恋に落ちると、理性や常識を失ってしまう。

盲目状態になると、人はときに信じられない行動に出てしまうものなのだ。

だからあなたもどうか、引っ掛かることのないように…。

恋に狂った彼らのトラップに。

▶前回:不倫を疑った男が、妻を尾行してみてしまった衝撃の光景とは




良太「これまで、いろんな相手と不倫を繰り返してきたけど…」


「ねえ良太。これ、どういうこと?」

ある木曜の夜。風呂からあがると、妻の美紀子が僕のスマホを持って立っていた。

そこには不倫相手の佐知から届いた、ハートいっぱいのLINEが表示されている。

― しまった…!

今日、佐知と会う前にオンにしたLINEの通知。それをオフに切り替えようとして、すっかり忘れていたのだ。これまでいろんな相手と不倫を繰り返してきたが、こんなミスは初めてだった。

「『今日は良かった♡』とか『次はどこのホテルにする?』とか。ほんと最低すぎる」

そう言って妻は、すごい剣幕でスマホを投げつけてきた。それが僕のお腹に命中し、腰に巻いていたタオルがはだける。

「いてっ」

「今すぐその女に電話しなさいよ!」

「いや、さすがに今すぐは。あの子が起きちゃうかもしれないし」

僕はしどろもどろになりながら、寝室で眠っている3歳の娘へと視線を移す。

「私が子育ても、仕事も頑張ってるのに。不倫してたなんて許さないから」

美紀子は育休を経て2年前に職場復帰した、大手美容会社の広報部長。子育てと仕事を両立する女性のロールモデルとして、たびたび雑誌にも取り上げられている。

それなのに僕は、育児も家事もすべて妻に任せきりだった。もちろん、娘が生まれてからは夫婦の営みも一切ない。

そんなとき、僕の前に佐知が現れたのだ。美紀子とは真逆のおっとりしたタイプの彼女に、僕はどうしようもなく惹かれてしまったのだった。

「1回だけなんだ!もう絶対しないから、離婚だけは…」

僕は全裸のまま、必死に土下座する。しばらくすると、美紀子が小さくため息をついた。

「わかった、考え直してあげてもいいわ。…ただし条件がある」


美紀子が不倫夫につきつけた、ある条件とは…?


『ごめん、妻に不倫がバレた。で、佐知と一緒に謝罪しろって言ってて…。今週の日曜日、妻に会ってくれないかな?』

翌日のランチタイム。僕は何度電話しても繋がらない佐知に、長文LINEを打っていた。

僕たちが出会ったのは、1ヶ月ほど前の仕事帰りのこと。飯田橋駅で、彼女が落とした書類を拾ってあげたのが始まりだった。

佐知は僕を見るなり「お礼がしたい」と言ってきて、仕方なく連絡先を交換したのだ。

その数日後、2人きりで食事することになり、酒に酔った彼女が僕の肩にもたれかかってきた。…正直言って彼女は僕のタイプで、魔が差してしまったのである。

佐知の方にも、結婚して1年になる夫がいるらしい。つまり僕たちはW不倫。だから関係を持ったのも、まだ1回だけだ。

― これは、まずいことになった。もしかして佐知の方も夫にバレたのか?

