「結婚するなら、ハイスペックな男性がいい」

そう考える婚活女子は多い。

だが、苦労してハイスペック男性と付き合えたとしても、それは決してゴールではない。

幸せな結婚をするためには、彼の本性と向き合わなければならないのだ。

これは交際3ヶ月目にして、ハイスペ彼氏がダメ男だと気づいた女たちの物語。

▶前回:「この部屋は…5点だね!」超キレイ好きの彼氏の発言に驚く女。彼を見返すための反撃方法とは?




Episode 7:美月(26歳・美容クリニック受付)の場合


― あれ、ちょっと目の下がたるんでない…?

化粧直しのために鏡を見ると、ため息が漏れた。

私が美容に目覚めたのは、大学1年のとき。まず、コスメやスキンケアにこだわるようになり、社会人になってからは、ニキビ跡のレーザー治療や、ほくろの除去もした。

そして、24歳の終わりに美容クリニックの受付スタッフに転職してからは、定期的にハイフの施術を受けたり、眉間にボトックス注射を打ったりしている。

26歳となった今でも、美容熱は日々高まる一方だ。

これには、アラフィフの美人院長がよく口にする「20代は、将来の自分のために美容医療をはじめる適齢期よ!」という言葉の影響も大きい。

けれど正直なところ、そんな先のことより、これから始める婚活に向けた目先のケアでもある。

いい男の目に留まるには、自分もいい女でなくてはならない。

― うーん…。やっぱり歯並びが先かなぁ?

もう一度鏡を見て、口を横に開く。下の前歯が1本、前に押し出されている。長年のコンプレックスだ。

歯科矯正の治療には時間がかかるから、婚活の前に始めるなら、今がそのときかもしれない。

クリニックの近くにある歯科に足を運んだ私は、マウスピースによる部分矯正をすることを決めた。

費用は、70万円。決して安くはないけれど、型取りが無事に済むころには、気持ちは晴れ晴れとしていた。

その数日後。

私がお昼休憩で外に出ると、1人の男性がさも親しげに声をかけてきた。それも、とびきりのイケメンが…。


美月に突然声をかけてきたイケメンの正体とは…?


「こんにちは!お昼休憩ですか?僕も、今から昼ご飯なんです」

場所は、クリニックの近くにあるデリ。

驚いて振り返ると、背後に1人の男性が立っていた。

167cmで、さらにハイヒールを履いている私が見上げるのだから、おそらく彼は180cm以上の長身。顔は小さく、俳優の佐藤健によく似ている。

― 誰?このイケメン…。

私がポカンとしていると、彼は、あごの下にずらしていたマスクを戻してみせた。

「あ、すみません!僕、そこの歯科の医師です。ほら、先週も…」
「えっ?先生!?ごめんなさい、わからなかったですっ」

そういえば、初めての診察のとき。

マスク姿の目もとが涼しげな印象だとは思ったけれど、その下の顔なんて想像さえしなかった。

ただ、残念なことに、このイケメンには治療中の鼻の穴が全開になった無防備な顔、それに、口の中も隅々まで見られているのだ…。

― いや、ちょっと待って!頭の中が追いつかない!

