「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」

そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。

彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。

男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。

でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。

▶前回:彼女が、車の助手席で缶ビールを飲み始めて…。男がドン引いた、ドライブ中の28歳女のある行為




Vol.13 愛莉、29歳。結婚前の同棲はアウト?


「ねぇ、もう寝るの?」

私は、ベッドに横たわる彼氏の透の体を強めに揺らす。

「愛莉〜、悪いけど明日も仕事だし、疲れてるんだよ」

「……」

私は無言でにらみ、透にプレッシャーをかけた。それでも体勢を変えないので、さらに追い打ちをかける。

「でも、今日したいの」

しかし、透は寝たふりをするだけだった。

「じゃあ、週末にしよう。だから、おやすみ!」
「わかったよ、おやすみ…」

― 週末もどうせ疲れたって言うくせに。

私がこんなふうに、夜を断られるのは6回目だ。

最初はもう少し可愛く誘っていたが、あまりにも素っ気なく断られるのでストレートに言うようになってしまった。

― やっぱり結婚前の同棲はダメだったか…。

私たちは、付き合って2年。同棲を始めたのは、半年前からだ。

透は輸入業と仮想通貨で生計を立てていて、年収は4,000万円。

それが目当てというわけではないが、Webデザイナーの私は結婚を見据えて、正社員からフリーランスに転向した。

自分が安定的に稼がなくても、透がいればなんとかなる。それは、とても心強かった。

ふたりともゲームとアニメが好きで、インドア。趣味も合うし、甘めのカレーやハンバーグといった子どもっぽい食べ物が好物なところも似ていた。

夜の関係が月イチ程度しかないことを除けば、最高のパートナーだ。

付き合いたての頃は、回数もそれなりにあったし、透から求めてくれていた。しかし、今は、私から誘わないと無い。

「次、透が誘ってきても、そのときは私、断るからね!」

私はわざと聞こえるように耳元で言うと、YouTubeでゲーム実況を見ながら、寝落ちしてしまった。


「え!月に1回?少なっ?それ、もう完全にレスじゃん。ヤバイね」

会社員時代によく行っていた、丸の内のカフェ。

辞めた会社の同期でも特に仲ががよかった加奈をランチに誘ったのはいいが、彼女の一番の特徴を忘れていた。

それは、歯に衣着せぬ性格だということだ。




私は、今朝から食欲がなくサラダと自家製パンの軽いセットにしたのに、山盛りのレタスは一向に減らない。

「だよねぇ〜。家でラフな格好ばっかりだからかなぁ。寝るときもTシャツとかだし。ァハハ」

加奈の意見に驚くのも癪に障るので、バカっぽく笑って同意することにした。

すると、彼女は、オムライスをスプーンですくってから言う。

「んー。でも、容姿とかの問題じゃないって言わない?愛莉、太ったわけでもないし。単に慣れとか飽きだと思うけど。それか…」

加奈はスプーンを口に運んだ。

「それか…?」

私の胸が、ドクンと嫌な音を立てる。

「透くん、ほかに女がいるとか?…まぁ、それはないか」

― 透が、浮気……?




あはは、と笑いながらアイスティーを飲む加奈は、なんだか楽しそうだ。

所詮は他人のゴシップ。真剣に悩んでくれるわけなどないが、なんだか切なくなる。

私は、ほんの少しパンをちぎって口に入れたが、味がしなかった。

「透、私と同じでずっと家にいるし、夜も飲みに行かないから。それはないと思うわ」

そう言ったものの、自信はなかった。四六時中、一緒にいるわけじゃないし、現に今こうして離れているのだから。

不安と嫌な妄想が、頭の中を埋め尽くす。

「じゃあね、愛莉。余計なこと言っていたらごめん!でも気にしないで。ふたりのことは、ふたりにしかわからないから」
「うん、加奈ありがとう」

仕事に戻る加奈を見送り、私は、急いで透がいる家に帰った。この不安を1秒でも早く払拭したかったのだ。

しかし…。




「ただいま。あれ?いないの?」

透は家にいなかった。特に予定を聞いていなかったのだが、出かけるとも言っていない。

昔から加奈の勘はよく当たる。だから、怖かった。もし、本当に透が浮気をしていたらと。

― やっぱり、そういうことなの…?

