かわいらしい絵柄と優しい色使いの漫画やイラストが、青春の1ページや幼いころを思い出させてくれる。そんなほっこりした気持ちになれる世界を、SNSにアップしている前川わかば(@_wakaba_14)さん。MVへのイラスト提供もしているという作者に、どのように作品が生み出されているのか、話を聞いた。

【漫画】「もしかしたら気づいてくれるかな…?」かわいくなるために努力する女の子の姿がいじらしい

どうか振り向いてほしくて…あなたを想うだけでわたしはいっぱいがんばれる(「可愛くなりたい」より)


■自分のときめきを大切に。共感を呼ぶエピソードがたくさん

「あたたかみのある色合いが昔から好きだったので、青春系や日常系のイラストにはぴったりだと思います」という前川さん。住んでいる埼玉県は、作品に出てくるような自然豊かな場所だという。しかし、「一番近いコンビニが3キロも先にあるので少し不便です…」とのこと。

作品制作時には、自分自身のエピソードを元にすることが多いそう。「最近では、姉弟あるあるの『それ私の!』という作品を描きました」

漫画「可愛くなりたい」は、友達のアドバイスを受けて髪の毛を結んでみたり、メガネからコンタクトに変えてみたり、メイクを頑張ってみたり…と、少しずつ変わっていく女の子が描かれている。気になる男の子が誉めてくれたり、かわいくなった姿を見て照れた顔を見せたり…と、キュンとするやりとりが続く。「以前フォロワー様からエピソードを募集し、描かせていただいた作品です」と前川さん。「9ページ目が好きです。垢抜けた女の子の顔、それに気づいた男の子の顔がかわいく描けました」と教えてくれた。

可愛くなりたい(1)


可愛くなりたい(2)


可愛くなりたい(8)


可愛くなりたい(9)


後日、同じ女の子が登場するイラストも投稿されている。「変わりゆく女の子の見た目をコンパクトに伝えること、そして、この作品のポスターのようなイメージで作りました」

可愛くなりたい(イラスト)


「この町で育った」は、駄菓子屋さんとそのお客さんである男の子を描いた作品。お菓子を手にお店のおばあさんと笑い合う幼少期、友達とおしゃべりしながら店の前を通り過ぎる学生時代、シャッターが閉まったお店を目にする旅立ち前…。ほんのり切なく、多くの人が経験したことがありそうな光景を優しく表現している。「今は閉店した、小さなころによく行った駄菓子屋さんをモデルに制作しました。1ページ目の、小さなころの僕とおばあちゃんが幸せそうに笑い合っているシーンがお気に入りです。私自身もとても気に入っている作品ですが、フォロワー様から『こんな経験あったな〜』『悔いのない時間を過ごしたい』『感動した』など、たくさんうれしいお言葉をいただきました」

この町で育った(1)


この町で育った(3)


この町で育った(5)


■セリフは最小限。イラストから気持ちが伝わる

「少しの大きな勇気」は、駅のホームに並んで立つ先輩と、後輩の男の子の話。スマホを見ている先輩を水族館に誘う姿からドキドキが伝わってくる。「作品を描く際には、自分のときめきを大切にしています」

少しの大きな勇気(1)


少しの大きな勇気(2)


少しの大きな勇気(3)


漫画には、セリフがほとんど出てこないのが特徴。「全世界の人に楽しんでいただくためです。私のフォロワーは外国の方も多いので、イラストの強みを活かして、セリフなしの作品を作ることが多いです」

イラストも、緊張感が伝わってくる陸上大会の1シーンや男の子とネコの頑張りが微笑ましいもの、観覧車をバックに記念撮影をしている男女など、シチュエーションはさまざまながら、優しい気持ちにさせてくれる作品ばかり。「”常に最新のイラストをよいものに”をモットーにしています」

信じ合える仲間と努力があるから


幸せな時間


現役の美大生だという前川さん。「インダストリアルデザイン(工業製品などのデザイン)を専攻しています。イラストとは違った精密さが求められ、また違った楽しさがあります」

学生ながら、MVでのイラスト提供なども行なっている。そのきっかけは、「大学に入ってからiPadを手にしたことからイラストを描き始め、Instagramにイラストを投稿していました。そこから、『軽美術部』というイラストレーターを取り上げるアカウントでご紹介いただいたことが大きかったと思います」

現在は、『ハルやすみっ』という、TikTok上で配信している漫画のイラストも手がけているそう。「作家さんや編集者さんなどと協力して、1つの作品を作っていくのがとても楽しいです」

作品を描く際に気を付けていることは、「キャラクターをかわいく描くことです。それは以前から変わりません。今一番大切にしていることは、見てくれる方に共感していただけるような作品にすることです」という前川さん。これからしてみたいことについては、「昔から児童書など子どもに関わる仕事がしたいと思っていたので、いつか叶えたいです」と教えてくれた。かわいいタッチで描かれる作品を、これからも楽しみたい。

取材・文=上田芽依