3対3の食事会に15分も遅刻してきた27歳女。それなのに、気になる男性とイイ雰囲気になれたワケ
20代後半から30代にかけて訪れる、クオーターライフ・クライシス(通称:QLC)。
これは人生について思い悩み、若さだけが手の隙間からこぼれ落ちていくような感覚をおぼえて、焦りを感じる時期のことだ。
ちょうどその世代に該当し、バブルも知らず「失われた30年」と呼ばれる平成に生まれた、27歳の女3人。
結婚や仕事に悩み、揺れ動く彼女たちが見つめる“人生”とは…?
▶︎前回:明治大学卒、年収800万の男。悪くはないけれど、結婚相手としては“妥協”な気がする27歳女は…
揺れ動く気持ちをパワーに変えた女・葵(27)の場合
「綺麗だなぁ…」
少し前まで、赤坂のオフィスから見える夕焼けがあまり好きではなかった。
1日の終わりが近づいてくる切なさと疲れが重なり、胸の奥底がツンと痛くなることが多かったから。
でも最近は、むしろこの時間が好きになってきた。仕事の終わりが見えてくるし、今日1日頑張った自分へのご褒美として、この美しい景色が見られるような気持ちになっている。
それに平日は直帰することが多かったけれど、たとえ週の半ばだとしても飲みに行くことが増えた。
今日も食事の約束がある。ふと気づくと、時計の針は18時を回っていた。
「ヤバッ!どうしても、この仕事は終わらせてから行きたいんだけど…」
ピンク色に染まり始めた赤坂の街並みを見下ろしながら、再度気合を入れてPCへと向かう。
この数ヶ月で、急に仕事が楽しくなった私。それと同時に、実はプライベートも充実し始めていた。
結局、会社を出られたのは約束の5分前。タクシーを拾えたのは19時ちょうどだった。
しかも道が混んでいて、車内でメイクをささっと直しながらも、かなり焦る。冷房の効いた社内から、すぐタクシー乗り込んだはずなのに、もう汗をかいていた。
慌ててアプリで支払いを終え、地下にあるお店へと駆け込む。すると私以外はすでに揃っていた。
「ごめんなさい!ちょっと仕事が長引いちゃって…」
お店に到着できたのは、約束の時間から15分も過ぎた頃。けれども皆、にこやかな笑顔で迎え入れてくれた。
「大丈夫だよ〜!お疲れさま」
「先に飲み始めちゃってるよ」
今日は朱莉さんが主催してくれた、3対3の食事会だった。彼女は会社の元先輩であり、今は別の会社に転職している。
5つ年上だけれど、新人研修でお世話になって以来、たまにこうして素敵な男性たちが集う食事会に呼んでくれるのだ。
「ありがとうございます…!遅くなってすみませんでした」
以前の私だったら、仕事でこういう食事会に遅れるなんてあり得なかった。自分のプライベートな時間を仕事で削るのが、耐えられなかったから。
でも気がつけば、仕事に夢中になっている自分がいる。
― あれ?私って、いつからこんなタイプになったんだろう。
そう思いながら、運ばれてきたビールに口をつけた。
「葵ちゃんは、朱莉の後輩ってこと?」
「はい、そうです!今は営業を担当しているんですけど、以前は違う部署にいて…」
隣に座っていた松島さんという男性に、自分の仕事内容について説明する。すると目の前にいた朱莉さんが、ニヤニヤと笑っていた。
「葵ちゃんが入社してきたとき、どうしようかと思ったのよ。怒られてもケロっとしてるし、淡々と仕事はこなすけど情熱はナシ、みたいな。それなのに今、必死に仕事してるなんて…。成長したね〜!」
一生懸命やるのはカッコ悪い。少し余裕に見せているほうがいいし、必死なんていうのは一番ダサい。そう思っていた。
でもなぜか、今はそう思わない。
むしろ仕事に真摯に向き合って、がむしゃらに働いている自分が愛おしく思えた。
「…私、必死に見えますか?」
「うん。でも私は、今の葵ちゃんのほうが好きだよ。人間らしくて」
仕事を頑張った後に飲むビールは特別な味がする。その美味しさを噛み締めながら、朱莉さんの言葉がじんわりと心に広がっていった。
仕事もプライベートも、諦めない
「葵ちゃん、2軒目行く?」
一次会が終わり、次の店へ移動しようとしたとき。朱莉さんから声を掛けられ、私は大きな声で返事をした。
「はい、行きます!」
すると彼女は、目を丸くして驚いている。
「えっ!?葵ちゃん、二次会行けるの?」
「はい、行きます」
「いつも1軒目で帰るタイプじゃなかったっけ…?」
そう言われて、ふと気がついた。「今夜は2軒目も行こう」と思えたのは、どうしてだろう。
前まで、2軒目以降はお酒に飲まれるだけの無駄な時間だと思っていた。素敵な独身男性がいたら頑張るけれど、つまらない会なら即解散。
もし終電を逃したら、タクシー代ももったいない。出会いのためのコスパを考えると、1軒目解散がベストだ。
でもそういう考え方は、逆にチャンスを逃していることに気がついた。
仕事もそうだけど、プライベートも諦めない。前のめりで進んでいくのも良いのかなと思い始めたのだ。
「葵ちゃん、何かあったの?雰囲気変わったね」
「そうなんですよ〜。もっと欲望に素直になってもいいのかなと思って」
「欲望に?」
「そうです。最近、欲望に忠実なお姉さんと知り合って。『あぁ、清々しくていいな』と思ったんです」
買いたい物は豪快に買い、お酒も自由に飲む。遊びたいときに思いっきり遊んで、後悔のないように生きる。
そんな生き方を間近で見て、私の価値観は大きく変わった。
人生、いつ終わるかわからない。
だから先の見えない将来を案ずるよりも、今を楽しんだほうが、よっぽど人生は豊かなものになる。そう思えるようになったのだ。
「よし、葵ちゃん。今日は飲むよ!」
「はい!飲みましょう〜!」
先ほどまで隣に座っていた松島さんに声を掛けられ、私はニッコリ微笑みながら元気よく返事する。ちなみに彼はすごく素敵な人で、2軒目に行った自分の選択は間違っていなかったと思った。
「葵ちゃん、楽しんでる?」
ハイボールを飲みながらそう尋ねてくる松島さんの言葉に、私は大きくうなずく。
「もちろん!とっても楽しいです」
人生は、有限だ。ちまちまと生きるよりも、自分の欲望にまっすぐに、忠実に。
自分らしく生きていこうと思えたことで、私の毎日は一気に華やかに、そして楽しくなった気がした。
▶︎前回:明治大学卒、年収800万の男。悪くはないけれど、結婚相手としては“妥協”な気がする27歳女は…
▶1話目はこちら:26歳女が、年収700万でも満足できなかったワケ
▶NEXT:7月25日 月曜更新予定
歩き出した女たちが、下した決断とは…