「女の幸せは、やっぱり結婚」そう豪語する女が、自慢の婚約者の目の前で暴露された秘密
―…私はあんたより上よ。
東京の女たちは、マウントしつづける。
どんなに「人と比べない」「自分らしく」が大切だと言われても。
たがが外れた女たちの、マウンティング地獄。
とくとご覧あれ。
◆これまでのあらすじ
アイドル・凜香を食事会に誘った真帆。その会で、真帆は雄大にアプローチしたが、彼は凜香にロックオン。一見、真帆の敗北に見えたが、実は雄大は真帆が仕込んだ男だった。しかし…。
真帆:「もしかして…」
男から連絡がこないということに、ここまでモヤモヤしたことがあっただろうか…。
「もう、何なのよっ…!!!!」
雄大へのメッセージは一向に既読にならず、私は思わずスマホをソファに投げつけた。
先週、天敵である凜香に<どっちがモテるか勝負しよう>と戦いを挑み、食事会をセッティングした。
けれど、<どっちがモテるか>なんて、あくまで名目。
男性幹事・雄大は私の仕掛人で、彼に凜香を誘惑してもらい、ゴシップ感のある写真を撮ってもらうように頼んでいたのだ。
そして計画通り、雄大は凜香と同じタクシーに乗り込み、夜の街へと消えて行った。
しかし…。
待てど暮らせど、雄大から連絡がこない。
彼は凜香に本気になってしまったのだろうか。もしくは、凜香に寝返ったのだろうか。
「待って、もしかして…」
雄大はもともと、凜香側の人間だったのだろうか…。
最悪な妄想が様々に頭を駆け巡る。
どれが正解なのかはわからない。けれど雄大からは、私が頼んでいた写真が送られてくることもないどころか、何の音沙汰もない。
それは、私の作戦が失敗したという何よりもの証拠だった。
「凜香のやつ…」
私は、再びはらわたが煮えくり返えるほどの怒りを、持て余すしかなかった。
凜香に罠を仕掛けたつもりが失敗に終わった真帆。彼女の次なる作戦とは?
凜香「いい気味」
雄大は、もともと私の友達だ。
私がアイドルとしてブレイクするちょっと前に出会って、少し遊んだ。雄大には婚約者がいたし、私も雄大レベルの男では結婚相手として物足りない。
けれど、お互いルックスが好みな私たちは、ちょうどいい遊び相手だったのだ。体の関係だってある。
それにしても、港区というか…港区のほんのごく一部のコミュニティーというのは、非常に狭い。すぐに繋がる。
今回の一件は、神様の悪戯なんじゃないかというレベルの偶然だったけど。
雄大が最近、真帆と出会って、「凜香を陥れたい」という提案をされたのだというのだから。
真帆もまさか私たちが繋がっているなんて夢にも思わなかったのだろう。しかも、そこそこ長い間親しくしていたなんて。
最近知り合ったばかりの女と、体の関係があるアイドルの私。
雄大は迷うことなく私サイドについてくれて、すぐに真帆の計画を私に密告してくれた。
ちょっと面白そうだったから、食事会に行って、まんまと計画にハマるふりだけはしてみたのだ。
真帆、今頃悔しがってるんだろうなぁ。
あぁ、いい気味。
◆
「同窓会かぁ…」
企画好きな同級生が、思いつきでたまに開催する同窓会。真帆との食事会から1週間ほどだった頃、その案内が来た。
仕事が忙しくて、もうかれこれ5年以上は参加していない。今も忙しいことに変わりはないけれど…。
参加者リストには、私の心を刺激する名前があった。
真帆。
もちろん、あの食事会以来、彼女には会っていない。私の顔を見たら、彼女はどんな反応を示すのかしら。
想像するだけで、ニヤニヤしてしまう。
「ちょっとだけ顔出してみようかな…」
私は何の気なしに、その会に参加することにした。
◆
同窓会は、軽くマウントの取り合いをしにくる場として勘違いしている女が往々にしている。
絶対に自分の経済力じゃ手に入れられないであろうバーキンを、これ見よがしに引っ提げる女。
「最近、海外出張ばっかりで…」と、聞いてもいないのにハイキャリアをひけらかす女。
相手にはせず、俯瞰して観察するには面白い。
けれど、私が一番興味を持っているのはそんな女じゃない。真帆だ、真帆。
私の顔をみてどんなリアクションをするのか。暴言でも吐き捨てるだろうか。
小さなダイニングバーを貸切った、半立食形式の会場で私は真帆を探した。
すると、数人で楽しそうに歓談している真帆が、そこにいた。私は迷わず、その輪の中に飛び込んだ。
真帆から、地味に痛い反撃を受けることになるなんて露知らず…。
同窓会で1週間ぶりに再会する真帆と凜香。真帆が明らかにした、意外な事実…
「真帆、久しぶり〜」
私は、真帆たちが談笑するテーブルに割って入った。真帆以外の女3人は、よく知らない女たち。
高校3年間を共にしたわけだから、うっすら顔は見たことあるような気がするが、何の思い出もない。