私は、途端に恥ずかしくなった。

「へえー大豆ミートのハンバーグと雑穀米か、いいですね!じゃあ、また診察のときに」

1人で赤面していると、彼は私が持っているのと同じ弁当を手に取って、レジへと向かった。

それからというもの、彼とは診察のときだけでなく、休憩時間にも顔を合わせることが増えた。

初対面から2ヶ月がたつころには、段々と緊張がほどけて親しくなり、ごく自然に交際が始まったのだった。




冬馬は、私より9個年上の35歳。

歯科医師でありながら、美容に関しても広い知識を持つ彼とは、共通の話題が多くデートはいつも盛り上がった。

これまでに付き合ってきた同年代の元カレたちとは違って、穏やかで落ち着いているし、私のメイクやヘアスタイル、ネイルなど見た目の変化にもよく気がつく。

そのうえ、イケメンでスペックも高い。婚活を始めようと思っていた矢先に、こんな出会いがあるなんてラッキーだと思った。

だが、交際開始から2ヶ月たったころ。

「美月ちゃんは肌の色が白いから、歯もあと2トーンくらい明るくするといいよ!」

渋谷にある冬馬のマンションの近くで食事をしていると、さりげなく歯のホワイトニングを勧められた。思わず、ワイングラスに伸ばしかけた手をスッと引く。

さらに、彼は続ける。

「あとさ、上の奥歯なんだけど。1本だけ銀歯のままでしょ?そんなに見えるところじゃないけど、そのうちセラミックにしてもいいかもね」

これには、口を閉じて真顔になってしまった。

「そんなに…気になる?」
「うーん、笑ったときにちょっと見えるくらいかな」

目の前に座る冬馬は、歯の色も、歯並びもキレイに整っている。そんな完璧な口元で言われると、私はただ黙るしかなかった。

もっと嫌だったのは、その翌週。

生理前であごにニキビができている私のことを見て、彼は抑揚なくこう言い放ったのだ。

「今日、いつもよりメイクのノリが悪そうだね。もしかして、疲れてる?美容クリニックで働いてるんだから、自己管理はしっかりしないと!」

反論しようと思ったけれど、歯だけでなく、肌までキレイな冬馬を前にすると、また何も言えなくなってしまう。

― 冬馬さんに見た目のことを言われると、すっごく落ち込む…。

こうして、少しずつモヤモヤを溜めていった私は、ある人物に泣きついたのだった。


イケメンの彼氏に、見た目を指摘され続けた女が取った行動とは?



「麻未〜!急に呼び出してごめんね。ちょっと、彼氏の話を聞いてほしくて…」

すると、彼女は食い気味にかぶせてきた。

「彼氏っ?いつから付き合ってるのよ?…のろけ話なら聞かないよ〜!」

そこで、彼との会話の一部始終を話し、数日前にやり取りしたLINEも見せた。

冬馬:美月ちゃんは、背が高いし顔立ちもクールなタイプだから、今日みたいな可愛い感じはちょっと違うかもしれないね。メイクも変えてみたら?

冬馬は、LINEでもこんなふうに容姿のことを指摘してくるのだった。

そのたびに嫌な思いをしても反論できないのは、私が彼に敵わないと思っているからだろう。

すると、悔しがる私に麻未が鼻息荒く言った。

「彼に会わせて!」




冬馬と私と、麻未の3人で食事をしたのは、東京駅からほど近いイタリアンレストラン『ブリアンツァ トウキョウ』。

「初めまして。美月の高校時代からの友人の麻未です」
「初めまして!美月ちゃんもキレイだけど、麻未さん…モデルか何かされてるんですか?」

麻未は、早々に容姿に触れてきた冬馬をさらりとかわす。

「いえ、私がモデルだなんてとんでもないです!モデルをされていたのは、冬馬さんだって美月から聞いてますよ」

学生時代にモデル経験のある彼は、持ち上げられて気分がよさそうだ。

「うーん?まあ、少しだけですけど。それより、麻未さんは、普段美容のためにどんなことを?」
「私ですか?お恥ずかしいですが、特別なことは何も」

彼女は、高校時代から他校の男子生徒の間にファンクラブができるほどの美貌の持ち主だった。今は、当時よりもさらに大人っぽくなり、美しさに磨きがかかっている。

だから、冬馬もそんな彼女が何もしていないわけがないと、疑っているようだ。

「私、外見を磨くことも素晴らしいと思うんですけど、どちらかというと内面を重視しているんです。

ほら、20歳の顔は自然から授かったもの。30歳の顔は自分の生き様って言うじゃないですか。冬馬さんが今も素敵なのは、きっと…そういうことですよね」

これには、彼も返す言葉がないようだ。その後、容姿の話題に触れることはなかった。



思い返せば、私が美容に興味を持つようになったのは、麻未に憧れたのがきっかけだ。

彼女は、昔から凛としていて、自分をしっかり持っていた。他人に左右されないのだけれど、心が柔軟でかたくなではない。そういう内面からにじみ出る人柄も、麻未の魅力なのだろう。

かたや私は、いつからか外見の美しさに固執するようになり、いい男から“選ばれようと”必死になっていた。

― 私がなりたかったのは、こんな女性じゃない…よね。

その日の夜遅く。冬馬から送られてきたLINEには、こう書かれていた。

冬馬:美月ちゃんの友達って美人だけど、僕たちとは少しタイプが違くない?難しそうっていうか、自信家っていうか。ちょっと苦手かな。

美月:そっか。麻未は、昔からの私の親友で、憧れなんだ。その人のことを悪く言う冬馬さんと、私は付き合い続けていけそうにないかも。

こうして、私たちは3ヶ月で別れることになった。

私は、歯科矯正の治療が終わる1年後を目安に考えていた婚活のスタートを、延期することにした。

麻未の言葉は、私にも刺さったのだ。

このまま年齢を重ねていっても、無理に取り繕われただけの、中身のないぼんやりとした顔になってしまうだろう。それに、また、外見やスペックだけで相手を選んで失敗してしまいそうな気もする。

自分の内面が変われば、きっと出会う相手も変わる。そう思うと、いつか始めるであろう婚活が、少し楽しみになってきた。

▶前回:「この部屋は…5点だね!」超キレイ好きの彼氏の発言に驚く女。彼を見返すための反撃方法とは?

▶1話目はこちら:「今どのくらい貯金してる?」彼氏の本性が現れた交際3ヶ月目の出来事

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