田舎者だと思ってた…上京してきた彼の妹を“回転寿司”に連れて行って恥をかいた29歳女
「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」
そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。
彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。
男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。
でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。
▶前回:意中の外銀男子からの質問に答えられない。“ありきたりな女”が陥りがちなデートの失敗とは
Vol.8 元・港区女子の美里、29歳。
「ねえ、この俳優知ってる?」
私は、ソファでテレビを見ながら言った。
隣には大好きな彼氏の誠(まこと)がいる。Netflixで見るものが決まらず、なんとなくふたりでテレビのバラエティ番組を眺めている。
「いや。最近の若手俳優は、全然わかんないな」
誠が答えた。
彼は、港区の総合病院に勤務している小児科医。毎日忙しくしているので、芸能人に疎くて当然だろう。
「昔、西麻布で一緒に飲んだことがあるんだけど。その頃はこの人、無名だったの」
私は、ロンネフェルトの紅茶を飲みながら言った。
「へ〜。もしかして、付き合ってたとか?」
「それはないよ。連絡先は交換したけどね、まさか、妬いてる?」
「ううん。過去のことは、どうでもいいから」
誠は笑いながら答えたが、少し機嫌を損ねたように見えたので、私は彼の腕に抱きつく。
大学生の頃、容姿に自信があった私は、六本木や西麻布でよく遊んでいた。
今でこそ、ステータスを重視して男性を選んでいるところがあるが、若い頃はとにかく有名人やイケメンが大好きだったのだ。
俳優やアイドルの卵とよく飲んでいたし、クラブのVIPルームは私の居場所だった。もちろん、クラブの列に並んで入ったことなんかない。
他の子に申し訳なくなるレベルで、どこでもチヤホヤされた。
「でも、今はまーくんだけだから。安心して」
「うん。あ、そうだ。今度妹が札幌から遊びに来るんだけど、美里も一緒にランチとかする?」
誠に言われ、私は笑顔になる。
― 妹ちゃんを味方につけておいて、悪いことはない!
「するする!私、お店探して予約しておくよ。東京っぽい映えるレストランがいいかな」
私はすぐにスマホでInstagramを開き、若い子が喜びそうなお店を探し始めた。
彼氏の誠に「妹と一緒にランチをしないか」と誘われた。その時の美里の魂胆は…
私たちは、かなりうまくいっていると思う。
誠が忙しくて頻繁に会えなくても文句を言ったことはないし、連絡もしすぎることはない。可愛くない束縛はしないし、無駄な嫉妬もしないようにしている。
だから、誠と結婚できるチャンスを自分のわがままで無駄にすることなど、絶対に許されない。そんなことをすれば、今までの努力が水の泡だ。
今はまだ勤務医だが、誠のお父さんは千葉で小児科のクリニックを開業している。つまり、彼と結婚すれば、ゆくゆくは院長夫人になることが約束されているのだ。
ならば、ちっぽけな不満など自分の中で消化すればいいだけのこと。
若い頃に遊んでいた、いつ芽が出るかわからない若い俳優など、今は全く興味がない。将来が保証されている誠こそ、私の夫にふさわしいのだ。
― 20代で気づいた私、賢いな〜。
誠が帰ったあと、お風呂に入りながら自分の未来の姿を想像した。
間違いなく、絵に描いたようなセレブ妻になれるだろう。
「ふふっ。今日はこれにしよっと」
私はコレクションしているボディソープの中から、エルメスのナイルの庭の香りを選び、幸せな気分を存分に盛り上げた。
◆
「美里、妹の澪。で、こちらが僕の彼女の美里」
「美里さん、どうも。はじめまして」
誠と澪が一緒に登場する。
「こんにちは!北海道からはるばるありがとう。美里です。よろしくね」
さすが誠の妹だ。地方に住んでいる子は、もっとあか抜けないと思っていたが、着ているものもバッグもブランドもので、華やかだ。
「原宿は初めて?人多くてびっくりしたでしょ」
「あ、えっと…はい。大人になってから原宿は初めてですね」
きちんと敬語で受け答えするところも、好印象だ。
この子なら私の義理の妹になっても問題ない。そう思えた。
「お寿司好きかな?あ、生ものがダメだったら、フライドポテトとかクレープもあるからね」
私は事前に調べた店の情報を告げた。
あまり高いお店は緊張してしまうかと思い、原宿の回転寿司で待ち合わせをしたのだ。
メディアによく取り上げられていることもあり、東京に憧れているなら嬉しいだろう。
「回転寿司か…」
美里が無意識に見下していた、誠の妹が実は…
澪がつぶやいたのが聞こえたが、私たちはそれぞれ食べたいものを注文し、色々な話をした。
「私、ひとりっ子でね。お兄ちゃんがずっと欲しかったの。だから澪ちゃんがうらやましい !」
「そうですか。全然あげますよ。っていうか、ふたりは結婚するの?」
― おぉ、妹よ、ナイスアシスト!
