「夢を語ると喰われる」OL辞め7か月の引きこもりから「鬼レンチャン」で下剋上、針谷紀久子が明かすゾンビの教訓
『千鳥の鬼レンチャン』の人気企画・サビだけカラオケで、注目を集めたものまね芸人・針谷紀久子さん。音程を外さず10曲連続で歌いきれば100万円の企画で惜しくも10曲目で失敗したものの、その存在は一気に世間に知られることに。ゾンビ好き公言し、自信のなさやネガティブ発言を繰り返す、彼女の素顔に迫ります。
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まさかの「鬼レンチャン」でも自信はあった
── 3月にテレビ番組『千鳥の鬼レンチャン』に出演してブレイクした針谷さんは、芸歴12年の実力者ですが、「バズらない」「顔が地味で致命的」など、ネガティブ発言を炸裂させるキャラクターが視聴者の心をつかみ、SNSのフォロワー数が51人から約3万人にまで増えたそうですね。出演まではどのような心境だったのでしょうか?
針谷さん:今までは家で番組を見ている側だったので、まさか自分にオーディションの話が来るとは思っていませんでした。お声がけいただいたときは「これは絶対に出なくちゃいけない」と思うと同時に「私には、顔が誰かに似たビジュアルネタもないし、目に留めてもらえる要素があるのだろうか…」と、ネガティブな思考もめぐりました。でも、「素の自分で勝負するしかない」と腹を括り、オーディションに臨んだんです。
唯一、自信を持っていたのが「音程だけははずさない」ということでした。というのも、これまでものまね芸人として活動するかたわら、カラオケのガイドボーカルの仕事を8年間続けてきたんです。ガイドボーカルとは、カラオケの音源と一緒に流れるお手本の歌声です。歌手の声質や表現をまね、音程をしっかり取りながら録音してきたので、そこで鍛えられたおかげで、音程をはずさず正確に歌うことは得意だったのです。
オーディションでは曲が決まっていない中、試しに歌った曲でカラオケ機器・DAMの採点機能で高得点を出すことができましたが、面接で聞かれることに対してはネガティブ発言を繰り返してしまいました。ですが、思いがけずそのキャラクターを気に入っていただけて出演が決まった感じです。
オーディションに合格しても今度は「1曲目で終わるかも」とマイナスな感情が芽生え、その気持ちを抱えたまま現地入りすることに。そうしたら、不思議なんですが、ネガティブなほうが変な力が入らず、自然に歌えるところがあって。意図的にそう思うようにしているところもありました。
7か月間は引きこもり「ゾンビドラマを見る毎日」
── なるほど。本当は「10レンチャン目指そう!」とポジティブに行きたいけど、自己防衛的にあえて高望みはせずという感じでしょうか?
針谷さん:そうですね。「失敗したときの落胆が大きくならないように、浮かれないでおこう」という感じですね。じつはその考えに至ったきっかけは、ゾンビのドラマを見すぎたことにありました(笑)。
数年前、仕事がうまくいかず落ち込んで無気力になり、引きこもっていた時期がありました。OLを辞めてものまね芸人となり、やる気に満ちていた頃、自分にとっては十八番のネタでベストを尽くしてオーディションに臨むも、ことごとく落ちて、ものまね芸人としての自信を失っていたんです。
その間、約7か月はほとんど何もせずに家でゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』を見て過ごしていました。もともとゾンビが登場する作品が大好きだったのですが、見れば見るほどハマっていきました。
ゾンビドラマには生きるうえで大事なことがすごく詰まっているんですよ。そのひとつが「夢を語るとすぐ喰われる」というもの。今まで悪いことばかりしていた人がいい人になった途端、ゾンビに喰われるというフラグ(※このあと起こることを予感させる描写)があるんです。それに影響を受けて「調子に乗って前向きなことを語るとすぐ喰われる」というネガティブな考えに染まってしまったわけです。
フォロワーが51人から3万人近くになって
── それで、あえてポジティブな発想を抑えて、ネガティブ思考で挑まれたのですね?
針谷さん:はい。『鬼レンチャン』で歌う曲の練習をすると一度もミスせず、すべて100%成功していました。ですが、そのことを口に出して言うと失敗の引き金になると思って。だから1曲目からネガティブな思考で歌っているわけですが、8曲目まで成功するとやっぱり欲が出てくるんですよね。
人間って不思議です。収録中に「絶対10レンチャン成功させます」と、自分の口で宣言してしまうほどポジティブスイッチが入ってしまったんですよ。次第に夢が膨らみ「鬼レンチャンを全曲ものまねで達成」の称号をもらいたい気持ちにもなって。
ましてや、最後に挑んだ10曲目は、とくに自信のあった緑黄色社会さんの『恥ずかしいか青春は』でしたので、ポジティブ針谷が発動したわけです。そうしたらいきなり、歌詞の最初の6文字目で音程がズレてチャレンジ失敗に。ゾンビのフラグ通りです(笑)。オンエアを見たら私「やっぱり」って顔をしているんですよ。そして再認識しました。夢を語ったから喰われた「ゾンビドラマは正しかった」と。
──「ゾンビのフラグにとらわれず人生を変えたい」と、鬼レンチャン目前でポジティブ針谷を発揮した途端、失敗して再びネガティブキャラにへ戻ってしまったところで放送は終わりました。ですが、オンエア後、結果的にそのキャラクターがおもしろいと、ブレイクすることに。出演して心境の変化などはありましたか?
針谷さん:残念ながら『鬼レンチャン』のチャレンジは失敗してしまいましたが、多くの反響をいただいてフォロワーさんが増えました。そのときは400件ほどのコメントや、同数近いDMをいただいて。読んでみると、すべてポジティブなコメントばかりで悪口がいっさいなかったんです。正直、奇跡だなと思いました。
ものまねをしていると、やはり「似ている」「似てない」ということで評価されてしまいますから、否定的な反応が怖くてこれまでエゴサなどもしてこなかったのです。でも今回テレビ出演させてもらい、素の自分で受け入れてもらえたことが、すごくうれしかったです。ゾンビ好きを知ってもらい、いつかゾンビ作品にも出てみたいという欲も出てきました。私は、結局ポジティブなのかもしれませんね(笑)。
── たしかに、意図的にネガティブでいることで高望みせず目の前のものに丁寧に向き合われてきた針谷さんは、ただただ謙虚でポジティブな方なのではないでしょうか?
針谷さん:そう考えるとポジティブでもあり、ネガティブでもあるのが私ですかね。どちらも本当の自分ですね。ちなみに、ものまねショーをやるときは私、とても明るいんですよ。だから、テレビで私の存在を知り、ショーに来た方からは「二重人格なんじゃないか?」と言われたりもしますが、そんな性格を皆さんにおもしろく楽しんでもらえたらありがたいです。
取材・文:加藤文惠 写真:針谷紀久子
