年収“8ケタ”(1,000万円以上)を稼ぐ女性たち。

給与所得者に限っていえば、年収8ケタを超える女性の給与所得者は1%ほど。(「令和2年分 民間給与実態統計調査」より)

彼女たちは仕事で大きなプレッシャーと戦いながらも、超高年収を稼ぐために努力を欠かすことはない。

だが、彼女たちもまた“女性としての悩み”を抱えながら、日々の生活を送っているのだ。

稼ぐ強さを持つ女性ゆえの悩みを、紐解いていこう――。

▶前回:年収2,500万の開業医。夫との冷え切った夫婦生活に絶望する女医は…




File2. 沙織、年収1,200万円。コロナで楽しみを奪われて…


「さてと、インスタをチェック…」

沙織は通勤電車に乗り込むと、バッグからスマホを取り出した。この時間は、お気に入りのK-POPグループのInstagramをチェックするのが日課となっている。

自宅の最寄り駅から地下鉄で15分。すぐに、オフィスのある大手町駅に着いた。

「さてと、今日も頑張ろう!」

大手町駅で地下鉄から降り、オフィスのあるビルに向かうのだった。



沙織は上智大学を卒業後、大手総合商社に入社。財務経理部に配属された。

経済学部で会計学を専攻し、入社後も財務経理一筋でキャリアを築いてきた沙織の現在の肩書は「財務経理部マネージャー」。

日本本社とグローバル各拠点とをつなぐリーダー的な役割を担っており、会議でも英語でファシリテートするなど、今では財務経理部の中核メンバーだ。

「中野さん、君の実力ならフロントで十分活躍できる。ぜひ営業への転向を考えてほしい」

実務能力も社内の評判も抜群の沙織は、このような言葉とともに何度も営業職への転向を打診された。

しかし、数字の集計や分析という緻密な作業が大好きな沙織にとっては、財務経理部の仕事は営業職よりも断然魅力的なもの。そして何より、今の仕事は得意先の都合に振り回されることなく、ある程度自分でタスクをコントロールできる。

これは、沙織の趣味のK-POPに時間を使うために最も大事なことだった。

そんな沙織の年収は、事務職ではあるが総合商社というだけあって1,200万円を超える。36歳の今では、会社の自社株や今までの投資などを合わせると資産は5,000万円ほどになっていた。

同期入社の女性の多くは社内結婚したが、沙織はご縁がなく今も独身。それに対する寂しさを感じないと言えば、ウソになる。

でも…その寂しさを忘れさせてくれる存在こそ、お気に入りのK-POPグループだったのだ。


渡韓してのK-POPファン活動。今までつぎ込んできた金額を計算すると…?


金曜日の夜に羽田発の飛行機で韓国に行き、土日でたっぷりとコンサートやファンイベントを堪能。現地のエステや美容医療も受けて、日曜の夕方に帰国する。

こんな週末の韓国弾丸旅行に、最低でも月1回、多い時は月2、3回ほど行っていた。

そして、これだけ飛行機に乗っていたので、ビジネスクラスにアップグレードされることもしょっちゅうだった。




だが、沙織の“生きがい”とも言える、K-POPを中心とした週末弾丸韓国旅行が、ある時を境に突然できなくなった。

その理由は…そう、新型コロナウイルス。

もちろんK-POPファンとして今でもライブ配信などに課金をしているものの、韓国への渡航が難しい今はできる活動も限定的だ。

大好きな韓国旅行に行くことができなくなり、沙織は塞ぎこんでいた。



― ところで…私は今まで一体いくらK-POPや韓国旅行につぎ込んだのかしら?

韓国への渡航がままならない状況が続く中で、沙織はふと疑問に思った。こう思うと計算してみないと気が済まない沙織は、頭の中でざっと計算してみる。

航空券は、行き先が韓国と短距離な上に、コロナ前で格安航空券も充実していたので、往復4万円ほどだった。

そして、現地ホテル。ホテルには妥協したくない沙織は、新羅ホテルやロッテホテル、ウェスティンなどの定番をローテーションして2泊で5万円ほど。

航空券とホテル代のほかにも、コンサートや現地での飲食、エステなどを入れると、1人での旅行でも1回で15万円ほど使っていた。

さらに、1回の旅行額を計算したあと、これまでどのくらい渡韓したのか計算してみた。

コロナ前の2019年のスケジュールアプリで確認すると、なんと…15回も韓国に行っていた。ということは、単純計算で1年で225万円使っていることになる。

しかも、そんな生活を2014年頃から送っていた沙織。とすると、K-POPのための韓国旅行の出費だけでも今まで1,350万円ほど費やしていたのだ。

― うわっ、今までK-POPや渡韓に使ったお金は…年収を超えていたんだ。今は浮いてしまっているこのお金を、何か有意義なことに使いたい!

