うつ病が血液検査でわかる?新うつ病診断の可能性
世界で3億5千万人(世界保健機関2012年統計)がうつ病に罹っていると言われています。しかしながらうつ病は主に問診によって診断されているだけなので、客観的な検査結果に基づいた判断ではありません。
可能性で言えば、“うつ病でないにもかかわらずうつ病と診断されている”患者もいるということです。
現在まで診断するためのマーカーがないがために、主観的判断によってうつ病が診断されていますが、うつ病と診断されれば更なる不安に陥ったり、抗精神薬のような依存性のある薬を服用しなければなりません。このような問題に対して精神科医は診断精度向上のために日々努力をしているわけです。
そんな中、うつ病の診断に関して画期的な研究がなされ、数年後にもバイオマーカーによるうつ病診断が可能になろうとしています。
そこで今回は、薬剤師であり製薬会社の学術職での勤務経験もある筆者が、うつ病診断の未来予想について説明します。
■うつ病診断のバイオマーカーとは?読者の皆さんはバイオマーカーという言葉聞いたことありますか?
知恵蔵(2015)によると、「人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標」と書いてあります。
分かりやすく言えば、“血液検査でGOTがひっかかった。肝臓が悪いみたい”でいうGOTのことです。
糖尿病ではHbA1c(ヘモグロビンエイワンシー)をバイオマーカーとしています。要するに「血液中に〇〇という物質があったら(なかったら)〇〇という病気が疑われる」という判断材料です。
現在の医療現場ではうつ病というメンタルの病気に対してのバイオマーカーは存在しません。しかし、2013年にヒューマン·メタボローム·テクノロジーズ株式会社がうつ病のバイオマーカーを発見し、特許を取得しています。
“エタノールアミンリン酸”という元々血液中にある物質がうつ病に罹ると減少するという指標です。
このバイオマーカーは特許登録はされているものの、まだ診断薬としての許可が得られていないため、すぐに医療現場で活躍するということはありません。
現在は幅広い臨床での、より多くの診断実績を積んでいる状況です。2014年に行われている臨床研究では患者1085人、健常者72人に対して感度94.4%、特異度92.8%という素晴らしいうつ病の診断性能結果となっていますので、数年後には実際の医療現場で利用されているのではないでしょうか?
■うつ病の診断性能が向上するメリット上にも記載しているように、患者に対する精神的・肉体的負担を減らすことができるのはもちろんですが、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
精神疾患の診断で誤診が多いと言われるのが、“うつ病”と“躁うつ病(双極性障害)”です。
名前が似ているんですが、症状までよく似ていて間違って診断してしまうことがある二つの病気です。
誤診の何が問題なのかと言えば、「治療方法が違う」こと。
服用する医薬品の差は明確で、躁うつ病患者がうつ病の薬を服用すると、症状が悪化してしまう可能性があります。当然、症状が悪化することによって強い自殺念慮を抱いてしまうことも想定できるわけです。
このように疾患と治療は対でなくてはならず、診断によって治療法を決定するわけですから、うつ病のバイオマーカーが実現することで医師・患者双方にメリットがあるだけでなく、患者を支えている家族や友人等の心に与える影響も大きいのではないでしょうか。
いかがでしたか。今回記載した内容については、うつ病バイオマーカーの特許取得済ですが診断薬の許可は今後の予定です。
ぜひ、うつ病の客観的な診断方法が確立し、うつ病で苦しむ方々を助けていただきたいですね。
【参考】
※ G-TAC、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社のうつ病バイオマーカーを提供開始 - ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社・G-TAC株式会社
※ 2017年3月期 第2四半期 決算説明資料 - ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社
【画像】
※ Eakachai Leesin / shutterstock
【筆者略歴】
言霊小町
薬学部を卒業後、製薬会社の学術職を経て、薬局・ドラッグストア業界で教育・採用などの業務に従事し数百名の薬剤師を育成。現在は独立し、薬剤師の転職を支援する会社「薬剤師キャリア」を運営している。