アイドルの熱愛スクープ。“匂わせ”インスタで、ハイスペ婚約者を略奪されたことを察した女は…
―…私はあんたより上よ。
東京の女たちは、マウントしつづける。
どんなに「人と比べない」「自分らしく」が大切だと言われても。
たがが外れた女たちの、マウンティング地獄。
とくとご覧あれ。
◆これまでのあらすじ
真帆に薬物依存というデマを流された凜香は、真帆から婚約者を奪い取ろうと、婚約者・大志にアプローチ。大志はすぐに凜香にぞっこんになった。そして、何も知らない真帆は、凜香のデート現場を週刊誌に売り…。
真帆:「うそでしょ…」
ネットニュースになっている記事を喜々としてタップした私は、すぐにフリーズしてしまった。
凜香が、スーツ姿の男性に腕を絡めている。そこまでは想定内。というか、私が売った話だ。
問題は見出し。
『アイドル・凜香、名古屋の御曹司と真剣交際か!?』
男性の目線は黒く塗りつぶされているが、中肉中背な体形にTHOM BROWNEのスーツ。
にっと笑ったときに見える左の八重歯と、小さな笑窪…。
目元が黒塗りにされている男性は、間違いなく私の婚約者・大志だった。
凜香を陥れるために、彼女のデート現場をパパラッチさせたのに…。
そのパパラッチで、私の婚約者が彼女に寝とられたことを知ったのだ。
あまりの衝撃に、怒りという感情が湧き上がってくるまで、相当な時間を要してしまった。
自分の婚約者が凜香と浮気していると知った真帆。真帆は祈るような気持ちで…
ここ最近、大志からの連絡や束縛がなくなったことにも、ようやく合点がいった。もう彼の興味は、私から凜香に移っていたのだ。
焦りが、じわじわと身体中を浸食していった。
― 私の人生プランが…。
もうすぐ私も28歳。
彼以上の条件をそろえた男性が私にぞっこんになる可能性に賭け、また1から活動するなんて…気が遠くなる。
いや、気が遠くなるだけなら、まだよい。
もし、そんな人に出会えなかったら…。好きになってもらえなかったら…。
これからも、チマチマと働き続ける気なんて毛頭ない。私は手っ取り早く優雅な専業主婦になりたいのだ。
自分の今後の人生設計が、パーになってしまう。そんな可能性があるということが脳裏によぎると、凜香に怒っている暇なんてなかった。
「はやく、出てよ…」
すぐさま大志へと電話をかけた。
慣れた手順なはずなのに、簡単な作業のはずなのに、何度もスマホを落っことした。コメディーのようなその仕草に、どれだけ自分が動揺しているか思い知らされる。
ついこの前までは、大志からの大量の不在着信にうんざりしていたというのに、立場はすっかり逆転。
今度は私が、大志に大量の不在着信を残す側へとなっている。
― 出ない…。何してるの…。
今なら、大志の気持ちがわかる。
私の計画を狂わせないで、お願い───。
自分勝手なことは重々承知の上だけど、それでもやっぱり、私の幸せを死守するためには彼が必要なのだ。
私は無意識のうちにベッドに正座しながら、すがるような気持ちで、何度も大志に電話を繰り返し…。
そして、大志はようやく電話に出た。
「もしもし、大志?ねぇ!!どういうこと!!!」
実際、大志が浮気していようがいまいが、どうでもいい。私とちゃんと結婚してくれさえすれば、何でもいい。
どうか、『真剣交際』という言葉は嘘であってほしい。
ごめん、魔が差した。そう言ってくれれば、すぐに許す。
だから、お願い。
大志…。
祈るような気持ちで、大志からの言葉を待つ。
「…」
けれど、気まずい沈黙が私を包むだけ。
「…大志?」
「…」
「あの記事、嘘だよね…?真剣交際って嘘だよね?ちょっと遊んじゃっただけだよね…?」
「…」
私の問いかけに、何も言葉を発さない。
