚。
そうなると自然に、私は匡平と連絡先を交換する流れになり、付き合うのに時間はかからなかった。
◆
匡平に頼み事をされた翌日の会社帰り、私はGINZA SIXに向かった。
彼から頼まれたことのひとつ。「母親へのプレゼントを買う」というミッションのためだ。
里穂の方が女性の好みがわかるし、センスがいいからと言われ、それには納得する。
それならばと、ネットでの購入を提案したのだが、匡平はいい顔をしなかった。
私が直接店に行って選んでほしいそうだ。
― まさか…マザコンじゃないよね。
私は、地下1階の化粧品売り場を歩きながら、ため息をついた。
匡平と付き合って5年。
周りも身を固めだし、私もなんとなく“30歳までに結婚したい”という気持ちが強くなってきている。
彼といるのは楽しいし、この先もずっと仲良くやっていきたい。
それならば、向こうの母親とはうまくやるべきだろう。
― でもなぁ…。
私は、山口にいる自分の母親と比べてしまっていた。
私の母は、店も適当でいいし、プレゼントも要らないと言うだろう。
― っていうか、普段から贈り物をしているのは、私の母親の方なんだけど…。
母親からもらう食材は匡平にもしっかりおすそ分けしている。しかも、山口でも何万もするふく刺しを、だ。
だけど、匡平の実家の滋賀からは何も送られてこない。そのことを彼はどう思っているのだろうか。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
口紅などの色モノだと好みがあるだろうから、Diorでボディソープとキャンドルを購入した。
「ありがとうございます」
私は、紙袋を持って外に出た。夏の湿度の高い風がスカートを揺らす。
「はぁ」
― なんで、こんな気持ちになっちゃうんだろう?
大事な人が大事にしている人なのに、匡平の母親のことは会う前からあまり好きではなかった。
◆
そして、土曜日―。
東京駅までタクシーで匡平の母親を迎えに行き、私たちは車内で軽く挨拶を済ませ、店へ向かった。
「わぁ。いい店やね。さすが、匡平!東京で頑張ってるだけあるわ〜」
「里穂が予約してくれたんだよ。僕は仕事で忙しくて」
そう。匡平からの頼み事のふたつ目は、「当日の店選びと、予約」だった。
私が予約したのは、東京タワー近くの『芝 とうふ屋うかい』。
東京タワーを間近で見られるし、お庭もある。
なにより、匡平は東麻布に住んでいる。食事の後は、彼の家でお茶でもするだろうから、ここにしたのだ。
我ながらベストな選択だったと思う。
しかし、匡平の母は私にぶしつけなことを言う。
「里穂ちゃんは仕事、暇なん?」
― 暇じゃないですけど。
そう言いたかったが、相手は彼氏の母親だ。私はぐっと堪えた。
「匡平さんに比べたら、忙しくない方かもしれないです」
私は苦笑いで答えながら、1品目の料理に手をつけた。
「へ〜そうなの。匡ちゃん働きすぎて身体壊したらあかんよ?里穂ちゃんにサポートしてもらい?」
「そうだね。里穂は料理も上手だから」
― サポートって、まだ、彼女なんだけど…。
次々と毒が口から出てきそうなのを堪え、私は、必死にその場を楽しもうとした。
しかし、その後も匡平母の“親バカっぷり”は勢いを増し、興味のない私には全く話を振らない。
息子を私に取られてしまう、という危機感があるのだろうが、私が何か話すと嫌味で返されるのもつらかった。
「匡平は小学生の頃からずっと足が速かったよね?勉強もできたし、お母さん誇らしかったわ〜!」
「匡平って、今どんな仕事してるん?詳しく教えてや。里穂ちゃんの何倍稼いでるの?」
「匡平はイケメンやから、相手さえ間違えなければ、子どもはかわいい子が生まれるやろね。楽しみやわ」
― 匡平、匡平、匡平…って、それしか話すことないんかい!
私はなんとか耐えるのに精いっぱいで、同意して匡平を褒めることをしなかった。
だって、言うほどの美男でもないし、通っていた大学も東京では自慢できるほどではない。
運動に至っては、今は全くしていないのを知っているからだ。
「里穂ちゃん、さっきから黙ってるけど、どこか具合でも悪い?」
「えっ?」
私は、気づくとひとりで黙々とお酒を飲み続けており、会話にほとんど参加していなかった。
― まずい…。
匡平の方を見ると、呆れた顔をしていた。まるで、私が一方的に悪いかのように。
「いえ、大丈夫です。ただ…ちょっと疲れてしまって」
私は素直にそう言うと、匡平の母親の顔はみるみる曇っていった。
里穂との結婚を考えられなかった理由〜匡平の場合〜
「今日は、ありがとうね。私ここで失礼するわ」
彼女の里穂を母親に紹介したくて、開催したランチ会。
母親は機嫌を損ねたのか、店を出るとそのままタクシーに乗り、宿泊先のホテルへ向かってしまった。
「はぁ…」
里穂の方をチラッと見るが、謝ろうともしてない。
たしかに、母親は僕の話ばかりをしていたから、里穂は楽しくなかったかもしれない。
でも、コロナのせいでずっと会えなかった息子に会えて嬉しさが爆発してしまったのだと思う。
里穂はそれをわかってくれていると思っていたが、予想外だった。彼女は気を使えず、お世辞も言えない人だったことが判明したのだ。
これでは、彼女としてはよくても、結婚相手として親に紹介できない。
「何も話さないの?」
僕が聞いても、里穂は黙ったままだ。
里穂にも店の予約や買い物を頼んでしまった僕にも責任があるし、ケンカもしたくない。
僕は、どこかカフェにでも入ろうかと提案した。しかし、里穂はどんどん駅に向かって歩いていく。
「匡平のお母さん、プレゼント全然喜んでなかったね」
「え?」
ようやく口を開いたと思ったら、母親の悪口が飛び出した。
「CHANELの方が好きって言われた。あれなんなの?」
「それは、関西の人だから!ただの冗談だよ。本当は嬉しかったと思うよ」
僕は、母親をフォローし、なんとかこの場を乗り切ろうとした。
里穂の言いたいこともわかる。
しかし、結婚となると、相手の家族とも一生関わることになる。
自分の感情を最優先して言葉を発したり、僕のことも立てられない女性とは無理かもしれない。
― でも、それだけで終わるのもなぁ…。
僕は今すぐ別れなくてもいいと思っていたが、里穂は違ったようだ。
「里穂、そんなんじゃ…」
僕が、諭そうとすると里穂は食い気味に言う。
「そんなんじゃ結婚できない、って思われても、私は自分の心を一番大事にしたい。思ってもないことを言って気に入られても意味ないし。だったら、結婚なんかできなくてもいいや」
そう言い残し、里穂は赤羽橋駅の階段を下りて行った。
そう言われて初めて、里穂にとって今日のランチ会が相当なストレスだったことを知り、僕は頭を抱えてしまったのだった―。
Fin.
▶前回:167cm48kg、年収650万円のスタイル抜群な美女。なのに、セカンドになってしまうワケは…
▶1話目はこちら:可愛くて会話上手な28歳女。なのに男にホテルに“置き去り”にされたのは…