沙織は色々と考えを巡らせる。そして、あることを思いついた。

「…結婚する予定はないから、マンションでも購入しよう!」


マンション購入に、友人からまさかのダメ出し?


韓国旅行ができなくなってから塞ぎこんでいたが、マンション購入という目標ができ、沙織は元気を取り戻した。

ほとんどの女性は30代になるとライフステージの変化が起きるものだが、沙織は趣味以外、変化のない淡々とした日々を過ごしていた。

だが、マンション購入という新しい目標のおかげで、情報収拾をしたり内見に行ったり、沙織の毎日は精力的に変わったのだった。



ある土曜日。

沙織は『ダルマット恵比寿』で大学時代の同級生3人とランチをしていた。

季節のパスタを堪能しながら、近況報告する。

「沙織は最近どう?仕事、忙しいの?」

― ついに、マンション購入をみんなに報告できるわ!

話を振られた沙織は少々舞い上がりつつ、こう報告した。

「うん、実は…私、マンションを購入しようと思ってるの!」

しかし、そこに水を差したのは、友人の1人である専業主婦の久美子だった。




「えっ!女1人でマンション買うの?まだ結婚する気があるのなら、もう少し慎重になったら?」

久美子はさらに話し続ける。

「マンション購入ってことは、ローン組むでしょ?もし結婚したい人が現れたとしても、借金がある女と結婚したい男の人はいないよ。それに、マンション目当てで、変な男が寄ってくるかもよ」

4人の中で唯一独身の沙織を、ここぞとばかりに痛めつける言葉ばかり。

― 何で…久美子にこれだけ言われなきゃいけないのよ…!

沙織はこう心の中で思いつつも、ぐうの音も出ない指摘をされて落ち込んでしまったのだった。



2週間後の週末。

ランチの翌日、メンバーの1人の里穂から『2人で会おう』と連絡をもらった沙織は、待ち合わせしてバルで軽く飲むことに。

バルの席につくなり、里穂はこう口を開いた。

「ねぇ、こないだのランチ会、沙織きっと嫌な気持ちになっていたよね?久美子の言い方、あれはないよ。そもそも久美子に何も関係ないことなのに」
「大丈夫よ、ありがとう…」

沙織はこう返したが、続けて里穂はこう話続けた。

「肝心の沙織の話だけれど…。余計なお世話かもしれないけれど、自分のマンションを買う前に、不動産投資から始めてみたら?

自分が住むことだけ考えてマンションを買うと、人生で何か起きた時に対処できなくなるから、まずは投資用マンションを買って、マンションを所有することに慣れてから自分のマンション購入を考えてもいいんじゃない?」

― 里穂、わざわざ私のために時間を割いてくれるなんて…!

ようやく前向きになった沙織は、ワイングラスを目の前に微笑みながらこう言った。

「ありがとう。正直、久美子の言葉に落ち込んでいたけれど、少し元気になったよ」

その沙織の言葉に対して、里穂はこう返した。

「身も蓋もないこと言っちゃうけど…久美子って専業主婦だし沙織にしかマウント取れないのよ」
「えっ…?」

驚く沙織を前に、里穂は続ける。

「だって久美子はさ、正社員で働きつつ結婚して子どももいる私には強く出られないでしょ。沙織と同じく、私の年収も1,000万円を超えているしね。

久美子の旦那さんの会社、業績が悪化して給料頭打ちみたいだし、ああ言って溜飲下げているのよ…」

― 里穂、そんなこと思っていたの?腹黒っ…。

沙織はあっけにとられてしまうが、里穂は何のためらいもなくこう続けた。

「ねぇ沙織、久美子みたいな発言をする人は放っておいて、私たちは“資産を築く女”になればいいのよ。年収8ケタを超える私たちにしかできないじゃない?」

― そっか…結婚や子どもといった人生もいいけれど、私は私で割り切って“資産を築く女”を目指せばいいのか!

そう思うと、一気に元気が出てきた。

「はい!年収8ケタ稼ぐ私たちに乾杯!」

里穂がこう言って差し出したグラスに、沙織も自分のグラスで乾杯するのだった。

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