付き合って1ヶ月の彼氏の部屋で…。男がバスルームにいる間に、女がした最低な行為とは
「お金より愛が大事」と口ではいくら言っていても…
「やっぱり、玉の輿に乗りたい」と思っている女は一定数いる。
大手通信会社で働く“玉の輿”狙いの小春(25)と、“女なんて金でどうにでもなる”と思っている会社経営者・恭介(32)との恋愛攻防戦
▶これまでのあらすじ
男友達の祐馬と付き合うことになった小春は、誕生日ディナーのあと彼の部屋へ行くが、どうしてもキス以上は進めなくて…。
恭介:後悔
恭介は、イタリアンのカウンター席でスマホの画面に集中していた。
「ねぇ、さっきからスマホに夢中だけど、何?仕事のメール?」
佑未が、恭介に尋ねる。
その不機嫌な声から、体感よりも長い間彼女を放っておいてしまったことに気づく。
「甘いものは太るから」とデザートをパスした佑未の手元には、飲み終わった後のコーヒーカップが寂しげに置かれており、見るからに手持ち無沙汰だ。
「ごめん、ちょっとLINEの返信をしてて」
そう言い訳したが、女の勘なのか、相手が誰なのか佑未にはバレてしまっていた。
「まさか、まだあの子と繋がってるの?“彼氏ができたから、もう会うことはない”ってさっき恭介言ってなかった?」
佑未は、冷たく言い放つ。たしかにほんの数十分前、ワインを飲みながらそんな話をしたばかりだ。
「そうなんだけど…今から会いたいって」
恭介が言うと、佑未はすかさず反論する。
「は?何それ。付き合ってみたけど、彼氏はお金ないから、やっぱり恭介がいいってこと?性格悪すぎじゃない。そんな子、やめときなよ」
佑未の顔が強ばり、声もキツくなっていく。
LINEの相手に会いたい恭介だが、仕方なく取った行動とは…
佑未の当たりが強いのは、“私たち結婚したらうまくいくかも”という彼女の提案に黙ってしまったことも影響しているかもしれない、と恭介は思った。
― 女のプライドを傷つけると大変だな…。
佑未と食事に来たこと、そしてうっかり恋愛の話をしてしまったことを恭介は心底悔いた。
佑未の予想通り、LINEの相手は小春だ。今すぐにでも小春のもとに駆けつけたいのに、それができない状況が情けない。
「とにかく、まだ行っちゃだめ。私飲み足りないし、久しぶりなんだから、もう少し付き合ってよね」
「……わかったよ」
気の強い佑未を怒らせると面倒だと恭介は判断し、スマホをテーブルに伏せた。
もう少し一緒にいたいという彼女に根負けして、二軒目に行こうと思ったが、どこも閉店間際だったため、恭介のマンションのラウンジで1杯だけ飲むことにしたのだ。
小春:感情のままに
『小春:急にごめんなさい。今何してますか?』
祐馬を拒絶してしまった小春は、彼の部屋にいながら恭介にLINEを送っていた。
最低な行為をしている自覚はあるのだが、小春は、感情を抑えることができなかった。
『恭介:どうしたの?』
この一言が来た時、どれだけ嬉しかったか、言葉では表すことができなかった。だから、小春は素直な気持ちを伝えた。
『ただ、恭介さんに会いたくて』
そう送ったLINEは、すぐに既読になった。しかし、そこから30分経つが返信はない。
― だよね…。
一方的に突き放しておいて、また会いたいだなんて恭介も呆れるはずだ、と小春は自嘲した。
深くため息をついてから、床に置いた鞄を持ち上げ、祐馬がいるバスルームのドアに向かって声をかける。
「ごめんね、私帰るね。それと…私たち、終わりにしよ」
祐馬からの返事はなく、小春は申し訳なさで胸がはち切れそうになりながら玄関へと向かう。
このまま、朝まで一緒にいられないし、小春が部屋から出るべきだと判断したのだ。
外に出ると、かすかに雨の匂いがして、しばらくするとパラパラと小雨が降ってきた。
小春は、小走りで大通りに出ると、タクシーを止め乗り込む。
「新宿の方へお願いします」
自然と口が行き先を告げていた。
― 今、恭介さんから連絡が来たらいいのに…。
そう願っているのに、小春のスマホは意地悪く無言を貫いている。
新宿駅周辺で降ろしてもらい、あてもなく歩き出す。ふと思いつき、駅から歩いて数分の場所にある、カフェを目指すことにした。
そこは、恭介と初めて会ったカフェだ。
車の好きな恭介の気を引くため、カーレースの動画を視聴していることをSNSにアップしていたら、見事会うことに成功した。
そのあと、ドライブデートして部屋に行って…小春は、恭介と過ごした日々を昨日のことのように思い出していた。
小春が恭介に近づいたきっかけは、経営者でお金を持っていそうだったからだ。
雨の新宿を歩く小春。恭介と会えるのだろうか…
― それなのに…どうして、こんなに好きになってるんだろう?
