六本木の探偵バーに辛酸なめ子が訪問! 別れさせ工作のやり方は……
『steady.』で好評連載中の「辛酸なめ子の覗き見♡OL妄想劇場」。今回は辛酸なめ子さんが六本木で遭遇した出来事について綴ります。
人間関係が交錯する六本木のバーでディープな探偵トーク
先日、六本木の探偵バーに伺う機会がありました。働いている男女は全員探偵という刺激的なスポット。探偵というとラブホから出てくる男女を張り込んで激写する浮気調査のイメージがありますが、意外と多いのは復縁工作と別れさせ工作だそうです。「コロナで外出自粛の時期も依頼はありましたよ。不倫してる女の子は会えない時間が増えてストレスがたまっちゃう。逆に自分の旦那が愛人の家に入り浸って帰ってこないという相談もありました。コロナで不安が増大してしまう人も多いです」と、探偵の女性。
別れさせ工作についてちょっと伺ったのですが、依頼者が女性で好きな男性と彼女を別れさせたい場合、対象者(好きな人の彼女)に女性探偵が自然に近付いて仲良くなって、話を聞き出したり別の異性を紹介したりするそうです。その仲良くなり方は、知らない街でお店を探しているフリなどして相手に頼り、2回目には偶然の出会いを仕組んで連絡先を聞くそうです。同性だと警戒心が緩み、意外と教えてくれるとか。探偵に憧れていましたが、知らない人に連絡先を聞き出すミッションのハードルが高く、また、張り込みで地方へ行っても全然自由時間がなく車両で待機し続け、「旅先での食事は毎回コンビニのごはんです」という話を聞いて断念しました……。でも報酬は工作が絡むと100万円以上になるそうで魅力的です。
六本木のお店だったので、最近の六本木の治安について聞いたら、外国人観光客がいなくなってかなり静かになって治安も良くなったとのことでした。安心して遊べる街になったのか、六本木通り沿いの人工芝でヨガをしているタンクトップ姿の外国人男性を見かけました。アクロバティックなシークエンスで開脚して倒立したり、無防備なポーズを展開。じっと見ていたらこちらの視線に気づいて激しくアイコンタクトしてきました。外国人が減ったなか、個性が強い人が残っているようです。
六本木のトイレで聞こえてきた怪しい電話の声
六本木は気が抜けない……そう実感させられるできごとがありました。東京ミッドタウンのカフェで仕事の打ち合わせをして、合間にトイレに行ったときのことです。個室に入っていると、トイレ内のパウダーコーナーでずっと電話している声が……。個室から出ると、黒いワンピ姿の派手な女性が大きな声で電話していました。「最近、請求書をいただいてないなって思ったんです」。外注先に請求書を促す電話でしょうか。ここまでならよくある話ですが、彼女のそのあとの発言が聞き捨てできませんでした。「請求書が1000万円超えたら2枚に分けてください。内装費って書けば大丈夫だから」「はい、社長が言ってました。そういう認識です」
請求書が1000万円以上? 内装費? 一瞬脳が情報を処理できず、やはりここは六本木という光と闇が入り交じるカオスな街なのだと実感。その女性の方をちらっと見ると鏡ごしに目が合って、その眼力の強さに圧倒されました。瞳の威圧感に、何か聞いてはいけない話を聞いてしまった気がして、さっとトイレを出ました。
それにしても1000万円以上の請求書とは……。六本木の探偵バーで聞いた100万円のギャラが安く思えてくるほどです。くわしい人に聞くと「内装費」という項目は、どんな金額でも計上しやすいそうです。そんな高額の仕事を発注するとは……闇社会の気配が漂っています。実際、どんな大がかりな仕事を請け負ったのか、想像するだけで震えます。特殊詐欺、麻薬カルテル、人身売買……そんな単語を妄想してしまいました。
それにしても、彼女はなぜトイレでこんな話をしていたのでしょう……。風水的にトイレには「陰の気」がたまりやすいといわれています。水を多く使う場所、とくに便器からは陰の気が発生。つまり、ネガティブなエネルギーを発する人は自然とトイレに引き寄せられてしまうのでしょう。だから彼女は陰の気に負けないよう、大声で話していたのかもしれません。彼女のその後の動向が気になりましたが、プロの探偵でも彼女の尾行は躊躇しそうな、危険な人脈に繋がっている予感が。素人は「六本木のトイレって怖い」と素人っぽくリアクションしておくくらいが安全です。
PROFILE/辛酸なめ子
(しんさん・なめこ)
漫画家、コラムニスト。皇室、セレブリティ、スピリチュアルなどの分野に精通。著書は『女子校育ち』(筑摩書房)、『セレブマニア』(ぶんか社)、『辛酸なめ子のつぶやきデトックス』(宝島社)など。『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)は、日本のカルチャー要素をキーワードに、漫画タッチで構成されています。ツイッターのシュールボイスもお見逃しなく。@godblessnameko
(steady. 2020年12月号)
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WEB編集/FASHION BOX