こんな冴えない女たちと仲がいいなんて、何て低レベルなんだろう…。
私は少し軽蔑した視線で、真帆を見つめる。
「凜香…。来てたんだ…」
動揺していることがよくわかった。
「うん、ちょっと時間できたから少し顔出そうかな〜って。何の話してたの?」
この冴えない女たちとどんな会話をしていたか。そんなことに1ミリの興味もないけれど、その場を繋ぐために何となく聞いてみた。
けれど、ちょっと意外な言葉が返ってきてしまった。
「うちら、みんな今年入籍する予定なのよ!だから、そのあたりの話を色々とね」
― 入籍…。
「そうなんだ…」
一応婚活をしている身としては、その言葉は耳が痛い。けれど、結婚できれば誰でもいいわけじゃない。
私はアイドル。超大富豪と結婚することを目標に活動しているのだ。こんな庶民たちとは土俵が違う。
すぐに気持ちを立て直したのだが、一番冴えない女がいらない情報を私に与えてきた。
「真帆ね、すごいんだよ。名古屋の超御曹司と結婚するんだって」
少しずつ、真帆の顔に自信がみなぎってくる感じがする。
「ちょっとぉ、そんなんじゃないってぇ…」
謙遜する言葉とは裏腹に、私に寄越す視線は強くなる。
「…そうなんだぁ、…何してる人なの?」
その視線は、私をじわじわと不快にさせる。
― …でも、きっと所詮たいしたことのない男だろう…。
「う〜ん、まぁいくつか会社経営してるってだけだよ。代々続いている感じのやつ」
名古屋で働いている男と婚約していることは、事前の調べで知っていた。
だけど、超御曹司?そんなことは聞いていない。私の願いとは裏腹に、真帆の左手の薬指から発せられる光は、真帆の言葉は、私の心をちくりと刺激する。
「そっかぁ、すごいね。おめでと」
話を終わらせようとしたけれど、真帆は止まらなかった。
「凜香は?結婚はまだなの?」
「いや、私はまだかなぁ」
「今はアイドルやっててチヤホヤされてるかもしれないけど、いつまでもそれが続くわけじゃないじゃん。そろそろ考えたら?」
真帆のストレートな言葉に、冴えない女たちは面食らっているものの、真帆はやめない。
「今チヤホヤされてるからって、タイミング逃すと婚期逃しちゃうんじゃない?アイドルなんて仕事で一生食べていけるわけないんだしさ。ほら、私は凜香を心配して言ってるんだよ?そろそろ、現実見た方がいいんじゃない?」
― こいつ…。
この前の鬱憤を晴らすかのような真帆の勢いに、私の中でぐつぐつと何かが煮えたぎっていった。
◆
真帆「女の幸せは結婚だけ」
こんなこと、私が胸を張って言えたことじゃないかもしれない。けど…、結局いい男と結婚できるかどうかが、どんな時代も女の幸せなんだと思う。
凜香の悔しそうな顔を見たら、少しは気分が晴れた。
『ル・パン・コティディアン芝公園』のテラス席でクロワッサンをかじりながら、ついこの前の出来事を思い出していた。
「真帆、元気だった?」
「うん、仕事が忙しくてずっとバタバタだったけどね」
今日は、1ヶ月振りに会う婚約者・大志とのデート。
大したトキメキを感じることはないけれど、私は絶対にこの男を逃がさないと決めている。
見た目も悪くない、御曹司。私のことを大好きで、大切に扱ってくれる。
結婚に最適な男なのだ。
「ねぇ、大志。結婚式楽しみだね」
「どうしたの、急に」
凜香の苦々しい表情を思い出しながら大志との将来を語ると、どことなく優越感を覚えられる。
あぁ、いい気味。
清々しい気分で、カフェラテに口を付けたそのとき…。
「あれ、真帆じゃん〜」
嘘みたいなタイミングで、あの女が現れた。
「凜香…」
偶然日比谷通りを通りかかったのだろうか。もしくは、私たちがここにいるのを知っていたのだろうか。
「真帆、この方は〜?」
真帆は妙に甲高い声で、大志を見つめる。
「あ…、婚約者の大志さん…」
芸能人に疎い大志は凜香のことは知らないようで、興味なさげにペコリと頭を下げるだけ。
「真帆、こんな素敵な婚約者がいるなんて知らなかったよ〜」
「あ、うん…」
凜香の満面の笑みは、どこか不気味に感じる。
「真帆〜、ダメじゃん〜」
「…え、何が?」
どことなく嫌な予感がする…。
「婚約者さんのこと大切にしなきゃぁ」
「…え?」
コーヒーに夢中になっていた大志が、ゆっくりとこちらに視線を寄越す。
「毎晩男漁りするの、もうやめなね」
「…」
「じゃ、私はこれで」
凜香は満面の笑みで、颯爽と去っていってしまった。
とんでもなく気まずい空気を残して…。
▶前回:「帰り、一緒の方面だよね?」食事会帰りのタクシー。女と同乗した男は、実は…
▶1話目はこちら:清純派のフリをして、オトコ探しに没頭するトップアイドル。目撃した女は、つい…
▶Next:6月12日 日曜更新予定
次回:真帆の些細な復讐に、黙っていなかった凜香。次に真帆が仕掛けるものとは一体…