私は、透が他の女といるところを想像し、今にも感情が爆発しそうになっていた。



「ふ〜。外、暑すぎ」

透が帰ってきたのは、すっかり日が暮れた後だ。

「うわっ!ビックリした。部屋暗いからいないのかと思った」

リビングの床でうずくまる私を見て、透が言った。

「……ざけんな」

自分でもびっくりするくらい低い声が出た。透は、目を丸くして突っ立っている。

「ふざけんな!って、言ってんの。透、浮気してるんでしょ!加奈が女と歩いてるの見たって」

私はカマをかけた。もし、黒ならば透は慌てて弁解するだろう。それを期待した。

「は?なにそれ。なんでそんな嘘つくの」

― まずい…。失敗した。

でも、もう引けなかった。今日は違ったかもしれないが、ほかに女がいる可能性は高い。

そうでなくても、透はレスっている側なのだ。責められて当然だろう。

「透、ほかに女いるよね!だから、私と寝ないんだよね?違う?」
「は?なんだよそれ」
「じゃあなんで、最近は触ってもくれないの?もう女として見てないってこと?こんなんじゃ、結婚する前に終了ですね!!」

怒りのあまり、変な敬語になってしまった。

― 違うって言って。早く否定してよ。

でも、透から聞かされたのは、もっと悲しい言葉だった。


愛莉を抱けなかった理由〜透の場合〜


「愛莉、それ以上言うのやめて。ますます女として見られなくなる」
「何よ、それ。ふざけんな!」

愛莉の顔は、こわばっていて可愛くない。出会った頃の彼女の初々しい表情を、俺はもう忘れてしまった。

「その言葉遣いもやめて。頼むから」

愛莉は興奮していて、手がつけられなくなっている。恐らく、友達か誰かに煽られたのだろう。

ゲームをしているときも、調子がよくないと、時々口が悪くなるが、それよりもひどかった。




俺は冷蔵庫から水を取り出し、愛莉に手渡す。

「透、私たち、最後いつだったか覚えてる?」

― 覚えてるよ。1ヶ月前だ。

その時は、愛莉にお願いされてなんとかできた。でも、今は…できない。

「今夜なかったら、別れる。もう無理!」

愛莉はそう言いながら、飲み終わった水のペットボトルを乱暴に投げた。

「…申し訳ないけど、愛莉にいくらお願いされてもできないものはできない。男の体はそういうものなんだよ」

愛莉とは食事会で出会い、共通点が多いことから意気投合し、すぐに付き合った。

見た目も可愛くてタイプだったし、男にしかわからないようなゲームやアニメの話もできて楽しかった。




もちろん、最初は頻繁にベッドを共にしていたし、女として見ていた。

しかし、付き合いが長くなるにつれ、どんどん友達のような関係に。

サバサバした態度や口調もそうだが、同棲するようになって、けんかも増える。

それが原因で、愛おしい、守りたい、触りたいという気持ちが薄れてしまったのだ。

「引き止めないんだ?本当ひどい男だね。やっぱり、他に女がいるんじゃん…」

― 違うって…。

本当の理由を言いたいが、そうしたところで付き合いたてのような関係に戻れるとは思えなかった。

結婚したら、同じようなことで悩むことも出てくるだろう。

でも、もう少し可愛げのある言い方で言ってくれたり、何も言わず待ってくれたりしたら、男はまた女性として関心を持てる。

「他に女なんていないけど。でも、どう思っていてもいいよ。愛莉が別れたいなら別れよう」

そういうと、愛莉は泣き出してしまった。

俺は、彼女が別れを切り出してくれるのを、待っていたのかもしれない。自分のことをずるいと思いながら、最後に愛莉の背中を優しくさすった。

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何をしても「リアクションが薄い女」の悲劇