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明治時代の急須と煎茶碗、それにイギリス製ピューターの小皿を茶托にみたてたコーディネートなんて、どうだろうか。この急須も煎茶碗も、その存在を知ったのは現代に名だたる数寄者たちの著書からである。先人たちの美的感覚から見出され、愛用された数々の骨董品は、骨董に携わる業者の人間たちにとって、憧憬という特別な想いを抱かせる。しかも、市場でなかなか出回らない類の品物を見つけた瞬間の喜びはひと塩である。今回のコラムでは、今なお若い人たちの心に響く、彼らの目の利きどころをご紹介したい。




明治 万古急須
明治 煎茶碗
イギリス製 ピューター小皿


明治の万古急須は、北大路魯山人に抜擢され星岡茶寮支配人となった秦秀雄氏という数寄者の著書からである。執筆された昭和40年代にはもう見つける事が困難と書かれている。まず目につくのはその形のバランス。蓋の段のつき方やつまみの装飾など、日常品であるがゆえにシンプルで簡素な作りが主流となった現代においては、どれほど贅沢なものであるかを思わせる。かといって権威主義的な装飾や色はなく、か弱い土をそのままの姿で急須へと変化させた様は、粋ですらある。入手の経緯は、同業者の知人が蔵の中で埃をかぶった数個を見つけ出し、まさしく掘り出し物が縁あって手元に迷い込んだという話だ。平成も30年になった現代では、まず手に入れる事は困難と思っていた矢先のことである。使い込んでいくと渋みのある茶色は艶を増していく。秦氏の著書の中で見たように、黒々とした味を醸し出してくれる日が来るのが待ち遠しい。

煎茶碗の方は、現在陶芸家として活躍されている内田剛一氏の「BANKO 知られざる萬古焼の世界」という本の中で掲載されていた五客組である。外側はグレーの素地のままで、内側に白化粧が施してある。こんな洒落た配色デザインが、明治時代にあったなんて、と衝撃を受けたのを覚えている。これもまた、そう易々と手に入ることはあるまいと思っていたのだが、文明の利器、インターネットオークションを通じて、偶然見つけ出したのである。ネットでの買い物は、実物をみることとはだいぶ感触が変わるものだが、自分はこの配色に惹かれていたので、サイズも、もっと言えば使い物になるかどうかすら気にならなかった。イギリス製のピューター皿も、ちょうど茶托に使用するのに良いサイズのものを発見した。こちらも経年で内側の白化粧がいい感じに変化をしていく。

いずれもそれほど高価なものではない。しかし、そうそう見つかるものではないのだ。果たして自分も、30年後、50年後と、後世の人々の心に響く品物を見つけ、その美的感覚を憧憬という縄で引き継いでいくことができるだろうか。願わくば、そうありたいと、食後にこの急須と碗でお茶を呑みながら思うのである。



≪ NAVIGATOR プロフィール:坂本大 ≫
1987年生、佐賀県唐津市出身。大学在学中にロンドンへ留学。大学卒業後、現代アートのギャラリー勤務を経て、現在、唐津焼の専門店「一番館」の東京支店にて、好きな焼き物に囲まれながら、GALERIE AZURマネージャーとして勤務している。

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