ドラマ、映画、舞台で活躍し、26歳にしてすでに13年のキャリアを築く上白石萌音さん。

昨年、演劇界の栄誉ある賞を史上最年少で受賞し、早くも“大女優”を予感させる彼女を、銀座らしい上質な焼き鳥店にお連れした。

上白石さんが語った、女優としての強い意志、憧れる“大人”とは?2023年についても振り返ってもらった!


「銀座は観劇で来ます。私にはブランド店はハードルが高い(笑)」

「希少部位は普段あまり食べる機会がなくて」と話していた上白石さんだが、職人技が息づく「膝軟骨」に対して見事な食レポを披露してくれた


撮影前には「食レポを求められても、きっと美味しいとしか言えないと思います(笑)」と照れ臭そうに話していた上白石さんだったが、いざカメラを向けられると『焼鳥 ひら野』の串の魅力をシズル感たっぷりな言葉で次々に表現。

中でも皮についての見立ては素晴らしかった。

焼き鳥ツウの間では“皮をきちんと焼ける店は一流店”とされるが、そのことを「皮を食べると、美味しい焼き鳥屋さんかどうか分かりませんか?こちらのお店は、パリパリやクニュクニュの食感に加えてフワフワがある。まさに“皮革命”です!」と、無邪気にして鋭く突いてきたのだ。

12歳で芸能界に入り、近年俳優としては主演を続ける活躍ぶり。

歌手としても「日本武道館」などの大舞台に立つ彼女だけに、仕事で会食することも多いだろうし、舌が肥えていても不思議はない。

ただ、ご本人に問うと、「今回のように焼きたての焼き鳥が一本ずつ出てくるお店に行ったことはほとんどありません。ましてや銀座だなんて」とはにかみながら返された。

かつて、とあるバラエティ番組に出演した時には「たまにひとりで“銀ブラ”する」と話していたのだが、それについて突っ込むと、「ちっとも優雅なものじゃなくて」と言い、目を細めた。

「銀座の周辺には劇場がたくさんあるのでよく来るのですが、開演前の時間潰しで散歩したり、楽屋見舞いの差し入れを買いに東急プラザやミッドタウンに行ったりする程度。

高級ブランドの路面店は私にはハードルが高いから、遠巻きに眺めてばかりなんです(笑)」


マルチに輝く上白石萌音が考える“平凡”であり続けることの意味


26歳という年齢だけを考えれば納得だが、こうも思う。“上白石萌音”という人は普通の26歳ではない。

今年は宮崎 駿さんの不朽の名作『千と千尋の神隠し』の舞台を通じて、ミュージカルの聖地であるロンドンの“ウェスト・エンド”に立つのだから。しかし、彼女は言う。




「私自身は平凡。平々凡々です」

そして、毅然とした面持ちを変えぬまま、次のように続けた。

「浮ついてなるものか、と思っています。

芸能のお仕事をしていると、たくさんのお客さまの前に立てたり、憧れていた人に会えたり、褒められたりして、放っておいたらいくらでも調子に乗れてしまうけど、そういう環境に慣れることに危機感を抱いています」

何か特別なきっかけがあったのではないという。デビューして自分の名前が知られていくうちに、自然とそうした気持ちが芽生えていった。

「天邪鬼なのかな、つい逆行したくなってしまうんです。“いつまでも変わらないね”と言われたい」

そのあり方はSNSとの付き合い方にも表れている。

例えばInstagramのフォロワー数は107万人を誇るが、彼女自身はその数や、コメントの内容に依存し過ぎないらしい。

「自分の回りの小さくともリアルな人間関係を大切に育てていきたい」そうだ。

では、そんな上白石さんが憧れる“大人”とは?