もう一度、彼女に電話をかけてみる。でもやっぱり繋がらず、LINEも未読のままだ。

焦った僕は、スマホで『不倫 修羅場』と検索してみた。検索結果には様々な夫婦の修羅場エピソードが並んでいる。

「皆、同じような経験をしているんだなあ」と安心しながら画面をスクロールしていると、あるサイトが目に留まった。




「…簡単代行サービス?」

クリックしてみると『あなたの悩みに寄り添います!』という明るいキャッチフレーズとともに、スーツ姿の女性が微笑んでいる。

それは様々な代行サービスを提供している会社だった。家事代行に退職代行、墓参り代行サービスまである。その中に、謝罪代行という項目を見つけた。

『不倫の修羅場にも対応』との脚注つき。どうやら、不倫相手のフリをして一緒に謝罪してくれる人を手配することができるらしい。

― なんだか、うさんくさいサイトだな。

14時から会議が入っていた僕は、頭を抱えたままオフィスへと戻った。




その日の夜。不倫発覚から1日経っても、美紀子は口をきいてくれない。娘が寝静まった後、リビングでくつろいでいる妻に、僕は恐る恐る声をかけた。

「あのさ…。日曜日のことなんだけど」

「あぁ。不倫相手にも、ちゃんと事情を話した?」

「それが、来れないかもしれないんだ。お互い連絡先を消して、金輪際会うこともないだろうし…」

「ダメよ」

僕の声を遮るように、美紀子が棘のある声で言った。

「あなたのこと、信用してないもの。もし誠意を見せられないってことだったら…。もう別れましょう」

呆然と立ち尽くす僕を残して、彼女は寝室へと消えていった。スマホを見てみるが、佐知とのLINEに既読はついていない。

「こうなったら、最後の手段を使うしかないか…」

僕は昼間に見た、簡単代行サービスのホームページを開く。『24時間受付中!』と点滅している番号へ、電話をかけることにしたのだった。


『不倫謝罪代行サービス』を頼んだ男だったが…


「お問い合わせありがとうございます。簡単代行サービスでございます」

3回の呼び出し音の後、女性のオペレーターへと電話が繋がった。

僕はトイレに駆け込むと「不倫謝罪の代行サービスを利用したいんですが…」と声を潜める。

「ご希望のお日にちと時間帯、それから状況をお伺いできますか」

機械的なオペレーターの声に安心しながら、経緯を説明する。彼女は淡々と「かしこまりました」と言いながら、キーボードを打っていた。

「注意事項です。最近、奥様がレンタル不倫相手に水をかけるなど、危害を加えるケースが多発しております。そのため弊社よりスタッフを2名ほど派遣し、万が一に備えて別の席で様子を見守る形になります」

「わかりました」

「それでは、日曜日の14時で承りました。当日手配するレンタル不倫相手は佐知さん役、関係は1回のみ。30歳ということで、お間違いないですね?」

「はい。よろしくお願いします」

最後まで機械的なトーンで話し続けた女性オペレーターとの電話を切り、僕はホッとため息をついた。

料金は15万円。これで美紀子との関係が修復できるなら、安いものだと思った。




そして迎えた、日曜の14時。僕は自宅近くの喫茶店で、美紀子とともに“佐知役の女性”の到着を待っていた。

「お待たせして、すみません…」

彼女は花柄のワンピースに身を包み、目の下に大きなクマを作って現れた。そして僕と美紀子を交互に見るなり、目に涙を浮かべながら頭を下げる。

「この度は本当に、申し訳ございませんでした」

その姿に一瞬驚いた様子の美紀子だったが、取り乱すことなく話し合いを進め、10分足らずで店を出るよう促したのだった。

― 思ったよりも、スムーズにいったな。

“佐知役”の演技力に内心感激しながら、神妙な面持ちで2杯目のコーヒーを飲もうとしていた、そのとき。

「あなた、嘘ついてるでしょ?」

そう言って美紀子は、僕の前に3枚の写真を差し出してきた。

1枚目は、佐知が僕の肩にもたれかかっている写真。2枚目は、彼女と手を繋いで道玄坂を上っている写真。そして3枚目には、ホテルに入っていく2人の姿が写っていた。

「さっきの女、別人でしょう。一体、何人の女と不倫してるの?」

「ちょっ、ちょっと待って!トイレから戻ってきたら話すから…」




美紀子「夫は、私が掛けた罠にまんまとハマりました」


― うまくいったわ。

言葉を失い、お手洗いに立った夫・良太の背中を見つめながら、私はニヤリと笑った。そして、ある番号へと電話をかける。

「お問い合わせありがとうございます。簡単代行サービスでございます」

「会員番号6355の中村です」

そうして「担当者にお繋ぎします」という声とともに、軽快な保留音が流れる。

「お電話代わりました。不倫代行サービス担当の葛城です」

「あぁ、葛城さん。マニュアル通りうまくいきまして、無事、慰謝料請求の手続きに入れそうです。写真の証拠もバッチリありますし、これでやっと離婚できます」

「そうですか。お役に立てて何よりです」

「レンタル不倫相手の佐知さんにも、よろしくお伝えください。歴代の不倫相手を、すべて集約したような女性だったと。…夫はまんまとハマりましたわ」

▶前回:夫がソファの下で見つけた、動かぬ証拠。妻に浮気を問い詰めると、予想もしなかった“暴露”を始め…

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