年収“8ケタ”(1,000万円以上)を稼ぐ女性たち。

給与所得者に限っていえば、年収8ケタを超える女性の給与所得者は1%ほど。(「令和2年分 民間給与実態統計調査」より)

彼女たちは仕事で大きなプレッシャーと戦いながらも、超高年収を稼ぐために努力を欠かすことはない。

だが、彼女たちもまた“女性としての悩み”を抱えながら、日々の生活を送っているのだ。

稼ぐ強さを持つ女性ゆえの悩みを、紐解いていこう――。

▶前回:年収1,000万・製薬会社勤務の28歳女。決意して結婚相談所に入会するが、相談員の男に思わず…?




File4. 直美、年収2,000万円。羨望を集める優雅な暮らし


― さて、今日もインスタのストーリーにアップしようっと!

『今日もレッスンです♡hal okadaのケーキをご用意してお待ちしております。#flowers #flowerarrangement #halokada』

直美は自分のフラワーアレンジメント作品や趣味のジュエリーコレクションを、日々Instagramのフィードやストーリーにアップしている。

センスのよいお花やジュエリー。そして、玄関で自撮りするハイブランドに身を包んだファッション。

このような投稿が並ぶ直美のInstagramのフォロワーは、いつの間にか1万人を超えていた。

投稿するたびに『本当に素敵です!』『直美さんのセンスに憧れます』といったコメントが数多く寄せられるのだ。

もちろん、直美に「素敵と言われたい!思われたい!」という承認欲求がないと言えばウソになる。

しかし、Instagramの内容にうそ偽りはなく、直美のありのままの生活を載せているだけ。何も恥じることはない。

― はーぁ、幸せ。私はもう何も言うことないわ…。

直美は毎日Instagramに投稿して、賞賛のコメントを読んでは充実感を得ていたのだった。


自画自賛してしまうほど、優雅なセレブ生活を送る直美だが…


今年で34歳になる直美は、5年前に結婚した。

結婚を機に、それまでバックオフィスとして勤めていた銀行を退職。夫となった10歳上の博人は、結婚前から不動産業をはじめ幅広い事業を手掛けていた。

多忙な博人は、家のことに割く時間はまったくない。そのため、直美は結婚後に広尾のマンションに居を構えて、専業主婦として夫を全面的にサポートすることにした。

そして、結婚の翌年には山王病院で長男の優斗を出産。

昼は優斗を習い事や児童館に通わせて育児に励む日々。こうして妻として母として、幸せな毎日を送っていた。



直美の生活が変化したのは、優斗が幼稚園に入園した頃だった。

― 少し時間ができるし、家事に影響がない範囲で何か仕事を始めようかな。

優斗の幼稚園入園で時間に余裕ができたのをきっかけに、独身時代にディプロマを取得していたフラワーアレンジメントのプライベートサロンをオープンした。

自宅で主宰する習い事サロンは、世の中に数多くある。それだけ、競争相手も多い。

しかし、サロンに来る人が期待するのは主宰者のアレンジメント技術だけではない。むしろ、主宰者の華やかさや社交といったものが人気を左右する。

そして、それは“お金をかけられる財力”があってこそ、初めて成り立つのだ。

その意味では、直美はまさに自宅で主宰するサロンを成功させる、“夫の財力”といった強い基盤がある。

おかげで、豪華な花材はもちろんのこと、レッスン後のケーキやティーカップ、テーブルコーディネートなどにもこだわることができた。

こうして直美のレッスンはあっという間に、予約が取れない大人気フラワーレッスンとして好評を博すようになっていったのだった。




最初はフラワーレッスンのみでスタートした直美のビジネス。

そこから派生して、フラワーアレンジメントを外販する事業や、ジュエリーやファッションデザインなどを手掛けるようになる。

こうして、直美のライフスタイルそのものがビジネスになっていき、気がつけば自分の事業だけで年収は2,000万円を超えていた。

― 私のセンスであっという間に稼いじゃった。2,000万円を稼ぐのって、意外に簡単なのね。

直美と博人の収入と合わせると、世帯年収は5,000万円を超えるようになり、欲しいと思うものは手に入れられるようになった。

― 事業を幅広く手掛ける博人と、自宅でのプライベートサロンを主宰する優雅な私。まるで、主婦向けのファッション雑誌にでも出てくるようだわ。

自画自賛と言われようとも、絵に描いたようなセレブな生活に満足しきっていた直美。

しかし、ある日の出来事を境に、そんな悦に入る生活に暗雲が垂れ込めるようになっていった。


順風満帆な生活に垂れ込める暗雲とは一体…?


