6年交際した彼女との別れを受け入れきれず、コッソリ女を尾行した男。そこで見てしまったモノは…
恋に落ちると、理性や常識を失ってしまう。
盲目状態になると、人はときに信じられない行動に出てしまうものなのだ。
だからあなたもどうか、引っ掛かることのないように…。
恋に狂った彼らのトラップに。
▶前回:クレカの明細を確認したら、夫が月に200万も使い込んでいた。その理由を問い詰めると、まさかの…
朝倉亮太(25)「6年も付き合った彼女に、いきなり別れを告げられて…」
「ねぇ、別れてくれない?」
6年付き合った真由子に突然別れを告げられたのは、彼女が26歳の誕生日を迎える1ヶ月前のことだった。
「…ずっと考えてたの。そろそろ地元に帰ろうかなって。仕事もツラいし」
「仕事がツラいなら、辞めちゃえばいいじゃん」と、つい口にしそうになるのをグッと飲み込む。僕の年収は450万円。彼女を養うには心もとない金額だ。
「それは、俺が頼りないから?…結婚は考えられないかな」
しかし真由子は俯いたまま、こう言ってきた。
「お母さんのそばにいたいの。お父さんが死んでから、ずっと1人ぼっちだし…。長女の私が支えないと」
彼女の目から涙がこぼれ落ちる。僕はただ、その姿を呆然と見つめることしかできなかった。
東京生まれ・東京育ちの僕が、真由子の地元である愛媛へついていくという未来が、想像できなかったのだ。
◆
それから2ヶ月後。真由子は荷物をまとめ、同棲していたマンションを出ていくことになった。
「別れ際まで一緒にいると寂しくなるから、亮太は普通に会社へ行って。私は、昼頃には出ると思う。…いままで、ありがとうね」
僕は目にいっぱいの涙をためたまま、彼女にいつも通り「行ってくる」と言って、駅に向かった。
マンションを出てすぐに、世田谷線の踏切音が聞こえてくる。5年間、真由子と聞き続けてきた音。その瞬間、彼女との思い出が走馬灯のように駆け巡った。
その後なんとか会社まで行ったものの、ずっと上の空。仕事は全く手につかなかった。
― やっぱり、離れたくない。
僕は会社を早退すると、真由子を引き留めるためにタクシーへ飛び乗った。
…彼女と付き合っていた日々を振り返りながら。
別れたばかりの彼女を引き留めようとした亮太が、見てしまったモノ
僕たちが同棲を始めたのは、付き合い始めて1年ほど経った頃。僕が20歳になったばかりのことだった。
真由子が見つけてきた部屋は、世田谷線山下駅の近くにある普通のマンション。広めの1LDKではあるが、大学までは1時間かかるという。
でも、なぜか彼女は「この部屋がいい」の一点張りだった。
「この音がいいの」
「音?」
「そう。世田谷線の、音」
部屋の窓を開けると、世田谷線の踏切音がした。
「この音が、地元を走る電車に似てるんだ」
彼女はそう言って僕に微笑んだ。そんなロマンチックな彼女が、とても愛おしかった。
それから5年。僕たちは社会人になり、真由子は大手のIT企業に、僕は就活に失敗して小さな保険会社に入社。
彼女の給料はうなぎのぼりで、25歳になる頃には年収が700万円を超えていた。一方の僕はやっと450万円を超えたところだ。
真由子は年収が増えてもなお、学生時代から変わらず、家賃13万円のマンションに僕と住み続けていた。
「ここが好きなの」
僕を気遣って、そう言ってくれたのだろう。そう思うと、どうしようもなく切なくなるのだった。
◆
別れを受け入れきれず仕事を早退してタクシーに乗り込んだ僕は、マンション前で降車して部屋に戻った。が、そこに真由子の姿はない。
窓から辺りを見回すと、山下駅へ向かって歩く彼女の姿を見つけた。
「真由子!」
僕は彼女の背中を、全速力で追いかけた。…しかし、次の瞬間。
見知らぬ男が親しげに真由子へ話しかけているところを、目撃してしまったのだ。
郄梨真由子(26)「地元に帰るのは、お母さんのためじゃなくて…」
亮太と出会ったのは、6年前。大学の入学式でのこと。
「サークル、どうですか〜?」
