夫と不倫関係にある銀座のクラブのママに対し、妻が慰謝料を求めた裁判で、東京地裁が、不倫ではなく「枕営業」であり、不法行為ではないと訴えを退けた、というニュースが報じられました(朝日新聞5月27日号より)。

    不倫相手が「プロ」なら妻は何もできない?

この判決に対し、ツイッターでは疑問の声が多数上がりました。

・銀座のママみたいにプロとして対価を受け取っている売春の場合は、おとがめなしってことですか?
・営業活動はOKで素人はダメというのは、行為そのものじゃなくて妻の座が脅かされる危険度が争点になってるの?
・売春は「何ら結婚生活の平和を害するものでなく、妻が不快に感じても不法行為にはならない」ってこと?

今後、夫の不倫相手が、「夜のお仕事」従事者だったら、妻は黙って枕を涙で濡らすしかないのでしょうか。離婚問題に詳しいアディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に伺いました。

    “夜のお姉さん”との不倫は多い

――過去に、既婚男性と飲食業・風俗業に従事する女性との肉体関係で、女性側に慰謝料請求した事例はあるのでしょうか。

篠田恵里香弁護士(以下、篠田):不貞の慰謝料が争われるケースで、相手としてあがってくるのは、夜の職業(風俗業・飲食業、スナックやクラブなど)の女性であることは多いです。

実際に裁判になるケースは、相当深い仲になっているケース(同棲しているケースや相手に子供ができたようなケース)が多いように思いますが、数回の肉体関係であっても、泥沼の争いになることはあります。

    「枕営業」=「不倫ではない」は専門家の間でも物議

――「枕営業」は不倫ではないとした例は今回が初めてなのでしょうか。

篠田:不貞行為については、裁判上、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」とされています。そして、この不貞行為は、「故意または過失によって、夫婦の婚姻共同生活の平和を侵害した」ことを理由に不法行為が成立すると考えられています。

これまで、「枕営業」を理由に、「不法行為に当たらない」と判断した裁判例はないと思われますので、今回の判決は、相当思い切った判決と言わざるを得ないですね。

「枕営業」=「商売として行っている」=「夫婦の結婚生活の平和を害するものではない」という論理については、現在、否定的な意見が多数を占めるように思います。今回は、依頼者の意思で控訴を諦めたようですが、控訴審まで進んだ場合には、高裁で地裁の判断が覆される可能性もあったと思われます。

    絶対に勝てる「不倫」の証拠

――今後もし、今回の判例のような考え方が定着するならば、夫と“夜のお姉さん”の不倫を掴んだ妻側が集めておくべき証拠とは?

篠田:今回のような考え方が、今後の裁判において一般的に定着するとはあまり想定しがたいですが、もし定着するのであれば、慰謝料請求をする際には、「純粋な枕営業ではない」ことを示す証拠が必要になってきます。民事上の証拠に原則として制限はないので、証拠になりそうなものは全て揃えましょう。

裁判では「純粋な枕営業ではないこと」=「愛慕の情による交際関係」であること、結婚生活の平和を害するような深い関係であること、などを主張することになります。

たとえば、「愛している」というメールのやりとりや、記念日を一緒に祝っている写真、デートの様子をSNSにアップした情報なども証拠になります。半同棲生活を送っていることや、子供がいること(妊娠して中絶した事実)などは、過去の裁判例からいってもほぼ間違いなく不法行為が認定されますので、そういった事実があれば、これを証する証拠(住民票や戸籍など)を提出すれば足りると思われます。

    夫の暴言、冷たい態度を示すメール、日記も証拠に

――肉体関係だけでなく、恋愛感情の有無が重要ということですね。

篠田:あくまで、想定に基づくところですが、平成26年3月に大阪地裁で出されたいわゆるプラトニック判決(「肉体関係はなかったものの交際相手女性の行動が夫の妻に対する冷たい態度と因果関係がある」として不法行為に基づく慰謝料請求を認めた判決)の論理や、今回の判決の論理を見てみますと、「結婚生活の平和に支障を与えるかどうか」という点を重視している傾向が見えます。この流れからしますと、「夫とクラブのママとの情交関係によって夫婦関係に亀裂が生じていることを示す証拠」=「夫の暴言や冷たい態度を示すメールや録音、日記」なども証拠になりうることが想定されます。

●取材協力:アディーレ法律事務所

(編集部)