思わず、顔から笑みがこぼれ、誠の顔を見てしまう。
「そうだね。考えてないことはないよ。美里は素直で明るくて優しいし、気も使えるからね」
誠に褒められたのが嬉しくて、思わずビールを何回もおかわりしてしまう。
そして、話題はそれぞれの過去の話へ。
「若い頃は危ない遊びも結構しちゃって、親を心配させちゃったなぁ。特定の彼氏も作らず朝帰りを繰り返してたから、反省してるの」
私がそう言うと、澪の眉間に一瞬シワが寄った。真面目そうな子だから仕方ない。しかし、いずれ義妹になるのなら、私のすべてを知ってほしかった。
「前は平気で8股とかしてたから…ヤバいよね。でも、そんな私を変えてくれたのが、誠なの。本当感謝してるんだ」
手に負えなくなった男関係と、お酒にまみれた週末が嫌になり、連絡先を全消去しLINEも初期化した25歳の夏。
誠と出会ったのは、それから1年後だ。
「そうですか。でも、今はお兄ちゃん一筋みたいで安心しました」
澪は微笑みながら言った。
彼女はお腹が空いていないのか、お寿司はほとんど注文せず、デザートのアイスを少しずつ食べている。
「ありがとう。これからよろしくね。澪ちゃんに会えてよかった!」
「私もです。どんな方なのか気になっていたので。美里さんのお話、面白かったし」
誠が会計を済ませ、兄妹で話すことがあるというので、原宿の交差点で解散した。
澪が私の義妹になれば、東京に来るたびに話題の店へ連れて行ってあげたりできる。今度は、新大久保にでも連れて行ってあげよう、と計画を立てながら家に帰った。
美里との結婚に踏み切れない理由 〜誠の場合〜
「お兄ちゃん、見る目なさすぎ。どうしちゃったの?」
美里と別れたあと、妹の澪はため息をつきながら言った。
「あはは。やっぱりそう思っちゃうよな、お付き合いありがとうございます」
僕は、苦笑いしながら答えた。
美里はたしかに良くしてくれたが、僕も時々気になっていた悪い癖が出ていたと思う。
「美里さんの話ほとんどが黒歴史の披露だったじゃん。それを自慢げに話しちゃう感覚が、ちょっと…」
「うん。言いたいことはわかる」
澪が指摘したことが、ズバリ僕が結婚に踏み切れない理由だ。
過去の男関係や、遊んでいたことは男なら誰でも聞きたくない。しかも、それを武勇伝かのように話すのは論外だ。
それに、澪のこともなんとなく見下している気がした。
澪は、学生時代に家族で行った北海道旅行で、豊かな自然のトリコになり、父親を説得して北海道大学の医学部に進学した。
そして、学生時代に芸能の仕事に夢中になり、現在はフリーでアナウンサーをしている。
だから澪は、北海道で旨い海鮮を飽きるほど食ベているはずだ。
それでなくとも、美食家の両親のおかげで、僕らは子どもの頃から美味しいものを食べてきている。
東京では、父の行きつけのお寿司屋さんに毎週のように行っていた。
「美里は澪を喜ばせたかっただけだと思うよ?」
僕は一応、美里の味方もしておいた。
「だったら、もう少し私のことをリサーチしてもいいんじゃないかな。ググれば出るんだから」
「まさか彼氏の妹が、Wikipediaに載ってるとは思わないだろ」
澪は、自分の経歴や現在の仕事を話さなかった。
もともと、ひけらかすことはしないし、僕を立てるために聞き役に徹してくれたのだろう。
そういうところは、我が妹ながら素敵だと思った。
「お腹空いた。昔よく行ってた銀座のお寿司屋さんに行こう。まだ16時だけど、開けてくれないか聞いてみるよ」
「うん。じゃあシャネルにも寄っていい?新作のお洋服が見たい。お兄ちゃん、担当さんに電話して」
「OK」
僕は、タクシーを拾い妹と銀座へ向かった。
妹が女性として完璧に近いのも、僕の見る目が厳しくなっている原因なのかもしれない。
今後の美里との付き合いをどうしていくべきか、考える必要があるだろう―。
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「自分の市場価値をわかっていない女」の必死の奮闘