「結婚するなら、ハイスペックな男性がいい」

そう考える婚活女子は多い。

だが、苦労してハイスペック男性と付き合えたとしても、それは決してゴールではない。

幸せな結婚をするためには、彼の本性と向き合わなければならないのだ。

これは交際3ヶ月目にして、ハイスペ彼氏がダメ男だと気づいた女たちの物語。

▶前回:「今どのくらい貯金してる?」彼氏の本性が現れた交際3ヶ月目の出来事




Episode 2:芽衣(29歳・会社受付)の場合


マッチングアプリにも、いろいろな種類がある。

もっともオーソドックスなのは、恋人を探すためのもの。なかには「真剣恋活」と謳ったものや、気軽にデート相手を探すことができる、カジュアルなものまでたくさんある。

けれど…私が登録したのは、そのどれでもない。

目的はただひとつ…そう、“婚活”。だから迷うことなく、婚活専用のマッチングアプリを選んだのだ。

というのもアラサーになると、かつての食事会仲間の多くはすでに結婚しているか、安定した交際相手がいる。さらには、職場では自分が最年長という事実も。

かつては、後輩が誘ってくれた食事会に参加したこともある。けれど、男性ではなく女性同士で過剰に気を使い合ってしまい、微妙な空気になってしまったほろ苦い経験をしたのだ。

― 出会いの場って、こんなに疲れるものだったかなあ。私って、もうお呼びじゃないのかも…。でも、そろそろ結婚したい…!

そう思った私は、結婚につながる真剣な出会いを婚活専用のマッチングアプリに求めたのだった。

そこで出会ったのが、和也。

私たちの交際は順調だったけれど、3ヶ月目を迎える頃。私には、どうしても彼に聞かなくてはならない“あること”ができたのだった。


マッチングアプリで出会った和也。問題とは一体…?


私がマッチングアプリを始めてすぐ。

“いいね”をしてくれた人たちの中に、気になる男性を見つけた。それが、私より3歳上、31歳の和也だった。

大手出版社に勤めていて、年間70冊以上の本を読む読書家。性格は穏やかで、交際については『いい人がいればすぐにでも結婚を考えたい』というところにも、好感を持てた。

こちらからも“いいね”を返すと、ほどなくしてマッチングが成立。その日のうちに、彼からメッセージが送られてきた。

和也:芽衣さん、初めまして!僕も読書が趣味で、原田マハさんの作品が特に好きです。『一分間だけ』は、読み始めの数ページで号泣してしまいました。
芽衣:初めまして!メッセージありがとうございます。私も大好きな作家さんです。最近だと『常設展示室』を読みました。

彼と同じ作家が好きだとわかると、メッセージのやり取りはすぐに盛り上がった。

そして、マッチングから1週間後。

和也:このあいだ、同僚に勧めてもらったお店が気になっていて。芽衣さん、よかったら一緒に行きませんか?

やり取りのツールがアプリのダイレクトメッセージからLINEへと変わり、ふたりのあいだに打ち解けた空気が流れるようになると、彼から食事に誘われた。

お店は、恵比寿にある『セルサルサーレ』。

先に到着していた和也は、パーマがかかった黒髪に眼鏡。カットソーの上に、さらりとジャケットを羽織ったオフィスカジュアルな服装がよく似合う素敵な男性だった。

― 写真よりも、ずっとかっこいい…。

どタイプの和也と、美味しい創作料理の数々。ワインの力もあって、終始テンションが上がりっぱなしだ。

「すごく美味しいっ!和也さんって、素敵なお店をご存じなんですね」
「いや、僕というよりは、同僚が詳しいんですよ。あとは、取材でお店に足を運んだりすることも多かったから、それでかな」

言葉を選びながら、丁寧に話すのは仕事柄なのだろう。

「この真鯛、旨味がしっかりと感じられますね。どちらで獲れたものなんですか?」

シェフとの会話も、取材慣れしているからかスムーズで、知りたい情報を引き出すのがうまい。それを、隣で聞いているのも楽しかった。

こんな調子で3回目のデートを終えたあと。彼から真剣にお付き合いしてほしいと告白され、私たちは交際をスタートしたのだった。






デートのレストランは、和也がいつも率先して決めてくれた。

隠れ家フレンチや、リラックスした雰囲気で過ごせるダイニングバー。前日に、どんな気分で、どんなものを食べたいかと聞いてきたかと思えば、毎回的確なチョイスをしてくれる。

マッチングアプリで、こんな素敵な彼氏ができるなんて…!

そんなふうに私は、夢心地でさえあった。

ところが、交際開始から3ヶ月がたとうとしていた頃。

デート中だというのに、やたらとスマホを気にして触るようになった和也に、私は嫌な気持ちを覚えていた。

― 仕事なのかもしれないけど、長時間スマホを使うなら一声かけてくれてもいいのに…。

そう思ったが、私は逆に前から気になっていた“ある質問”を投げかける絶好のチャンスだと考えた。

「私、和也さんが書いた記事を読んでみたいな!何ていうサイトで書いてるんだっけ?」
「…僕の記事なんて、面白くないよ!それに、ガジェット系の媒体だしね」

それでもまだ、和也が書いたものを読んでみたいという気持ちが収まらない私が口を開こうとすると、彼が先にこう付け加えた。

「自分が書いた記事を彼女に読まれるのって、恥ずかしいんだよ。だから、この話はもう終わり!」

いつもは、落ち着きのある口調でゆっくりと話す和也。その彼が、ぴしゃりと言い切ったことに、私は何とも言えない違和感を覚えたのだった。


何かを隠そうとしている和也…。芽衣が感じた違和感の正体は?