必死に声を張り上げていた私の方を、新入生の男子が振り返って見てくる。その瞬間、私はハッと息を呑んだ。目の前の男子が、私の元カレ・大志先輩にそっくりだったのだ。
元カレは私の1つ上で、同じ高校に通っていた先輩。高2の春に告白してOKをもらった日は夢のようだった。
私は東京の大学に行くと決めた大志先輩を追いかけるようにして、同じ学校へ進学。ところが彼はたった1年で大学を辞め、私とすれ違いで地元に帰り、父親の建築会社を継いだのだ。
― せっかく先輩を追いかけて、東京に出てきたのに。
そんな思いを抱えたまま、大志先輩と遠距離恋愛を続けていたが、彼は地元に好きな人ができたらしい。突然別れを告げられた。
必死で引き留めようとしたが、距離が大きな壁となり、次第に彼とは連絡が取れなくなった。そんな矢先、先輩にそっくりの亮太が現れたのだ。
亮太と目が合ったとき、咄嗟に私はこう声を掛けていた。
「君、よかったら読書サークルに入らない?LINE教えてよ」
そして猛アプローチの末、彼と付き合うことになったのだった。
元カレを忘れるために、亮太と付き合い始めた真由子だったが…
付き合って1年が経つ頃、亮太と同棲することになった。2人で世田谷線山下駅近くのマンションを内見しに行くと、セミの鳴き声に交じって懐かしい音が聞こえてきた。
それは、世田谷線の踏切音。
その音は大志先輩と何度もデートで使った、地元・伊予鉄の踏切音にそっくりだったのだ。私はまた、元カレとの日々を思い出してしまった。
― 私はまだ、大志先輩が忘れられないんだな。
そんな悲しみを振り切るかのように「ここのマンションがいい!」とはしゃぐ私を、亮太は優しい目で見つめていた。
引っ越しから数ヶ月後。私はあっという間に大学4年生になり、就活の時期がやってきた。
相変わらず亮太とは仲良くやっていたが、心のどこかで大志先輩を想う毎日。しかし彼に何度連絡しても、返信はなかった。
そんな矢先。愛媛で暮らす友人から「大志先輩が、地元の女と結婚したらしい」と聞いたのだ。
愛媛に戻れば、先輩とまた付き合えるかもしれない。そんな希望は、この瞬間に打ち砕かれた。
だから地元での就活を辞めて、東京に残ることを決めたのだ。
◆
それから4年ほど経ち、26歳になる誕生日の数日前。突然、大志先輩からLINEが届いた。
大志:俺、離婚するんだ
真由子:えっ…。本当ですか?
心配するふりをしつつ「これはチャンスだ」と思った。それから私は大志先輩を慰めながら、メッセージのやり取りを続けたのだ。
真由子:愛媛に帰るから、戻ったらまた付き合いませんか?
こうして私たちは、復縁することを約束。私は退職届を出し、亮太に別れを告げたのだった。
◆
そして、愛媛に帰る日。
亮太に最後の「いってらっしゃい」を告げ、同棲していたマンションを飛び出す。大志先輩が、山下駅まで迎えに来てくれることになっていたのだ。
しばらくすると、世田谷線の踏切音が聞こえてくる。
大志先輩を思って5年間聞き続けてきた踏切音。その音とともに、先輩との幸せな思い出が走馬灯のように駆け巡る。…そのときだった。
「真由子!」
なぜか遠くから、仕事に行ったはずの亮太の声が聞こえてきた。私は動揺しながらも、気づかないふりをして駅へと急いだ。
しかし、駅に大志先輩の姿はない。キョロキョロと辺りを見回しながら、私は必死で先輩を探した。
「お、真由子!久しぶり!」
そのとき、ゆうに100kgを超えていそうな大男に声をかけられた。彼は愛おしそうに私を見つめている。
「ま、まさか…。大志先輩?」
「あぁ。迎えに来た。さ、一緒に愛媛へ帰ろう」
Apple Watchが食い込んだ大志先輩の右手が、私の方へと伸びてくる。そのタイミングで、息を切らした亮太が私に向かって駆け寄ってきた。
「待って、真由子…!」
私は変わり果てた“初恋の人”と、その彼にそっくりだった亮太との間で、ただ茫然と世田谷線の踏切音を聞いていた。
▶前回:クレカの明細を確認したら、夫が月に200万も使い込んでいた。その理由を問い詰めると、まさかの…
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