賞賛のコメントばかりだった直美のInstagramが、ある日を境に嫌がらせのコメントが投稿されるようになる。

『お金持ちでいいですね〜!でも直美さん、ヒマそうですね。どうせなら人に役に立つことでもしたらどうですか?(笑)』
『そうやって優雅な自分を気取って自慢ばかりして、何が楽しいんですか?』

直美のInstagramに投稿されるコメントは、何度削除しても書き込まれた。

― 一体、何なのよ!本当に余計なお世話。こんなの嫉妬だから、気にしちゃいけないわ。

直美は何度もこう思おうとした。後日、あるコメントを見た直美は、心臓がドキンと鳴った。

『直美さん、幼稚園でもいつもフレアスカートにハイヒール履いていますが、場をわきまえていないですね。もしかして他のパパさん目当てですか?(笑)』

『いつも園でボスママ気取っていますが、“我が強くて面倒くさい人”って思われていること、ご存じないんですか?』

徐々にエスカレートしていく嫌がらせのコメント。そしてそれらのコメントの内容は、子どもの幼稚園や住んでいるエリアに精通し、直美の行動をつぶさに把握しているものだった。

― えっ…。もしかして嫌がらせコメントをしているのは、私が知っている人なの?

そのとき、直美はピンときた。

コメントが投稿された時期と内容から、コメント主はママ友LINEグループにいる友香子しか思いつかなかった。




友香子は、大手通信会社に勤める夫の転勤で、3月に東京に引っ越してきたばかり。今は近くの社宅に住んでいると言っていた。

ずっと西日本の地方都市に住んでいたそうで洒落っ気はなかったが、朗らかな女性で、直美は友香子に好感を持っていた。

― 友香子さんが、まさかこんなことをするなんて…。

しかし、オシャレにも興味がなさそうな友香子は、ママ友グループにいてもどこか1人浮いているのも確かだった。

そんな彼女は、知らず知らずのうちに疎外感を感じていたのかもしれないし、そして何より証拠があるわけではないのに友香子を疑うわけにもいかない。

直美は、こんなことをに相談するのは気が引けるなと思いつつも、博人に一連の出来事を相談した。



博人は直美の悩みに一定の理解を示してくれたものの、アドバイスは手厳しいものだった。

「なぁ、直美の生活は直美だけのものじゃないんだぞ。俺や優斗の生活でもあるんだ。そういうことを考えないでインスタに色々と投稿するのは、さすがに迂闊だったんじゃないのか?」
「……」

行動の軽率さを率直に指摘する博人の言葉に、直美は返す言葉がなかった。

直美の年収は2,000万円を超えており、それだけでも世帯年収の上位2%以内に入る。

そして、博人の年収と合わせれば世帯年収は5,000万円。これだけの金額があれば、色々な贅沢を楽しむことができる。

広尾に住み、このような優雅で欲しいものを自由に買える生活が、そこまで珍しいと直美は思いもしなかった。

「お前、どこかで『自分は憧れられている』って思っていたんじゃないのか?悦に入るのは勝手だけど、嫉妬なんて買っても何一ついいことはない。

今まで何も言わなかったけれど、幸せアピールもほどほどにしろよ。世の中には色んな人がいて、いつ誰にどう思われるかわからないんだぞ。もう少し、賢くなれよ」

博人の言葉は何一つ間違っていない。世の中には色んな人がいる…そのことを理解せずに生きるのは、自ら落とし穴に入るようなものなのだ。

― 年収8ケタ稼ぐ女にもかかわらず、今までの私は迂闊そのものだったんだわ。これからは、もっと賢く生きないと…。

直美は今までの自分を恥じつつ、こう決意を新たにしたのだった。

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