その日の帰宅後。

シャワーを浴びてベッドに入った私は、スマホの画面をじっと見つめていた。

和也は、半年前にWEBメディアの編集長に就任したと言っていた。ライターが書いた記事の最終チェックをしたり、自分でもたまに寄稿したりしているらしい。

そこまで言っておいて、媒体名や執筆した記事を隠したがるのはなぜだろう…?

― ちょっとエッチな記事を書いてる…とか?いやいや、それでも別にいいんだけど、何か…引っかかるんだよね。

こういう時の嫌な予感は、ほぼ的中する。それでも、私は検索する指先を止めることができなかった。

彼が勤める出版社名と、その後に『WEBメディア』と検索エンジンに入力すると、10余りの媒体名が出てきた。

そこから『ガジェット系』という言葉を頼りに、2つの媒体に的を絞る。

― あっ!これっぽい!

そう思って開いてみたのは、いかにも男性が好みそうなOA機器やキャンプ・アウトドア用品などがズラリと並ぶ媒体だった。

ただ、画面をスクロールしていっても、どれも隠す理由なんてない記事ばかりなのだ。ますます、頭の中が「?」でいっぱいになる。

すると…3日前に配信された記事の中に、私はとんでもないものを見つけてしまった。




『婚活専用マッチングアプリのリアル!独身・アラサー男が潜入、実録体験記』

― な、何これ…。

不定期に更新されるこの連載は、半年前に始まっていた。

マッチングアプリで出会った相手との結婚…。僕の中では、とても考えられないことだ。だが、もし、こういった出会いの形がこれからのスタンダードになるのだとしたら…』

冒頭から、マッチングアプリに対する不信感がつづられたその記事を読んでいくと、登録してから出会った女性たちとのエピソードが書かれていた。

私たちが出会った3ヶ月前にさかのぼってみると、『会社受付・Mさん』という見出しも見つかった。

『4番目に出会ったのは、Mさん。僕が“いいね”をすると、食い気味に“いいね返し”がきてマッチングした…』

多少脚色されている部分はあるが、デートの場所や会話の内容からして、私とのエピソードに間違いない。会っているときにスマホをいじっていたのは、シチュエーションや話したことをメモしていたのだろうか。

― これ、どういうことっ!あり得ないっ!!何か、自分がモテるみたいな、上から目線なところも気に入らないんだけど…。

すでに深夜2時を過ぎているというのに、激しい怒りがこみ上げてきた。私はベッドから這い出し、すべての記事にじっくりと目を通したのだった。



翌日。

大事な話があると言って和也のことを呼び出すと、冷めた口調で問い詰めた。

「これを書いてるのって、和也さん?」

スマホ画面に例の記事を表示させて、彼に見せる。

「いや、え、ちがっ…うよ」

明らかに動揺している和也に向かって、もう1度聞く。

「違うの?」

すると、少しの沈黙のあと。和也は、深々と頭を下げながら謝罪した。

はじめは、就任したばかりの媒体のアクセス数を上げるために書き始めた連載だったが、今は本気で私と付き合っていると言うのだ。

「ごめん、芽衣ちゃん。本当に申し訳ない!もう君とのことは書かないし、この連載も終わりにするから」

幸いにも記事は匿名で書かれているし、私のことを特定できる確かな要素もない。だけど、真剣に婚活をしていて、素敵な相手と出会えたと喜んでいた私やほかの女性たちにとって、和也の軽率な行動も、この記事も許しがたい事実に変わりない。

私欲のためにマッチングアプリを利用して、人を傷つけた罪は重い。

― そもそもこういうのって、相手に許可を取らずに書いてもいいの?ううん、どっちにしてもやっぱり許せない!

「和也さん、私と別れてください」
「ちょっと待って、僕は本当にっ…」

「私、真剣だったのに…。こんなふうに勝手にふたりのことを晒されてすごく悲しい。だけど、別れた後にこれだけは約束してくれたら、大ごとにするつもりはないから」



数日後。

和也:記事、削除しました。本当にごめんなさい。それからこれ、例の…。

和也からのLINEに添付されていたURLを開くと、最新の記事が出てきた。

そこには、アプリを始めてから70人近くに“いいね”をしたけれど、実際にマッチングしたのは私を含めて4人だけだったこと。

さらに、初めてマッチングした相手からは、メッセージのやり取りの最中にフェードアウトされていたこと。

2人目の相手には、デートの約束をしたものの、待ち合わせ直前にドタキャンされてしまったこと。

3人目の相手とは、デートをしてみるも、数日後に音信不通になってしまったことなど、これまでの記事では触れられていなかった部分が赤裸々につづられていた。

私が彼に突きつけた条件は、すべての記事の削除。

それと、どこか自分に都合よく、美化された記事にイラッとしていた私は、うまくいったことを書くよりも、失敗談のほうが読者は読みたがるんじゃないかというアドバイスまでしたのだった。

実際にその記事を読んで、これだけうまくいかなくてもめげない人もいるんだからと謎に励まされた自分もいる。

それにしても、一番最初に出会ったのが、彼のような人物とは…。

そして、そんな思いを胸に抱えつつも、“結婚”という目標に向かってふたたびマッチングアプリを開く勇ましい私がそこにいた。

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意外な場所での婚活で出会った彼は、“アレ”が下がることを異常に恐れる人だった!?