「コンタクトが乾いてきたので帰りまーす♡」男がSクラス美女に食らった、衝撃の断り文句
東大出身の、ハイスペック理系男子・紺野優作28歳。
ハイスペック揃いの仲間内で“平均以上”を死守することを至上命題としてきた優作は、そのポジションを維持するため、今、次のステージ「結婚」へと立ち上がることを決意する―。
◆これまでのあらすじ
大手メーカーで人型ロボット研究をする優作は、4年ぶりに栃木から東京へ戻ってきた。
既婚者となったチャラ男・大毅の変貌を目にしたことなども手伝って、優作は既婚者というラベルを手に入れるため、婚活市場へと出向くのだった―。
Part.1 “ノースリーブの女”
―この季節にノースリーブか…。
目の前の女性に、思わず目を奪われる。
ぱさっと羽が舞うかのように脱いだトレンチコートから露になった華奢な二の腕。見つめてしまうのは男の性だが、いささか気温とマッチしない服装に疑問を抱く。
今日は、東京で初の食事会に参戦していた。
“既婚者になる”と決意を固めた僕は、学生時代からの友人の一人・タクミ(総合商社勤務)にまず宣言をし、女性の紹介を頼んだのだ。
タクミは僕に「何かあったのか」との旨の発言を繰り返した。
しかし僕は基本、有言実行の男なのだ。
失敗を恐れて成功するまで目標を公言しない男もいるが、宣言することで自分を追い込む方が性に合っている。学生時代から、“オレ勉強してない”オーラをぶちかましながら、テストで100点を取るような奴は嫌いだった。
「外資系金融の女の子が来るよ」
そう聞いていたので、先日会った大毅の妻・雅子のような女性が現れるかと思いきや、飛び込んできたのはジャスティンビーバーの取り巻きを彷彿とさせるノリの美女たちだったのである。
外資系美女から繰り出される、衝撃の断り文句
「初めまして。リサです」
「どうも。紺野優作です」
ひとまず僕は近くにいたノースリーブの女・リサに焦点を定める。露出は激しめだが、近くで見るともとの顔が濃くて化粧は薄い、意外とナチュラル系の美女だった。
―さて…、何から話し出せばいいのだろう?
僕はリサとの共通点を探してみる。高身長・色白・痩せ型といったところか。その特徴だけ拾うと、似た者同士のような気がするが、明らかに異人種だ。
「リサさん」
とりあえず名前を呼んでみた。女性経験がないわけではないのだと自分に言い聞かせ、ノープランのまま臨む。
すると、ふふっと彼女が微笑んだ。“ジャスティンビーバーの取り巻き”と評したのを撤回したくなるような上品な笑みで。
「あ、ごめんなさい。リサさんって、サ行が続くから言いにくそうだなって。リサちゃんでもいいですよ」
初対面の女性に”ちゃん付け”は若干気が引けるが、相手の要求に応えるべきか。迷っていると、彼女が先に口を開いた。
「優作さんは、お仕事何をされているんですか?」
―なんという奇跡。
僕にロボットを語らせたら沈黙とは無縁だ。水を得た魚のように、僕は語り出す。リサの反応もよく、地頭がいいためか、ナイスな質問を連発するのだ。「いい質問だね」と5,6回は言っただろう。
「よかったら2軒目行きませんか?」
食事会もお開きとなる頃、僕はどこかで聞いたようなセリフをコピーして言ってみる。リサは一瞬、考え込むような仕草を見せた。
「ごめんなさい。…コンタクトが乾いてきたので帰ります♡」
ハートマークをつけたような語尾のあと、ふっと戻り見せた無表情。
僕は静かに白旗をあげる。そのとき頭に、ある曲の歌詞が浮かんだ。
『縦の糸はあなた 横の糸はわたし』
大都会東京。
編み間違えてしまうことは日常茶飯事だろう。僕らは一瞬だけ何かの間違いで交差してしまったが、リサの一言により事なきを得た。そうポジティブに捉えておいた。
◆
「2軒目に誘ってみたけどダメだった。コンタクトが乾いたらしい」
帰り際タクミに戦況を報告すると、聞き間違えを確認するかのように、「コンタクト?」と聞き直してきた。
「そう、コンタクト」
「まあよく分かんないけど、初対面から2軒目は早くないか?」
「そういうもんなのか」
「でもさ、彼女たち、いくら稼いでるんだろうな。オレらと同じくらいだとなかなか難しいよな…」
女性が年収を重視する、ということは僕も理解している。つまり市場を広げるには僕の年収を上げればいい話なのだが、その一番の難点は、僕が取り組みたい人型ロボットが利益を生むのは、まだまだ先ということだ。
