我慢せず、自分の心に従う。3人の女性リーダーが語る「働く女性へのメッセージ」
毎日仕事をしていると、会社の仕組みやワークライフバランスなどに違和感を覚えた経験は誰しもあるはず。それは起業・独立し、強い志を持った女性リーダーも同じようです。
10月26日、シャンパーニュメゾン「ヴーヴ・クリコ」がオープン参加型のパネルディスカッション「Veuve Clicquot Bold Conversation Session 3(ヴーヴ・クリコ ボールド カンバセーション セッション3)」をオンラインで開催しました。
女性リーダーの声を広く届け、対話を促す取り組みで、3回目となる今回のテーマは「メディアは女性の生き方を変えられるか」。大衆媒体ではなく小さな声を届けたい人に届ける松尾亜紀子さんと竹中万季さん、そしてブックデザイナーの佐藤亜沙美さんの3名の女性リーダーが登壇し、独立の経緯や出版業界ならではの働き方について語りました。
■「ヴーヴ・クリコ」とは?
1772年にフランスのランスで創業したヴーヴ・クリコは、アイコニックなイエローラベルでおなじみのシャンパーニュメゾン。シャンパーニュ地方の「ラ・グランダム(偉大なる女性)」と呼ばれたマダム・クリコは1805年、27歳で夫を亡くしたのちブランドの後継者となり、初のブレンド製法によるロゼ シャンパーニュの発明など革新をもたらしました。
女性の社会進出が今のように当たり前でなかった時代から、道を切り開いてきたマダム・クリコの精神を今日に受け継ぎ、女性の影響力を国際的に高めていこうとするプログラムが「Bold by ヴーヴ・クリコ」です。
■なぜ独立の道を選んだ? 3人の女性リーダーによる独立の経緯
今回開催された「Veuve Clicquot Bold Conversation Session 3」は「Bold by ヴーヴ・クリコ」の取り組みの一つ。
登壇者1人目は株式会社エトセトラブックス代表の松尾亜紀子さんです。松尾さんは出版社で15年間編集者として勤めた後、2018年にフェミニスト出版社「エトセトラブックス」をスタート。2021年には東京・新代田にフェミニストのための書店をオープンしています。
松尾さん「以前は大きな出版社に勤めていましたが、起業というよりは男性中心につくられてきたシステムから独立した、というイメージでエトセトラブックスを始めました。出版社在籍時もフェミニズムやジェンダーの本をつくっており、独立したあともその続きで同様の本を制作しています。独立して変わったのは細部。自分のつくりたい本は、出版社時代もほとんど企画は通っていました。しかし、帯にどういった文言を書くか、誰に推薦のコメントをお願いするかなど、想いを広げるための最後の最後のひとさじまで自分でやりたいと思ったのが、独立した大きな理由です」。
登壇者2人目は野村由芽さんとともにウェブマガジン・コミュニティ「me and you little magazine&club」を運営するミーアンドユー 共同創業者・代表の竹中万季さん。広告会社勤務を経てCINRAで野村さんと「She is」を立ち上げたのち、2021年3月に「She is」がサービス終了したのをきっかけに独立して「me and you」をスタートさせました。
竹中さん「自分たちが女性と言いながら、一つの生き方に集約されることに居心地の悪さを感じ、She isという場所をつくりました。そこで共感してくださる方やその場所を必要としてくださる方がいるということに、活動を通して気づいたのです。しかし、会社の事業の場合は会社の方針に合わせていく必要があり、広範囲の人々に広げるという会社の方針と折り合いがつかなくなりました。金銭面、規模など自分たちで意思決定できた方が継続できるのでは、と考え独立しました」。
登壇者3人目はNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のタイトルデザインなどを手がけるサトウサンカイ代表の佐藤亜沙美さん。2014年まで約8年間、祖父江慎さんが率いるコズフィッシュに在籍し、2014年に独立しています。
佐藤さん「コズフィッシュに在籍していた時は、『ぜひ祖父江さんに』といった仕事の依頼が多くありました。働いているうちに私の中で目的意識が強くなり、担当する作品と自分のやりたいことのコントラストが高くなってきた時に、独立を意識し始めました。トランスジェンダー問題など、声を出しにくい、声になりにくい方を取り上げている本を担当したいと思ったのです。また、最終的な責任も祖父江さんに委ねられるので、自分が最後まで見届けられないということもあって独立し、現在は責任をもって仕事ができることに充実感を感じています」。
■出産時にPCを持ち込んで仕事……まだまだ課題の多い女性の働き方
独立の経緯のディスカッションが繰り広げられる中、話は次第に「女性の働き方」という話題にシフト。
竹中さん「メディアが描く女性の生き方として、仕事を辞めて子どもを産んで育てるか、いわゆるバリキャリとして強く折れずに働くか、その二択だと感じていました。それはShe isを立ち上げる時に、自分が肌で感じてきた違和感です。最近は緩和されてきたと思いますが、今も根強く残っていると思います。忙しく働いていた20代後半では、仕事が面白かっただけに、私の人生で出産は無理なのでは、と思っていました」。
出版業界は女性が多いにも関わらず、深夜残業など厳しい労働環境も現実。佐藤さんは出産時に、業界の問題を痛感したと話します。
佐藤さん「雇用する場合は労働環境の対策は万全にしたいと考えているものの、私自身はタフな働き方をして、負けじとやってしまう部分があります。出産した時にも分娩準備室まで仕事を持ち込んでいましたし、出産をまたいで男性の担当者と仕事していました。そして出産後のリテイクの話をしている時に、『1週間ほど休んでいただいて、10日目くらいにリテイク出してもらえたら大丈夫ですよ』と言われたのです。令和でこの認識なのか……と思いながらも、入院中にPCを持ち込み仕事をして、納品してしまう自分もいました。それで男性との差異はなくなるかもしれませんが、続く後輩たちがそれを繰り返してしまうことになりかねません。悪い例です」。
ディスカッションの最後には、3人から視聴者に向けてメッセージが送られました。
佐藤さん「自分の声に、正直に! 松尾さんも竹中さんもリスクをとらずに独立しない選択肢もある中で、リスクをとって独立していると思いますし、私もそうです。人に色々迷惑をかけながらも、自分に嘘をつかないことで、ここまで歩んでこれました。もっと、ワガママに、自分の声を聴いて抗わずに進む。萎縮せず発散することが、みんなできれば良いのにと思います」。
竹中さん「一つの生き方に括られず、小さな声に耳をすます。女性起業家やリーダーという言葉に固定観念があると思うのですが、その中でも色んな生き方があり、視聴者のみなさんも含めてこうじゃないといけない、という生き方は無いと思っています。一人ひとりがさまざまな声を持っていることに、引き続き耳をすませていきたいです」。
松尾さん「メディアは『女性』の声をまだまだ聴ける。今日のテーマが『メディアは女性の生き方を変えられるか』だったのですが、私も、佐藤さんも、竹中さんも変えようとは思っていないと思っています。それよりも、メディアは声を聴くことが大切なのでは、と思います」。
■違和感を無視しない働き方
働く女性の心にグサグサ刺さるディスカッションを繰り広げてくれた、松尾さん、竹中さん、佐藤さん。答えははっきりしなくとも、違和感を無視しないことが大切ということを教えてくれました。
働き方が多様化する今の時代だからこそ、自分なりの働きやすい方法を一歩ずつ探り、自分の心に従って行動することが、もっと女性が生きやすくなる世の中を実現する鍵なのかもしれません。
(撮影・取材・文:小浜みゆ)