「地に足をつけて生活している方。“千と千尋の神隠し”で“リン”を演じられた元宝塚歌劇団の咲妃みゆさんは、一緒に旅行するくらい仲良くしていただいているのですが、本当に素敵で。

レストランに出掛ける際も、上品で華やかであると同時に、その場に失礼にならないTPOに応じた装いを選ばれる。思慮深くて、尊敬しています」


「昨年はプライベートも充実した一年。もっと広い視野をもちたい」


上白石さんが話す内容にはブレがない。自分の中にしっかりとした意思があるのだろう。

その感想を伝えると、彼女は嬉しそうな顔になった。



上白石さんは「うちのおじいちゃんでも食べられるくらいジューシーで柔らかい!」と独特の表現で感動を露わにした


「2023年は、お仕事だけでなく、プライベートでやりたかったことにも取り組めた一年だったんです。バランスが取れて、人間らしくなれた感じ。

妹には“お姉ちゃん、戻ってきたね”という言葉で歓迎されました(笑)」

どうやら勉強に励んでいるらしい。主たるテーマは国際情勢。その学びの中で気付かされたことがある。

「世界ではさまざまなことが起こっているのに、まったく分かっていなかった。それでも生きてこられてしまった。これからはもっと広い視野をもって物事をとらえていきたいです」

知識の分だけ世界は広がり、自分自身の選択肢が増える。

世間に広く知られた“上白石萌音”という名前をもつ彼女なら、影響力を発揮できるかもしれない。そう告げると、今度はこんな話をしてくれた。

「子どもの頃から両親に社会に貢献する人になってほしいと言われていて、現在は日本赤十字社のアンバサダーにも任命いただいています。

芸能人のボランティア活動については売名行為と非難されることもありますが、どなたかが“名前を使うことの何が悪いのか。使って現状が良くなるなら、どんどん使ってやれ”とおっしゃっていて、私にはその発言がまぶしかった。

自分の知らないところで名前が知れわたっていくことを怖いと思うこともあったし、いまも楽観視するまでの余裕はもてないけれど、理想とする生き方のスタンスを見つけられたような気がしています」

現在公開中の主演映画『夜明けのすべて』では、月に一度のPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられない藤沢さんという女性を演じるが、「本作品がその辛さを理解するきっかけにもなったら嬉しい」と話す。

「手前味噌になってしまうかもしれませんが、本当に素敵な仕上がりで、個人的にも大好きな作品。

ほっこりと温かい気持ちになれるはずです」

確かに、無理に盛り上げたようなところが一切なく、心にそっと寄り添ってくれる作品だ。それでいてじわじわと引きつけられる。

地に足をつけて生きることを望む上白石さんが演じるからこそ、なおさら説得力が増すのかもしれない。

役者の人柄が出るから、芝居は面白い。

それは芝居に限らず、人間が関わる物事全般にいえることだが、その事実を上白石さんのインタビューをとおして再確認できたような気がする。



― Information ―
主演映画『夜明けのすべて』が2月9日(金)より全国公開!

人気作家・瀬尾まいこさんの小説を国内外の映画祭で脚光を浴びた三宅 唱監督が映画化。

上白石萌音さんと松村北斗さんのダブル主演で、生きづらさを抱えた者同士の交流を描く。


■プロフィール
上白石萌音 1998年生まれ、鹿児島県出身。2011年「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、芸能界デビュー。2023年には、第30回「読売演劇大賞」の最優秀女優賞を史上最年少で受賞。歌手としては初の武道館ライブを開催。新曲『Loop』が配信中。

■衣装
ドレス 108,900円〈コート/イザ TEL:0120-135-015〉、イヤリング 396,000円、リング 286,000円〈ともにロイヤル・アッシャー/ロイヤル・アッシャー カスタマーサービス TEL:0120-407-957〉、バッグ 171,600円〈ジミー チュウ TEL:0120-013-700〉

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東京カレンダー最新号では、上白石萌音さんのインタビュー全文をお読みいただけます。
東カレに語ってくれた、公開中の映画『夜明けのすべて』での松村北斗さんとの撮影裏話とは?

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