他人のことだったら、すぐにこの状況から事態を察するだろう。けれど、いざ自分のことになると、わずかな可能性に賭けてしまう。
「大志…」
そして、しばらくの沈黙ののち、彼はたった一言こう言っただけだった。
「ごめん…」
大志の気持ちを知ってしまった真帆。自分の人生プランを死守したい彼女は…
大志は、一方的に電話を切った。
どれほどスマホを耳につけたままフリーズしていたのだろう。ツーツーという音が、耳にこびりついて離れない。
その無機質な音を聞きながら、私は必死に考えた。
どうしたら、大志は戻ってきてくれるだろうか。どうしたら、私の人生プランを壊さずにいられるだろうか。
凜香に直接言っても無駄なことはわかっている。けれど、何か手掛かりが欲しくて凜香のSNSを開くと…。
そこには、シャンパングラスが2つ並んだ画像が投稿されていた。
シャンパングラスには、窓から見える夜景が反射している。
何かを匂わせているというか…、私に向けた宣戦布告のようにも思えた。
何を意図しているのか、あれこれと考えを巡らせるほどの体力は私にはもう残っていなかったけれど、彼女の家に大志がいるであろうことは容易に推測できた。
私は、すぐさま彼女の家へと向かった。
凜香「さて、これからこの男をどうするか」
「凜香ちゃん、色々と迷惑かけちゃってごめんね…」
「全然、大丈夫だよ」
もじもじと、大志は私に向き直った。
彼が持ってきてくれたワインに口を付け、私は考えていた。
この男、案外悪くない。
私のことをちゃんと大切にしてくれるし、私が思っていた以上に財力があるようだ。
何より、真帆から大切なものを奪える。
「それでね、凜香ちゃん…」
真帆と別れるから、ちゃんと付き合ってほしい。そう言おうとしているのだろう、この男は。
さて、どうしようか。
まぁ、結婚するかどうかの判断はまだ後でいい。とりあえず、真帆から大切なものを奪うためにも、とりあえずはOKしておこうか。
そう決め、彼からの言葉を待っていた次の瞬間──。
インターホンが鳴った。
「あっ…」
大志の顔がどんどん青ざめていく。
モニター画面に映るのは、真帆だった。
何かを決意したような真帆の表情に、大志はどんどんと挙動不審になっていく。
― 意気地なしね…。
私はそんな彼のことなんてお構いなしに、無言でエントランスのオートロックを解錠した。
「え、凜香ちゃん…。何で…」
おどおどしながら、大志は私にすがるように回答を求める。
「え、何で入れちゃダメなの?」
「え、だって…」
「これからの話しをするんだったら、3人の方が手っ取り早くない?」
「え…。あ…、でも…」
歯切れの悪さに、徐々に苛立ちがつのる。
大志からの言葉を待つ間に、真帆は玄関に到着した。
ピンポーンとチャイムが部屋中に響き渡る。聞き慣れた音だけれど、今日は何か決戦の合図のようにも聞こえる。
一瞬にして、部屋に緊張感が走る。
私は大志を置いたまま、無言で玄関へと真帆を迎えに行った。
真帆は、どんな顔をしているだろう。
今度こそ、私の完全勝利なのだ。
鍵を開け、扉を開けた瞬間、立ちすくむ真帆の姿が視界に入った。
「…」
そして、真帆はおもむろに私の部屋に入り、鍵を閉めた。
そして、次の瞬間…。
「ひとの婚約者に手出してんじゃないわよおおおおおお」
真帆は、ものすごい勢いで私に殴りかかってきた。
▶前回:「最近、彼から束縛されなくなった♪」と、夜遊びに励む女。婚約者からの連絡が減った理由は
▶1話目はこちら:清純派のフリをして、オトコ探しに没頭するトップアイドル。目撃した女は、つい…
▶Next:7月3日 日曜更新予定
次回最終回:ついに、真帆と凜香と大志の3人が、修羅場を迎える。その結末は…