―既婚者になるにしても、ロボットは捨てられない…。
「外資系はちょっと強すぎるか。正直、優作がリサちゃんと並んで歩いてるのとか想像できないかも」
「確かにな。最初、ジャスティンビーバーの取り巻きの女たちかと思った」
「‥‥‥‥ん???」
「…。雰囲気を伝えたかったんだ。それはそうと、今日はありがとう。もうちょっとマイルドなときにまた誘ってくれよ」
そう言って僕はまた一人、根津のマンションへと帰るのだった。
敗戦を喫した優作の前に現れる、次なる女とは
金曜日。
僕は連日の残業疲れを癒すために大手町にある『スイーツ&デリ/パレスホテル東京』に向かうと、偶然ショーケースの前で同僚のマイケルと鉢合わせた。
「優作サン、珍しく早いですね」
僕は時計を確認する。19時半。普段は21時過ぎまで会社に残っているが、このスイーツを求めて今日は早めに上がったのだ。
「マイケルは普段通りだね」
僕の会社では、研究職の忙しさはほぼ自分次第。やりたいことは山ほどあるが、会社員として今日確実にこなさなければならないことと考えると、それほど多くはない。よって残業量に各々かなりの差が生まれるのだ。
「週末はどうしますか?」
そう聞かれふと考えこむ。タクミから次なる誘いを待ってはいるが、今週は音沙汰なしだ。
「論文でも読んでるかな」
「Oh, 寂しいですね。日曜日、バーベキューしますよ。よかったら来ますか?息抜き必要です」
そうマイケルに促され、突然僕の日曜日は、リア充独身男のようなスケジュールになった。
Part.2 丸の内“じぇじぇじぇ”系女子
バーベキューは、僕らを合わせても10人ほどの、少人数での開催だという。
マイケルの話によれば、日本語を勉強したい外国人と、日本人のボランティアが交流するイベントで知り合った仲間たちらしい。
そう聞いた僕は、出会いがあるかもしれないなと期待する。
しかし…ここで危惧されることがひとつ。
食事会とは違って、(少なからず)出会いを求めた男女が集まるわけではない。そもそもの目的が違うとなれば、恐ろしく非効率だ。
そんなことを考えながら待ち合わせ場所の新橋駅へ向かうと、すでにマイケルが待っていた。
「優作サン、行きますよ。たまには人間と交流です」
マイケルに連れられて向かった『銭函バーベキュー 銀座店』。そういえばバーベキューで何故新橋、と今更ながら思いはしたが、どうやら屋内で行う海鮮系バーベキューらしい。
先日の食事会に比べ、かなりカジュアルな雰囲気に、やはり、よこしまな気持ちは捨てて、食べることを楽しむ方向に舵を切ろうと思い直す。
僕を誘導すべく前を歩くマイケルが、一行を見つけて手を振った。
180cmの僕よりもさらに背の高いマイケルの横から初対面となる彼らを覗き見る。
完全に偏見だが、ボランティアと聞いて想起される人々の印象と、寸分たがわない穏やかな雰囲気をまとう老若男女に何故かほっとする。
そしてこの場とは真逆の、この間のリサたちとの食事会を思い出し、東京のカオスに思いを巡らせずにはいられないのだ。
「マイケルさーん」
ひょこんと頭を突き出した女性が手招きする。その瞬間、食を楽しむ方へ舵を切り始めていた僕の船は危うく座礁しかけた。
そこに立っていた彼女は、「じぇじぇじぇ」で一世を風靡した、朝ドラ女優に酷似しているではないか。外資系美女よりも恐らく希少であろう、絶滅危惧種をこんな場所で見つけた僕は驚きのあまり氷山にぶつかりかけていた。
田中芽衣子と名乗る彼女は、聞けば丸の内のOLらしい。
思い出されるタクミとの会話。芽衣子は大手企業勤務ではあるが一般職らしいので、年収で僕が劣ることはないだろう。
―灯台下暗しとはこのことか!
僕は、芽衣子に焦点を狙い定めようとしていた。
▶Next:11月4日 月曜更新予定
優作は芽衣子と交際までこぎつけることができるのか―!?
▶明日10月29日(火)は、人気連載『夫の反乱』
夫から溺愛され、好き放題にやってきた美人妻・めぐみ。最近夫の様子がおかしいことに気づき…。夫を大切にすることを忘れた妻の行く末は?続きは、明日の連載をお楽しみに!
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