胸の苦しさと比例するように、雨が強くなる。傘はさしているものの、小春の服が濡れて体温を奪っていく。
カフェまで走るが、店内の明かりは消えているのが見え一気に小春のテンションは下がった。
それもそのはず、もう23時を回っていてカフェはとっくに閉店していたのだ。
「バチが当たったのかな」
小春は力なく笑うと、濡れた前髪から顔に雫が落ちる。
恭介に会うことは諦め駅へ向かって歩いていた、その時だった。
「小春ちゃん!?」
東口の交番の前で、懐かしい声に呼び止められた。小春は、その声の主をまっすぐ見つめた。
「恭介さん…どうしてここに?」
「友達と飲んでて、駅まで送ったところなんだ。ごめんね。すぐに連絡できなくて」
ビニール傘をさした恭介が、小春に駆け寄る。その友達は女性だろうということが、なんとなく小春にはわかってしまう。
でも、もうそんなことを気にする余裕などなかった。小春は、恭介に駆け寄り胸に顔を埋める。
“愛さえあればいい”なんて綺麗ごとは言わないし、この先も言うつもりもない。
幸せな生活を送ることと、お金に余裕があることは切っても切り離せない、と小春は今でも思っている。
でも、稼ぐ能力があるという一面だけで人を好きになれないことに、気づいたのだ。
恭介の、かっこつけない優しさや、時折り見せる不器用さ、そんな人間らしいところに小春は惹かれたのだ。
「恭介さん、私、この1ヶ月他の人と付き合ってたの。でも、自分の気持ちに気づいて、さっき別れようって言ってきました。私…身勝手で、最低ですよね…」
小春の目から、一筋の涙がこぼれる。
「いいよ。もう、何も言わなくていい」
恭介は小春を力強く抱きしめた。そして、ゆっくり体を離すと目を見て優しく言う。
「告白するのが遅くなってごめんね。小春ちゃんのこと、気づいたらすごく好きになってた。俺と付き合ってください」
冷え切っていた小春の身体が、一気に熱を帯びていく。
「私も好きです」
◆
恭介の部屋は、以前来た時と同じように綺麗に片づいてた。
冷えた身体を熱いシャワーで温め、外国の柔軟剤の匂いがするバスタオルに包まれる。バスルームを借りるのは初めてなのに、小春は不思議なほど、居心地の良さを感じていた。
いつもの癖で洗面所に持ち込んだスマホが震え、LINEの新着メッセージが表示される。
『祐馬:幸せになれよ』
胸がギュッと締めつけられ、小春は一瞬呼吸するのを忘れた。
― 祐馬…ごめんね、ありがとう。
「小春?ドライヤーの場所わかる?」
リビングにいる恭介の声が聞こえた。
「うんっ!わかる」
呼び捨てにされた嬉しさと恥ずかしさを全身で受け止めながら答えると、声が変に裏返った。
誰かを好きになるのに、"お金持ちだから"というのは、"かっこいいから"と同じように、ただのキッカケにすぎない。
結局は、それぞれが持つ魅力でしか、惹きつけることができないのだ。
恭介に借りたTシャツを着て、ドキドキしながらリビングへ向かう。
「可愛いね、似合うじゃん。こっちおいで」
「…うん」
東新宿の高層マンションからの夜景は、夢みたいに綺麗で、小春の胸は表現できない感情でいっぱいになった。
その正体は、恐らく好きな人と結ばれた甘酸っぱい満足感が半分。
残りの半分は、この人とならば理想の生活が送れるという期待。
そして、狭くシビアな東京で、今日も幸せを掴むためもがき続けている女たちに対する優越感だ。
「ねぇ、私、恭介さんとずっと一緒に居たい」
小春が恭介の腕に自分の腕を絡めながら言い、頭の中で、どうやって結婚まで持っていくかの構想を練った。
玉の輿に乗れるなら、それに越したことはないのだ。
でも……。
今回、恭介を落とそうと奮闘した結果、自分の感情に振り回され思い通りに行かなかったことを思い出した。
感情に蓋をして頑張りすぎたり、相手の好みに合わせて演じて掴んだ幸せなど偽りだ。
小春はそのことにようやく気づいた。
「俺もだよ。この先もずっと、そばにいてね」
恭介と結婚できるかどうかなんて、小春には全くわからない。だけど不安も不満もなかった。
未来は、今の積み重ねだから。
Fin.
▶前回:「キスより先は無理…」付き合って1ヶ月。女が、彼氏とのスキンシップを未だに拒む理由