胃や腸の調子が悪いとき、「病院に行くと、内視鏡検査をしなければならないのでは。痛そう、苦しそう」というイメージがあります。実際にどのような検査をするのかも正確に理解ができていません。そこで、兵庫医科大学・消化器内視鏡センター長で同梅田健康医学クリニックの副院長・富田寿彦医師に、最新の内視鏡検査の動向について具体的に尋ねます。

富田寿彦医師

内視鏡検査と胃カメラは同じ?

--まず、「内視鏡」とはどういうものでしょうか。「胃カメラ」とは違うのでしょうか。

富田医師:内視鏡とは、ヒトの体の内部を観察し、場合によっては治療をする医療機器のことです。形は細長い管状で、先端には超小型で高性能のカメラレンズが搭載されています。

消化器内視鏡は、口や鼻、または肛門から体内に挿入し、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸の内部、粘膜の状態を撮影します。その映像はビデオモニターに映し出され、それを医師が観察します。

昔は胃の内部の写真を撮るだけの機能を持つ胃カメラで検査をしていました。最近の内視鏡は撮影だけではなく、治療などさまざまな処置ができます。

ただ、いまも患者さんに伝わりやすいように、上部消化管(後述)内視鏡のことを胃カメラと、また、消化器内視鏡検査のことを胃カメラ検査と呼ぶ医師や医療関係者は多いです。現在は、胃カメラでの検査というと、上部消化管内視鏡検査を指します。

消化器内視鏡の例。画像提供:兵庫医科大学病院内視鏡センター

胃の検査では口か鼻から、腸の検査では肛門から

--口や鼻から内視鏡を入れるのと、肛門から入れることの違いは何でしょうか。

富田医師:医学では、食道、胃、十二指腸を「上部消化管」、十二指腸以外の小腸(空腸・回腸)、大腸(盲腸、結腸、直腸)を「下部消化管」と分類しています。

内視鏡検査を行うとき、上部消化管を観察する場合は口か鼻から、下部消化管の場合は肛門から内視鏡を挿入します。

内視鏡は消化管以外のほかの臓器の観察も可能ですが、とくに、消化管の内視鏡検査はここ10年で大きく進歩しています。健康診断でも、これまでは、レントゲンによる「X線検査(バリウム検査)」が行われていましたが、内視鏡検査へと変わってきています。

消化器の内視鏡検査では何がわかる?

--では、消化器の内視鏡検査ではどのようなことがわかるのでしょうか。

富田医師:まず、内視鏡検査ではX線検査に比べて、カラーで高解像度の鮮明な画像を観察できるメリットが大きいです。

食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のがんなどの病気、また、潰瘍(かいよう)、ポリープ、びらん(ただれ)などの早期発見とその状態、さらに胃がんの原因となるピロリ菌などの診断が可能です。

また、これらの異変が見つかったとき、内視鏡検査の場合は、X線検査では不可能な「生検(生体検査)」が可能です。生検とは異変がある組織を採取して顕微鏡で状態を調べることです。内視鏡では管の先端に「組織が採取できる器具」も搭載されているため、発見と同時にすぐに採取することができるわけです。

検査は10〜20分、眠っている間に終了することも

--それはメリットが大きいですね。ただ、内視鏡検査は、どうも痛そう、苦しそうというイメージがあります。

富田医師:昔はそう言われていましたが、いまでは、主に3つの理由により、「内視鏡検査は意外なほどすぐに楽に終わった」「内視鏡検査のほうがX線検査より快適だ」と言う患者さんがとても増えています。

1つめは、管そのものの進歩です。かなり細くなり、口から挿入するタイプでは直径が8〜9ミリ、鼻から挿入するタイプでは5〜6ミリ、肛門から挿入するタイプの極細径は9.2ミリです。

またその管が、腸の中をくねくねと進むので、「粘膜にあたると痛そう」と思われるかもしれませんが、いまの高性能の内視鏡では、腸の屈曲を確認しながらカメラの形や硬さを自由に変えることができるのです。

下部消化管内視鏡の場合は、腸の屈曲をスムーズに通りながら、約5分で肛門→直腸→S状結腸→下行結腸→横行結腸→上行結腸→盲腸までの70〜80センチの大腸を進むことができるようになっています。

検査時間は上部消化管で約10分、下部消化管で約20分程度です。生検が必要な場合はもう少しかかります。

2つめは、「意識下鎮静法」(コンシャス・セデーション:conscious sedation)を用いて、麻酔ではないけれど鎮静剤を点滴してウトウトした状態で意識がない間に検査が可能ということです。

鎮静剤は1〜2時間は効いていますが、検査後に医師や看護師が声をかけると目が覚めます。たいてい、「え、もう終わったの?」と驚かれます。

その後は1時間ほどベッドで休んでいただきます。ただ、検査当日、完全に目覚めても後でまた眠くなる場合があるので、自動車や自転車の運転はできません。

3つめは、鎮静剤の投与が苦手な場合は、もっとも細い管である「鼻から挿入するタイプ」を使います。これは口から挿入のタイプと違ってのどを通過しないので、嘔吐(おうと)感はなく、検査中に医師との会話が可能です。

いずれにしても、実際に内視鏡検査を受けられた患者さんは、「こんなに楽だとは知らなかった」「これだったら毎年受けたい」と言われる人が多いです。

女性の患者への配慮も

--大腸検査の場合、肛門から挿入ということですが、恥ずかしいですね。

富田医師:女性が内視鏡検査を受けたくない理由として、腸の場合はとくに「恥ずかしいから」という意見が多く挙がっています。腸に不調があっても、検査がいやで受診を避ける人もおられるということで、その点に配慮する医療機関が増えています。

当病院(兵庫医科大学病院の内視鏡センター)の場合は女性の消化器内視鏡専門医が常勤していて、女性の医師による検査を希望される女性の患者さんが多いです。

女性の医師がいない場合でも、女性の看護師によるフォロー、また音楽やアロマで患者さんがリラックスできるように工夫する医療機関も増えてきています。気になる場合は、事前に、医療機関のウェブサイトや電話で遠慮なく問い合わせをしましょう。

AI内視鏡とは? カプセル内視鏡とは?

--内視鏡が高性能になってきたとのことですが、AIによる内視鏡が登場しているそうですね。

富田医師:まだ採用している医療機関は少ないですが、「AIによる診断支援機能を活用した内視鏡検査」があります。当病院ではいち早くこれを取り入れて、実際の検査に臨んでいます。どういうものかといいますと、検査中の画像をAIが解析し、がんやポリープやその候補を検出するとその場所を枠で表示し、リアルタイムに画面上の色や音で警告するなどします。微小な異変でも発見されやすく、診察の精度も効率も向上しています。

また、数年前から、体に内視鏡を挿入することが苦手だという人向きに、「カプセル内視鏡」が実用化されています。ビタミン剤のカプセルより少し大きいぐらいの内視鏡を水とともに飲みこむと、腸管内部を移動しながら撮影し、体外へ画像を送信します。使用後は自然排出されます。

カプセル内視鏡の例。画像提供:兵庫医科大学病院内視鏡センター

--ありがとうございました。内視鏡検査は病気の早期発見が可能であること、また、鎮静剤などを使用すると苦痛がないこと、女性の医師やリラックスして受診できる工夫をする病院が増えていること、近ごろはAIやカプセルを活用した内視鏡の性能そのものが進歩しているということです。内視鏡検査はすでに、痛い、苦しいものではないようです。

(構成・文 藤原 椋/ユンブル)